刃物専門編集者の憂鬱 その16「え、めっちゃ楽しそうなんですけど!? GW鍛造研磨合宿編」
こんにちは。「編集者&ライターときどき作家」の服部夏生と申します。
肩書きそのままに、いろいろな仕事をさせていただいているのですが、ちょっと珍しい「刃物専門編集者」としての日々を、あれこれ書いていこうと思います。
最初に、ナイフ本についてのご報告です
毎年、ホビージャパンさんから出版させていただいているカスタムナイフ関連の本だが、少々刊行が遅れている。
関係の方々、読者の方々にはご迷惑をおかけして申し訳ない。
もうすぐちゃんとした発表ができると思うので、いましばしお待ちいただければ、嬉しい限りである。
あとここでもご紹介しなければならない記事も溜まっている。
こちらもしばしお待ちいただきたい(関係者の方々スミマセン、、)。
GW鍛造研磨合宿 presented by ZERO鍛冶
さて先日、旧Twitter(現X)を見ていたら、こんな投稿があった。
鍛造刃物作家のZERO鍛冶こと五十嵐 護さんのところで、刃物作家たちが集まって、鍛造の合宿をやる、という話なのである。
集まるメンバーもなかなか興味深いメンツである。
普段、人さまの投稿にはなるべく絡まないように自らを律しているのだが(と言いつつ割と絡むし、絡んでいただくのは大歓迎である)、これには条件反射で反応してしまった。
するとほどなくしてZERO鍛冶さんからコメントがついた。
気になるイベントの主催者から、取材に誘われるのは、とても光栄なことだ。
嬉しいことでもある。
行くしかなかろう。
だが、ZERO鍛冶さんは新潟県の刃物産地・三条にもほど近い栄町在住である。
僕は大都会⭐︎名古屋市在住。
ふらっと行ける距離ではないし、野暮用も、ある。
行けない。
でも、諦めたくなかった。
どうしても様子を伺いたい。
そう思う一番の理由は、先ほども書いたが、集まるメンバーが、魅力的なのはもちろんだが「多彩」であること。
鍛造作家はもとより、S&R(ストック&リムーバル:要するに鋼材を機械メインで削り出して成形する製法)の作家たちもいるし、中にはラグジュアリーなポケットナイフの作家だっている。
そして、ナイフの制作歴が比較的若い人たちが多い。
だからだろうか、そこはかとないフットワークの軽さを感じる。
今までとは少し違う、人の繋がりも感じる。
要するに、何か面白いことが行われるんじゃないか、と直感したのである。
気持ちは決まった。あとは、どうやって取材するか、である。
アイデアに詰まった時は、過去の偉人の名言にブレークスルーとなるヒントを求めるのは、意識の高いヤングエグゼクティブ(古いなあ)の間では常識である。
ヤンエグに憧れたまま馬齢を重ねた僕も、早速、頭の中の帳面をめくった。
かつてフランスのマリーさんはこう言ったそうである。
パンがなければケーキを食べればいいじゃない。
閃いた、21世紀に生きる僕はこう言おう。
現地に行けないなら現代のテクノロジーを使えばいいじゃない。
ということで、ZERO鍛冶さんにお願いして、zoomでのインタビューをさせていただくことになった。
OK余裕、未来は俺等の手の中、である。
合宿は、GWの2日間を使って開催され、初日に燕市にある研磨業者さんのところで研磨のノウハウを学び、そのあとは、ZERO鍛冶さんの工房で鍛造教室をみっちり行うスケジュールだという。
インタビューは、初日の夕方、そして2日目の昼に設定させていただいた。
いつものように前置きがやたら長くなったが、ここからは参加者の皆さんのコメントをご紹介させていただこう。
総勢6名の熱い思いをダイジェストでお届けします
つばさこと伊藤飛翔さん
初めての参加です。(在住している)北海道からフェリーに乗ってきました。
