人材紹介会社で採用した社員がすぐに辞めてしまった!返金してもらえる?
こんにちは。弁護士・ビジネスコーチの波戸岡光太です。
ここ数年、採用は売り手市場が続いています。
企業は人材確保のため、さまざまな採用を行っていますが、中でも人材紹介会社を経由した採用が増えています。
今回は、人材紹介会社にまつわるトラブル、特に採用した社員が早期退職した場合についてお話しします。
成功報酬型の人材紹介業
企業の人材不足を受けて、人材紹介会社は急増しています。
個人でも企業できるなど、比較的、新規参入がしやすく、また、“応募を待つ”従来型の求人媒体よりもスピード感があることで需要が高まり、急成長しているようです。
人材紹介会社の多くは成功報酬型です。実際に社員として採用したときに報酬が発生します。初期費用は掛かりませんが、報酬額はそれなりです。
ですから、せっかく採用した社員がすぐに辞めてしまっては、採用費用が無駄になってしまいます。そうならないためにも、人材紹介会社との契約は慎重さが要求されます。
社員がすぐに辞めたとき、返金してもらえるのか?
そもそも、人材紹介会社経由で採用した社員がすぐに辞めてしまった時、返金してもらうことは可能なのでしょうか。
返金してもらえるか、もらえないかは契約書次第です。ですから、契約を交わす前に契約書をしっかりとチェックする必要があります。
人材紹介会社に人材の紹介を依頼する場合、「人材紹介契約書」を締結することになります。社員の退職と返金に関する規定は人材紹介契約書に記載してあるので、その規定に従うことになります。
返金規定がどうなっているかは、紹介会社ごとに様々ですが、大きく2パターンに分かれます。
パターン①
「明らかに本人の責により解雇された場合、または自己都合により退職した場合」に返金されるという、解雇と退職の二つが記載されているパターン。この場合、自己都合退職だけでなく、求職者側に問題があった場合には解雇という措置によっても返金してもらえる余地があります。
パターン②
「自己都合により退職した場合」にのみ返金されるという、退職だけが記載されているパターン。この場合はパターン①と異なり、求職者側に問題があって解雇しても、自己都合退職でない以上返金は認められないことになります。
ですので、もし、契約書がパターン②のような場合は、求職者が解雇されたときの返金はどうなるのか、パターン①のような文言に変更するのかなど、契約締結前に交渉しておきたいところです。
もっとも、パターン①であれば安心かというと、必ずしもそうとは言い切れません。「明らかに本人の責により」とありますが、果たして解雇は本人の責によるものなのか、そして、その責は明らかであるのか、人材派遣側と採用企業側で認識や評価が異なってしまう可能性があるからです。
そうならないためには本人の勤怠記録や勤務状況を記録しておくことをお勧めします。例えば、遅刻が多い場合は出退勤記録を残しておく、職務能力や職務態度に問題がある場合は社内メールや業務日報の内容を保存しておくなど、第三者が見ても明らかに問題があると認識できる内容を記録しておくことです。
なお、どちらのパターンであっても、返金規定には入社してから退職するまでの期間制限が設けられているので、その点もチェックしておきましょう。
人材紹介会社経由の社員の解雇で返金を拒否された!
具体的な事例を見ていきましょう。一旦は返金を拒否されましたが「明らかな本人の責」を証明することができて、返金に至ったケースです。
組織に悪影響を与える管理職を解雇
A社は即戦力を求め、人材派遣会社(B社)を利用したところ、WEBマーケティング業界の管理職経験者Cを紹介され、採用を決めました。
業界での実務経験が十分にあったことに加え、人材派遣会社の猛プッシュもあり、一日でも早く結果を出してほしいという期待を込めた決断でした。
しかし、実際に採用してみると、Cは時間通りに出社しない、部下に高圧的な態度をとる、既存の営業の仕組みを批判だけして代案を出さない、さらには部下の一人が精神的に耐え切れず、退職を申し出る始末でした。
会社への悪影響を考えたA社は、Cを解雇処分としました。
人材紹介会社から返金拒否
人材紹介会社と結んだ契約書の返金規定には、採用から3か月以内であれば返金可能とあったため連絡したところ、「御社のケースでは、御社都合により辞めさせているのだから返金は難しい」とB社から言われてしまいました。
A社は契約書の返金規定をもう一度確認すると、返金規定には「明らかに本人の責により解雇された場合」と記載されていたため、今回のケースはこれに当たると主張して再度返金を要求したものの、B社からはまたも拒否されてしまいました。
A社に落ち度はないにもかかわらず返金がされないのはおかしいという気持ちから、ご相談に来られました。
「明らかな本人の責」の証拠を集め、晴れて返金
A社は、実際に本人に責任があることを証明するために、採用した人物Cと部下とのやりとりを集めました。
すると、Cには「お前、そんなこともわからないの?」「小学生からやり直したら?」などと、人格を否定するパワハラ発言の数々があったことが明らかになりました。その他にも、勤怠履歴や業務日報などから、勤務不良はじめ数々の問題行動を示す証拠を集めることができました。
これらをもとにB社と交渉したところ、B社も認めざるを得ず、話し合いもまとまり、晴れて返金に至りました。
このように、たとえ「明らかに本人の責がある場合には返金する」と返金規定にあったとしても、それを証明できなくては意味がありません。ですから、本人の責任が証明できるような社内メール履歴や出退勤などがわかる勤怠記録を残しておくことが大切です。
また、懲戒処分といっても、即座に辞めさせられるわけではなく、まずは注意指導、戒告から入るなど解雇までに正しいステップを踏む必要があるのでご注意ください。
まとめ
今、中小企業はじめ多くの現場は人手不足に直面しています。そのため、複数の人材紹介会社と契約している企業も少なくないのが現状です。
紹介してもらうまでは金銭が発生することがないから、と気軽に契約書を結んでしまいがちですが、こうした採用後のトラブルを回避するために、契約した1社1社に対する入念なリーガルチェックを行うことをオススメします。
人材紹介会社は新規参入が激しく、ほぼ個人でやっているような会社もあります。それも一因なのか、採用したが最後、その後人材紹介会社と連絡が疎遠になったとか、返金時期を先延ばしにされているというトラブルのご相談をいただくこともあります。人材紹介会社とお付き合いする前に、その会社が信用に足るのか、返金する体力のある会社なのかを見極めることも大切です。
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