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コンとローラ(ローラ編第2回(全4回)価値あるもの
とことこ
アタシ
「のどかなところだねー」
森を抜け草原を越えると
ポツポツと民家らしき家屋が増え、
この辺りは田園の村といった設定だろうか?
点在する村人達の表情も穏やかで
目が合うと笑顔で挨拶をしてくれる。
アタシ
「ええと、ウサ・・・バリー
ほんとにここに1つ目の鍵があるの?」
バリーは少し下と向いて
ブツブツいいながら先を歩いていた。
彼女はこちらに振り向いて
目をキランとしてドヤ顔をした。
バリー
「・・・近いわ!」
アタシ
「本当?助かるわ」
バリー
「この勇者ウサギバリーの
センスが、鍵を持つ人が近くにいると、
教えてくれているわ!」
勇者ウサギとはなかなか斬新な設定だね。
?
「あのう・・・」
突然、
背後から小さな声がした?
アタシ
「ん?」
振り返ると
そこには帽子をかぶった少年がいた。
![](https://assets.st-note.com/img/1683720630655-fKue5PdO2g.png)
少年は困った表情でもじもじしている。
アタシ
「どうしたの?」
少年
「ローラさん、ですよね?
伝説の狩人の?」
アタシ
「え?ええ、そうよ」
アタシもなんか恥ずかしくなってそう答えた。
少年
「実はお願いがあって・・・」
アタシ
「何かしら?」
少年
「ボクのお婆ちゃんが
病気になっちゃって今ずっと寝てるんです。
お医者様は、お薬がないと治らないって・・・」
おおお、お使いイベントね!
アタシ
「お薬が必要なのね!
どこにあるの?」
少年
「この先、
北の森に神獣様の寝床に生えている
ワーデルエイスって花が必要なんだって・・・
そこは狩人しか入っちゃいけない
聖域なんだって母さんが・・・。」
アタシはやっと少し落ち着きウサギを見た。
ウサギは親指を立て静かに頷いた。
アタシは口がにやけるのをなんとか収めた。
アタシ
「分かったわ。取ってきてあげる!」
少年は瞳を輝かせ言った。
少年
「ホント?ありがとう!おねえさん!」
お口がーw
森を進む
アタシは先程よりも軽い足取りで
ウサギの後をついていった。
バリー
「全くー、相変わらず少年の頼み事に
弱いのねーアナタってー」
振り返り
呆れた表情のウサギはやれやれと言った。
アタシ
「そうなんですよーえへへー」
バリー
「しかし気をつけなさい。
くれぐれも神獣様を怒らせないようにね」
アタシ
「へ?」
バリー
「アナタは知らないだろうけど、
過去に神獣様の問いに
満足に答えられない不届き者がいて、
その者は森から帰らなかったらしいわ。」
アタシ
「えええええええ!!
ど、どうしよう?」
バリー
「まあ仮にも伝説の狩人の貴女なら
大丈夫なんでしょうけど・・・
さっきから変よ貴女」
アタシは悪寒が身体を走ってきた。
静寂な森は少し霧が漂っていた。
森の小道を進む。
幸い好天にして時間も早いので
さくさくと目的の場所が見えてきた。
開けた空間に
白い大理石で重ねられたような
ダブルベッドくらいの大きさの
小さな祭壇のようなものが中央にあった。
周囲には白いきれいな花が沢山咲いている。
アタシ
「ねえ、バリー
ここなのよね?」
バリーの返信がない。
アタシ
「ねえ、もうバリーって・・・」
アタシは周囲を見渡した。
ウサギの姿は見当たらなかった。
アタシ
「ちょっと!バリー?
どこ行ったのよ!!」
アタシは周囲をぐるぐると見渡した。
しかし、ウサギの姿はどこにもなかった。
アタシ
「・・・・・・・・」
アタシはこの状況で一気に不安になった。
来た道を見つめ、
一旦引き返そうと思った。
?
「オマエが伝説の狩人か・・・」
背後で声が響いた。
ぞっとして
ゆっくり白い祭壇の方を向いた。
そこにはさっきまでいなかった
獣が横たわっていた。
![](https://assets.st-note.com/img/1683721000696-p97B90MTh7.jpg)
アタシは思わず小さな悲鳴をあげた。
わなわな
神獣は一見金色のヒョウのような外見で
ヒゲも白く
輝く体毛も不思議な光を放ちながら
ゆらゆらとしていた。
顔は、昔恐竜の図鑑で見たかな?
サーベルタイガーみたいな感じだった。
神獣
「どうした?