ZERO鍛冶さんがバフ研磨の業者さんをご紹介してくださるということで、やってきました(笑)。僕が今取り組んでいる欧米のマスターピースをベースにしたポケットナイフの制作において、研磨の工程はとても大切だと識者の方々が教えてくださっていたので、いつかプロの仕事を拝見したいと思っていたんです。
今回、実際の作業を見させていただけたし、やらせてもいただけました。得るものはものすごく大きかったと思います。
この後の鍛造も楽しみです!! 多くの作家さんたちと交流できること自体がありがたいです。
やぎこと丹後雄一郎さん
今回は自分がキャンプで使うナイフを作りたいと思って参加しました。
今までも何度か鍛造をさせていただいたこともありますが、このような合宿形式で多くの方々と会って情報交換できるのは、とてもいい刺激になります。
制作するナイフは「パラン」というインドネシアの鉈をアレンジしたものです。
廃材の板バネを鍛造してブレードを作る、ZERO鍛冶さんをはじめ合宿メンバーとのコラボ作品となりますが、今後、フォールダーでコラボモデルを作ってみるのも、楽しいかもしれませんね。
実は日にちを間違えて、合宿の1日前に来てしまったんです。自分でも気づかないうちに、気合い入ってました(笑)。
Thor ”トール”こと山田トール健多郎さん
ZERO鍛冶さんは自分にとって、鍛造刃物づくりの師匠です。今回、師匠の工房で初めて「修行」ができるんです。
また、自分にとってもう一人の鍛造の先生である秋水さんが参加されたことも、とても大きかった。今回は、二人の教えを受けながら鍛造をみっちり勉強させていただけたら、と思っています。力任せではなく、理にかなった力の使い方を少しでも身につけたいですね。
刃物づくりには中学生の頃から興味を持っていました。本格的に作り始めたのは、ここ数年のことですが、こうやって、師匠や先生をはじめ惜しみなく知識や技術を教えてくれる人たちがいる。自分は本当に恵まれているな、と感じています。
A&Kナイフメイキングこと長田 渓さん
ナイフを作りはじめて、1年が経ちました。父親にもらったナイフに魅了されたことで、興味を持っていたのですが、「タイミング的に今しかない」と思って昨年、バーキングを手に入れて、ナイフメイキングをはじめたんです。
以来、多くの方に教えていただいて、濃密な日々を過ごしています。
今回も、鍛造と研磨をプロに教えていただけられるとても貴重な機会です。ぜひにと思って参加しました。
ZERO鍛冶さんたちに手伝っていただきながら、廃材のベアリングを鍛造して、トラウト&バードを作ってみようと考えています。参加の皆さんからも教えていただけることが多くて、充実した合宿になりそうです。
秋水こと岡野育実さん
もともと、ZERO鍛冶さんのご尽力で、フライスなどを分けていただけることになっていたんです。せっかくだからそれらの引き取りを合宿のタイミングで行おうとなり、トラックを借りてやってきました(笑)。合宿の後、トールさんにも手伝っていただいて自分の工房に設置します。
刃物作りへの興味は小さな頃からあり、高校の頃から冶金学や刀剣制作などを学んできています。今は熱処理の仕事をしながら刃物づくりをしていますが、全ての学びが今の自分に活かされていると感じます。
同じ鍛冶場といっても、人によってまるで異なります。今回も、ZERO鍛冶さんの仕事からの学びもあり大いに刺激になっています。
ミズこと水澤祥太さん
ナイフメイキング自体は結構長く続けています。もともとアウトドアが好きでキャンプで使えるナイフを自作したいなと考えたことがきっかけなんです。
その後、近くに鍛造刃物を作っている人がいるよ、と紹介されて伺った先が、ZERO鍛冶さんで(笑)。それからお手伝いさせてもらったりしながら、技術全般を教えていただいています。
自分は今、廃材を鍛造することでアップサイクルして、コンパクトなナイフを作ってみようと考えています。こういった集まりは、毎回技術や情報の交換が行われて、とても刺激になります。今回はひときわ個性的なメンバーで充実した合宿になりそうです。
