「鬼滅の刃」の致命的な設定ミスについて
「鬼滅の刃」には結末のモヤモヤを決定づけた致命的な設定がある
それは「鬼舞辻無惨が死んだら全ての鬼が滅ぶ」というもの
おそらく「始祖が死んだら何も残らない鬼」と「死んでも想いが受け継がれていく人間」死んでも多くの人に慕われる産屋敷と死ねば配下の鬼もろとも消える鬼舞辻を対比させるための設定だろう
しかしこの設定によっていくつかの問題が生じる
①浅草の珠世との会話が無意味になる
「鬼を人に戻す治療法を確立させたい」と言う珠世
「珠世さんが薬を作ってくれたら禰豆子だけじゃなくもっとたくさんの人が助かりますよね」と言う炭治郎
全ての鬼が滅ぶなら治療法も薬も必要ない為この会話はただ虚しいだけのものになる
その上禰豆子だけは土壇場で治療薬を使って人間に戻るので、都合よく感じられる
②鬼と仲良くする夢が叶えられない
炭治郎が胡蝶しのぶから託された鬼と仲良くする夢
託される前から鬼である珠世、愈史郎とは交流があったがその関係は仲良くというより協力に近い
しのぶに夢を託されてから鬼と仲良くする描写は無いし鬼が滅びるなら仲良くも糞もない
これもまた虚しい願望になる
最初から鬼を滅ぼすことを最終目標に据えていた場合、①と②のシーンは書く必要がない
③炭治郎の持つ優しさが損なわれる
「禰豆子を人間に戻し、他の鬼にされた人も治療薬で助ける」という方針がこの設定のせいで「禰豆子は人間に戻すが他の鬼にされた人は滅ぼす」へと変わるため、炭治郎が妹のことしか考えていない人間に見えてしまう
④行動に違和感が生じる
無惨が死ねば鬼は滅ぶことを炭治郎が知っていた場合、禰豆子が人間に戻れるかどうかの瀬戸際で無惨を倒したらもしかしたら禰豆子も消えてしまうかもしれない、と考えなければおかしい
そもそも「善良な鬼」とさえ発言していた炭治郎が殲滅を望んでいたのか疑問が残る
鬼が全て滅びることに葛藤する描写すらないのは不自然
最低限今までの炭治郎の在り方なら鬼殺隊との間で意見衝突する描写はあって然るべき
⑤治療薬が武器になってしまう
本来鬼にされた人を人間に戻す為のものとして作られた治療薬が、単なる無惨弱体化への切り札として扱われてしまう
ではどうすべきだったか
①最初から鬼を滅ぼすことを目標にする
②他の鬼を皆人間に戻してから無惨を倒す
③無惨を殺さずに生かしたまま捕えておき 残りの鬼を人間に戻す
④この設定自体を無くす
考えられるのは以上の4つだが、単純にこの設定をなくすのが1番早い
炭治郎は鬼舞辻無惨を倒すことを目指しているだけで鬼を滅ぼすことは目指していなかったのだから「無惨の死=全ての鬼の死」にはせず、あくまでも鬼が今後増えなくなるだけにとどめておけばよかった
各地に鬼の残りがまだいることにすれば前半の方向性「人間に戻す、仲良くする」も成立させられる
殲滅となるとどうしてもモヤモヤしてしまう
単純な勧善懲悪の形には落とし込まず、鬼の始祖を討った後残りの鬼を人間に戻す物語にした方が「日本一慈しい鬼退治」の名にふさわしかったと思う