自分の名前も教えてはくれないのか・・・?」
アタシ
「え?は!はい!
アタシ、私はローラと申します!
この度は・・・」
初めて会社面接に行ったときの緊張を
ここにきて取り戻してきた。
神獣
「ふん・・・・・」
神獣は目を細めかるくため息をついた。
神獣
「伝説の狩人とは、
また噂が一人で歩いて伝わったようだな」
アタシ
「は!はい!
誠に仰る通りでありまして・・・
えへへ・・・」
どうしようどうしよう・・・
神獣は再びため息をついた。
神獣
「まあ良い。
持っていくが良い。
そのために来たのだろう」
神獣はそういうと
頭を下し少し丸まった。
良かった!
そういうイベントなんだ!
アタシ
「は!はい!
ありがとうございます!
頂いていきます・・・」
アタシはそぉっと神獣様の間にお邪魔し
なるべく距離を取りつつ
なんとか白い花を2束根本から抜くと
またそおっと後ずさりをした。
ゆっくり背後の様子を伺った。
神獣様は眠りはじめたように見えた。
アタシ
「あ、ありがとうございましたー・・・・」
小声で言った。
アタシは少し歩くと
少し小走りでそこから離れた。
あーこわかったこわかったーー!!
そして得たもの
森の小道に戻ってくると
ウサギがいた。
アタシ
「あな」
バリー
「ローラ!どこ行ってたのよ!!
もう!方向音痴も変わってないわね!」
言葉を被せられた。
アタシは深くはーと息を吐き、
その場に膝をおとしてそのまま正座した。
アタシ
「どこって・・・これ、
もらってきたんですけど・・・!!」
手に握った花をウサギに見せつけた。
バリー
「おおお!神獣様と会ったのね!
大丈夫だったのね!」
アタシ
「めっちゃこわかったっす・・・」
バリー
「ふふん!でも流石だわローラ!
さあ村に戻りましょう!」
アタシ
「そ・・・そうね!」
アタシの脳裏に少年が浮かんだ!
さっと立ち上がりウサギの後を追いかける。
膝はまだ少し震えていた。
森を出て南下し村にたどりついた。
少年は村の入口で待っていてくれた。
少年
「ああ!おねえさん!
お花だね!!」
アタシは花を少年に差し出した。
少年
「ありがとう!
お礼にこれをあげるね!」
そう言うと少年は
小さい紙袋をアタシにくれた。
アタシ
「あ、ありがとう・・・
こ、これは・・・むぐ?」
紙袋の底が微妙に動いている。
少年
「お母さんから教えてもらったんだ!
狩人さんの保存食にもなる
オイシーミミズなんだ!」
アタシは悲鳴をあげて
紙袋を落としてしまった。
とほほん
アタシはがっくりと肩を落とし、
少年からもらった
虫入りの紙袋をつまんで
とぼとぼと歩いていた。
必死のおつかいの報酬が
鍵ではなく虫なんて・・・
もうなんなのよこれ。
ウサギは
「この村じゃなかったみたいね!てへ!」
みたいでダブルでショックだ。
川沿いを西に歩いた先に
もう一つ村があるので
そこかも知れないと言うので歩いてはいるけど。
アタシ
「ねーウサー
これ川も捨てていい?」
バリー
「もーそんなに落ち込まないでよ!
伝説の狩人は子供にも優しくなきゃ!
でしょ?」
アタシは落胆してから
ウサギのことをバリーと呼ばなくなった。
ささやかな抵抗だ。
ウサギはそんなことは気にもしていなかった。
流石に自分の非も認めているのだろうか。
アタシは流石にもう
この虫を手放したかった。
アタシ
「ねー
なんか美味しい虫らしいんだから
川のお魚さんも喜ぶと思うよ?
ねえーったらー」
ウサギは返信なく
前方でぴょんぴょんと歩いている。
アタシ
「はーもうなんか
その辺に釣りでもしている人いないかなー」
ひたすら川沿いを歩いた村らしき家屋も見えてきた。
アタシ
「やっと着いたー・・・
!? あれは?!」
なんということ!
川で釣りしてる男の人がいる!
アタシはさっきまでのネガティブを吹っ飛ばし
男性に駆け寄った。
あなたこそアタシの救世主!
体格のしっかりしたその中年男性は
少し不機嫌そうだった。
![](https://assets.st-note.com/img/1683721550351-mS89FYmRt2.png)
アタシに気づいた。
男性
「なんだい狩人のねえちゃん?」
アタシ
「はあはあ・・・
あの、あのですね・・・」
男性
「ああ?」
アタシ
「む、虫いりませんか?」
アタシは紙袋を男性に差し出した。
男性
「虫って・・」
男性は紙袋の中身を確認した。
はっと男性の表情が明るくなった。
男性
「あ!あんた!
