魔女chのカデット

ややこしい事になったぞ、と思ったのが私とユウの二人で、実際に口に出してそう言ったのはリュグレーヌだった。
「ややこしい事にならない?」「なる。先生に連絡とってみよう」
色違いの魔女帽子を寄せ合って役割分担を決めると、ユウが自分のパクトを開き、猛烈に指を動かし始めた。

私は私で、リスポーン地点のカザホに連絡を取らなければならない。
「落ち込んでないと良いけど…」「あの様子だと無理デショ。でも切り替えてもらわないとだよね」
パクトの通信機能でカザホを呼び出す。だが応答はない。
本人が出ないだけなのか、このデスゴー館の入り組み様が影響しているのか、判断がつかない。
私はマジックライトに照らされた室内をよこぎると、繊細な装飾を施されたドアを注意深く開けた。
廊下は長く、扉から差した光はすぐに薄れ、その先にはひたすらに闇がわだかまっている。
かつての華やかな時代を感じさせるものはそこにはなく、かわりにうごめく何者かの気配を感じて、わたしはドアをそっと閉めた。

「ねえ、先生から返信来た」
そこでユーが声を上げた。
「もう取り下げたけど、暗殺マーケットで受注3件だって」
私たちはお互いに顔を見合せた。
「人気あるじゃん。第三王女だっけ」「家督争いかァ」「色々あるよね、みんなそうだけど」
私たちは口々に論評したが、リュグレーヌが仕切りなおしして話を再開した。
「身バレの件はもうしょうがないよ。でも今回は場所がわかってるのがマズい」
「ホーンテッドハウスに殺し屋が3組、それで誰にもケガさせずに事故ゼロで撮影を続けないといけないの?」「要求たっか」
それが至難であることは私にもよくわかった。けれど…。
私はパクトを宙に浮かべると、自分の周囲でくるくると回転させた。
鏡面に、深い赤の魔女帽の魔女学生が映っている。このカデット・ゲルカドットの姿が。燃える瞳が。
「でも、やらなきゃ。ぜったい楽しい配信にする。…まずはカザホを拾いに行こうよ」

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