インタビューの締めは、主催者のZERO鍛冶さんです
ZERO鍛冶こと五十嵐 護さん
毎年、こういった合宿は企画しているんです。S&Rで制作する一般的なナイフ作家さんたちは、鍛造仕事に触れる機会は珍しいでしょうし、私自身にとっては、皆さんの知見を伺える貴重な情報交換の場にもなる。自然な流れで始まったもので、メンバーも毎回違うのですが、皆さんがサポートもしてくださるので、ここまで続いてきました。
今回は鍛造作家の秋水さんが参加してくださったのは大きいですね。鍛造を教える人が二人になることで、より丁寧に教えることができているように思います。研磨業者の方も快く協力していただいたことで、合宿全体が充実した内容になっていると感じています。
コラボレーション作品ができるのも、合宿の楽しいところです。
今回はやぎさんとの「パラン」モデルの鉈をはじめ、ファンタジーセレーション(石器ナイフにヒントを得たZERO鍛冶さんオリジナルのセレーション)を入れたブレードでA&Kさんとつばささんとのコラボモデルなどができる予定です。
私自身が刃物を作ろうと思ったのは小学3年生の時の夏休み。
その思いをずっと持ち続けてきて、大人になってから、鍛冶研修生として「越後三条打刃物」の製造技術などを学びました。体をこわして続けられなかったのですが、今でも教えてくださった方々との交流は続いています。その後、研磨業者で働きながら、個人で刃物づくりを続けてきました。昨年独立して本格的に作家活動をはじめつつ、刃物や金属にまつわる仕事もしています。
合宿をはじめとする技術交流会を始めたのは、僕自身が、研修先や勤務先の方々に、自らの技術を出し惜しみせずに教えていただいたことが大きいと思います。学びたいという意志のある人には、三条や燕のものづくりの伝統を引き継いでいってもらいたい、そんな思いを皆さんから感じていたんです。
もちろん彼らに及びません。
でも、私も、自分が知っている範囲で技術やノウハウを伝えることで、ナイフや刃物の業界が少しでも発展するなら、とても嬉しい。
そう思っているんです。
これからも機会を見て合宿を開催しようと考えています。SNSなどで告知もしようと思うので、興味のある方は気軽にお問い合わせください。
ぜひ、鍛冶場を見て鎚を握って鍛造を一緒に体験してみましょう!
興味ある方は、気軽にコンタクトを取ってみよう
リモートインタビューにもかかわらず、皆さんのお話を伺うのはものすごく面白かった。
なんていうか、現場の充実した空気が画面越しからも伝わってくるのである。
ナイフショーで会ったりSNSで交流するなどして繋がった気の合う仲間同士が、思う存分学びたいことを学び情報を交換し合う。
楽しくないはずがない。
合宿後も、皆さんのXを拝見していると、それぞれが得たもの、そして新たに設定したテーマなどが垣間見えてきて、早く作品を拝見したいな、と感じる次第である。
お忙しい中、ご協力いただいた皆様に改めて感謝を申し上げたい。
写真はやぎさん、ZERO鍛冶さんをはじめとする方々が撮っていただいたものを使用させていただいた。併せて感謝申し上げる。
おまけ
今回のインタビューで、思い出した著作がある。
20代の頃、三条をはじめ、多くの産地を回って道具鍛冶にインタビューさせていただいた一冊である。
何も知らないまま取材したから失礼も多々あったとは思う。
でも、お話をお伺いして文章にするのが、楽しくて楽しくて仕方なかった。
2004年刊行だけど、元は連載だったから、取材自体は数年かけて行ったように覚えている。
今も、時折、やり取りする方もいる。
ありがたいことである。
そして、本当に、貴重なひとときだったなあ、と感慨に耽っているのである。
フォローよろしくお願いいたします!!