こりゃ上等なエサじゃねえか!!
本当にいいのかい?」
アタシは髪を整え、
息を整え勝負をかけた。
キリっとした態度をした。
アタシ
「ええ!もちろん!
すごい魚捕れますよ!絶対!」
男性は歓喜の声をあげた。
男性
「ありがとう!
早速コイツを仕掛けてみらあ!
ちょっとそっちで待っててくれ!」
男性はそう言うと、
今まで釣り上げた魚が入っている木箱と
敷物が敷いてある場所に案内してくれた。
お茶までよばれた。
美味しい。
少し泣けた。
アタシは安堵感も手伝って
その敷物の上で小休止した。
改めて木箱の中の魚を見ると
胴の長い大物ばかりだ。
アタシはしめしめと
嬉しくて仕方がなかった。
しばらくすると、
「嬢ちゃん!!」と
先程の男性が釣り竿片手に駆け寄ってきた。
アタシ
「釣れました?」
男性
「おおよ!見てくれ!
こいつを大物だ!!」
男性の釣り竿の先端から垂れる糸の先に
小さい銀色に輝く円形の小魚がぴちぴちとしていた。
アタシはちょっとがっかりした。
アタシ
「きれいな・・・お魚さんですね・・・」
同情の声を絞り出した。
しかし想定外に男性のテンションが高い
男性
「そうともよ!
こいつはゲキレアウオと言って
滅多に釣れるもんじゃない!!
アンタのくれたエサのおかげだ!」
アタシ
「そ、それは良かったです・・・」
良かった本当に喜んでくれている。
男性
「なんかお礼したいな!
そうだ!やっぱりさっき獲ったあれだな!」
遠慮する隙も与えてくれないまま
男性は木箱をごぞごそとして、
彼の釣った魚の中で
一番ヒゲの長いものを取り出した。
男性
「こいつは下ろして
軽く焼くと美味いんだ!
もらってくれ!」
何回も何回も遠慮したが
全く通用せず、
遂にアタシは魚を受け取った。
村に魚屋があるので
そこで下ろしてもらうといいと言われた。
アタシとウザギは再び歩きだした。
先程と似たように
肩を落としながら村に入った。
虫の次は魚かー
とほほ・・・
アタシが得たもの
村に入ると確かに
すぐ2階建ての建物が魚を並べていた。
もう動きはしないけど
生臭いコイツを引き取ってもらおう。
アタシは店主に声をかけた。
アタシ
「あのー」
店主
「ん?
なんだい狩人のねえさん?」
![](https://assets.st-note.com/img/1683721896805-hwx0czsmNh.png)
アタシ
「これ受け取ってくれませんか?」
アタシは抱えていた魚を差し出した。
店主
「おお。下ろしてあげようか。」
アタシ
「いえ、もう差し上げますんで・・
はは・・・」
店主は魚を受け取り、
まな板に載せぴんと引っ張った。
店主
「んん!?
こりゃ、珍しい!
しかもアレじゃねえのか!?」
店主はそう言うと
包丁も握らず、
だっと店の奥に入っていった。
「おおい!サム!サム!」と
階段をのしのしと上がっていった。
アタシ
「アレ・・・?」
しばらくすると
店主が細身の青年を連れて降りてきた。
![](https://assets.st-note.com/img/1683721969031-Rafyc9Fu6D.png)
青年はまな板の魚を観て、
こ!これは!!と
その魚の長いヒゲをピンと引っ張った。
青年
「おやっさん!これだよ!!」
店主
「おう!」
なんなの?
青年はいきなりアタシの
まだ生臭い手を握りしめてきた!!
アタシは思わず赤面した
青年
「ありがとう狩人さん!
これでずっと造りたかったものができます!!」
アタシは赤面したまま硬直していた。
しばらくして事情が分かった。
魚屋の二階に住むこの青年は楽器職人で
アタシが持ち込んだこの魚のヒゲは
弦楽器製作に適切な素材だったらしい。
改めてよく見るとなかなかの好青年で
アタシはまた口を抑えるのに必死だった。
少年といい彼も、
このゲームの男性キャラのデザインは
なかなかアタシには嬉しかった。
切り身持ってけよな
店主をなんとか説得し店を出ようとしたところ、
先程のイケメン青年が階段から降りてきた。
青年
「ローラさん!
