「ヒロインレース・デストラクション」第三話

【場所:メイの部屋】
時間:夜

忌々しげにスマホを見つめるメイ。
スマホアプリ「HEROSヘロス」のランキングが更新されている。

メイ「やっぱあいつの上がり幅、知る限りでもかなりでけぇ。
これが、新参向けスタートダッシュボーナスってやつかな?
このアプリ、ろくな説明ないからそういうのわっかんないんだよ
なあ……説明不足のクソアプリめ」

メイ(焦って路線変更するのは自爆に等しい。でも……あんなの
に好感持つなんて本屋ホンヤのばかばかばか!)

【場所:登校時の通学路】
時間:朝

朝、悠が家を出るのを見計らいメイも家を出る。
お互い軽く手を上げて、一緒に登校をすることに。
そこへ、同じく見計らっていたらいちが背後から駆け寄ってくる。

らいち「おはざーす! センパイたち」
悠「あ、おはよう雷鳥沢さん」
メイ「おはよ」

平静を装って普通に挨拶を交わすメイとらいち。

らいち(昨日の勢いに乗って、攻勢をかける。
メイ先輩や他のヒロインたちと時間を合わせて、潰しに行く!)

メイ(明らかに私の好感度を横取りしに来たな。今までやるやつ
は少なかったけど、本気でランキング一位を目指すなら上を落と
して自分を上げるのが一番手っ取り早い)

遠慮なく悠の腕に絡みつこうとするらいち。
それを間に割って入るメイ。反対側へ回るらいち。それに追従するメイ。

らいち「なんスか。邪魔っすよ」
メイ「んー? なにがあー?」
悠「???」

しおらしい表情でらいちは悠に言う。

らいち「先輩は、私と一緒に登校するのは嫌っスか?」
悠「嫌ってわけじゃないけど――」
らいち「にへへへ」

好感度上昇を知らせる光と音。

メイ(なるほど、昨日覚えた技を活用してきたってわけ――
近距離を防いでも、遠距離で来るってか)

らいち(んふふ……悪いけど、先輩の好感度頂きますよお♡)

【場所:学校の教室】
時間:朝

柳ヶ瀬島虎がいつものように悠に話しかけようとすると、そこへ
らいちが現れる。

らいち「休み時間にも甲斐甲斐しく現れましたよー」
悠「あ、うん」
島虎「悠、この子誰よ」
らいち「私は先輩の恋人希望ですー」
悠「らしい」
島虎「らしいって、あんた!」
悠「僕も困惑してるんだ」
島虎「しっかりしなさいよ!
私がどうこういう権利も、ないけどさ」

らいち(島虎先輩はやりにくいな。こっちの攻撃を、全部肯定す
るようでいて、言外に悠先輩へのアピールにしてる。
やっぱり狙うなら、草場先輩か)

【場所:帰りの通学路】
時間:放課後

案の定、帰りにもメイと悠の間にらいちが割り込んでくる。

メイ(明らかにこいつの持ちイベント時間、私より長くないか?
まさかこれも――)

らいち(最初の一週間は、悠先輩に接触できる時間がボーナス
されるってHEROSヘロスの通知にあった。このチャンスは逃せない)

らいち「んふふ、今日も楽しかったですねセンパイ♡」
悠「そ、そう? 僕はいつもどおりだけど」
らいち「なーんスかそのぬるいかんじー」

【場所:下校途中の階段(降りる)】
時間:夕方

登校時と同じく、腕を絡めようとするらいち。
だが、そこにメイが割ってはいる。

らいち「なんスかー?」
メイ「暑いんだから、少し離れなよ」
らいち「私は暑くないッス」
メイ「本屋ホンヤが暑がってるって言ってんの」
悠「僕は、べつに――」
らいち「こう言ってますけどー?」
メイ「そっか……」

メイ(やるならここしかない――!)

階段をこれから降りようという状況。
メイはらいちの足を引っ掛け、彼女が転びそうになるところを身
を挺して助ける。

メイ「だ、だいじょうぶ?」

らいち「な、な――」

悠「ふたりとも、怪我はない!?」

メイ「大丈夫、らいちもたぶん……うっ」

わざとらしく痛そうな素振りを見せるメイ。

らいち「うぐ、ぐ……あ、ありがとうございます」

悠「ごめん雷鳥沢さん、僕は彼女を見てるから先に帰っていて」

らいち「えぇ!? えっと……はい」

らいち(こんな荒業――! 下手に抗議しても、関係値からして
信用されるのはあっちだ)

少しだけ罪悪感を持った表情をのぞかせるメイ。
好感度上昇の光が悠の頭上に輝く。
それは、先日のらいちのときに劣らないほどのものだった。

悠「本当に、お人好しなんだからメイは」
メイ「えっ……」
悠「え? あ、……今僕なんて言った?」

痛みで頭を抑える悠。
何かを言いかけて、メイは一度口を結んでから
もう一度口を開く。

メイ「ううん、なんにも」

【場所:メイの部屋】
時間:夜

寝る前。メイは日付が変わるとすぐにスマホを開く。
確認すると、HEROSヘロスの好感度ランキングが更新されていた。

  • ランキング一位 草場メイ(-) 好感度130   レベル6

  • ランキング二位 女淵鳴美(-) 好感度75   レベル4

  • ランキング三位 柳ヶ瀬島虎(-)好感度65  レベル3

  • ランキング四位 雷鳥沢らいち(-)好感度40 レベル2

  • ランキング五位 古河ねるり(-)好感度40   レベル2

メイ(今回のは早々使えない荒技だったけど、10ポイントか。
推測はできてたけど、あいつホンヤの好感度上昇には
制限レベルキャップがかかってる可能性が高い。
むかつくな、今のあいつは感情も自由にできない。
このレースのために、本屋ホンヤは私との思い出も、
自由意志も奪われたんだ)

寝転がりながら壁をドンと叩くメイ。

メイ「待っててよ本屋ホンヤ。絶対にあんたを自由にしてみせ
るから。私達が自由に生きて、何が悪いんだ」

彼女がベッドに置いたスマホには一件の通知が新着で着てい
た。

「ヒロインが五人になったため、固有イベント機能が解放されました」

【旧校舎の奥にある広い部屋】
時間:夜

ソファで横になっていた仮面の男が立ち上がる。
直後、彼に鉄パイプで思い切り殴りかかるねるり。

仮面の男は空中に指で線を引き、そこに鉄パイプが当たるとそ
れ以上先に押し込むことができない。

仮面「限定的ではあるが、こう見えてこの世界の摂理に触れて
る側なんでね。実力行使で俺をどうにか出来ると思わないほう
が良いぜ」

ねるり「そっちこそ、自分だけが”そう”だと思わない方がいい」
仮面「!!」

鉄パイプはひしゃげて細長い鉄塊となり、彼の仮面へと当たりそ
れを跳ね上げた。

仮面「そうか――君はこのレースにわざと入ってきたな?」
ねるり「やっぱり、そういうことか」

そこには、眼鏡はないが本屋悠と同じ顔がふてぶてしい表情で
笑みを浮かべていた。

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