この度はありがとうございました!
これほんの気持ちです!」
彼は金貨を一枚くれた。
なんでも記念硬貨らしく、
「俺が持っていてもなんなんで」と
照れながらくれた。
まあイケメンに喜んでもらえたし、
お礼もやっとまともなものになったし
アタシはその好意を素直に受け止めた。
ウサの提案で最初の村に戻ることにした。
夕暮れになっていた。
アタシはもらった金貨を手に目に近づけ歩きながら
先程の青年のことを思い出していた。
アタシ
「・・・・ねえウサ。
わらしべ長者って知ってる?
知ってる訳ないか?」
アタシは軽く笑って歩きながら背伸びをした。
ああー疲れた!
おっと!
道にあった小石に躓いた。
手に持っていた金貨を落としてしまった。
金貨はコロコロと回転しながら足元を離れた。
カア!
バサバサ!
突如目の前に
カラスが一羽舞い降りてきた。
カラスは金貨を嘴でくわえると
さっと飛び去ってしまった。
ウサ
「いいの?撃ち落とさなくて?」
アタシ
「いいよ。
アレ、
あの子が欲しかったんでしょ?」
もちろん撃ち落とす腕など、ない。
アタシは精一杯見栄を張って
夕焼け空のカラスを見送った。
みんなのそれぞれ
少年
「おねえさん!」
今のアタシの癒やしがそこにいた。
またも村の入口で待っていてくれた。
そこはこのゲームを評価したいと思った。
少年
「ありがとう!
おばあちゃん元気になってきたよ!」
少年はアタシの手を掴みぐいぐい引っ張る。
それでね!それでね!と
本当に嬉しそうだ。
少年
「お母さんがお礼に
うちの宿に泊まってほしいって!」
アタシ
「はい?」
なんと都合よく、
少年の家は宿屋だった。
ウサも「折角の御厚意に甘えましょ」と
いうので流れに身を任せた。
なんか今日いろいろ疲れたし。
食事を頂き身体も綺麗にさせてもらって
ホカホカの状態でベッドに入った。
はいはいセーブセーブ・・・・
気づくとアタシは
昨日行った森の奥の祭壇の前にいた。
ああ夢なんだ。
夢の夢ってなんか可笑しいね。
祭壇には神獣様がいらした。
![](https://assets.st-note.com/img/1683722390164-T6AZC3LqqY.jpg)
神獣
「オマエは優しい者のようだな・・・」
語りかけてきた。
アタシはこれは多分夢イベントだと
なんとなく思ったので
今回は不思議と心が落ち着いていた。
アタシ
「そんなことないです!」
神獣
「ほう?
今は口がまともに開くか・・・」
アタシ
「お花!
ありがとうございました!
あの子のおばあちゃんも元気になりました!」
神獣はしばらくの沈黙の後、
神獣
「では問おう。
オマエにとって価値あるものとはなんだ?」
アタシはまた就活の面接での失敗体験を思い出した。
アタシ
「・・・・・・わかりません!」
つい言ってしまった。
アタシ
「あ!いや!ちがくて!・・・
まだ見つかってません!」
神獣
「ほう・・・」
えーと、ええと。
なんていえばいいんだ?
・・・・そうだ!
会社でさんざん習った
ホウレンソウとか時系列ってヤツだ!
アタシは少し息を吐くと
面接官と話すように口を開いた。
アタシ
「あの子とか釣りのおじさんとか
楽器作ってた彼とか・・・あ、カラスも!
価値あるものてそれぞれなんだと思います!
私には価値って、まだよく分かりません!
でも!見つけたいです!そういうの!」
なに言ってんだアタシは
神獣は身を起こした。
アタシは小さな悲鳴をあげ、
びくっとした。
がぁっはっはっは!!
神獣はその容貌から考えられないトーンで高らかに笑った。
アタシは半泣きでそれを凝視していた。
束の間の沈黙
神獣
「娘よ。もうオマエはそれを持っている。」
アタシ
「え?」
神獣
「オマエ自身が持っていないと思っているだけだ」
神獣とアタシの間に光る鍵らしき物が現れた。
アタシ
「これ・・・
アナタが持ってたの・・・?」
アタシはそれに近づき手に握った。
神獣
「オマエに託そう。
オオワシを、勇者を頼むぞ」
そこで意識を取り戻した。
寝ていた。
ベッドの上だった。
少し首を上げていつもスマホを置く場所を見ると
さっきの鍵があった。
いじわるな神獣さんだな・・・
アタシは二度寝を決め込んだ。
(つづく)