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鮮魚街道七里半[三巡目]#3
-利根川から江戸川まで-
江戸時代から明治初期、銚子で水揚げされた魚をなるべく早く江戸まで運ぶため、利根川と江戸川を陸路で繋いだ鮮魚街道(なまみち)をめぐる旅の三巡目。
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佐津間(鎌ヶ谷市)→五香(松戸市)
2022年10月9日(日)11時43分。
六実駅に降り立つ。
もう三度目だか四度目の訪六なので、駅の改札口の位置も進行方向だいたい前の方と記憶してある。堂々たるもんだ。私の乗った東武アーバンパークラインの車輌ドアは、六実駅出口真ん前にビタ停りである。
電車から降りる前にカメラを首にかけ、臨戦態勢をとってある。今日もLEICA M9にレンズは珍しくコニカヘキサノン三五ミリと五〇ミリを用意した。なぜなら今日はこのまま家に帰らずに埼玉県にある嫁の実家に寄って一泊、そのまま熊谷市で撮影をするだからだ。鮮魚街道は使用するレンズはツァイスコシナ、熊谷はレンズをヘキサノンシリーズと決めている。
なぜか。
いや、なんとなく。
ヘキサノン三五ミリはコバ落ちしている。レンズを覗くとまるで銀河系のようにホコリが渦巻いている。だが、写りに支障はない。激安だった。このレンズ、実に落ち着いた発色であり、ズミクロンなんかよりよっぽどカリカリシャープに写る。私好みのレンズだ。今日のどんよりとした曇り空にベストマッチする。
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駅の改札を抜けて、目の前にある猫のひたいほど小さい商店街を撮りたい欲望を抑え、線路脇をすぐに右折した。なるべく早く鮮魚街道に辿り着くためである。六実において、鮮魚街道は駅横踏切から始まる。
そのすぐ脇にあるラーメン屋がつぶれていた。店の売りは味噌ラーメンだが、二巡目の撮影時に店の前を通過したときはお腹が正油ラーメンを欲していたので諦めたのだ。しかし、その店はもう無い。味噌でもいいから食べておけば良かったと激しく後悔している。確か屋号に〝三代目〟と書いてあった。まさか三代でその味が途切れるとは。やっぱりラーメンは一期一会である。
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前回の5月は一つ隣りの高柳駅で終了したのだが、今回はこの高柳から六実間を歩くのをやめた。これは実際の鮮魚街道ではなく、基地建設後の便宜上のニュールートだから問題ないであろう。当たり前だが、江戸時代に航空基地は無い。なので私も基地を迂回しないことに決めた。
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前回の撮影はオカンが死んだ翌日だった。あれからすでに5カ月が経ってしまった。
オカンをデイサービスに送り出し、帰ってくる6時間が私に許されたスナップ撮影の時間だった。当時は九時三〇分から一五時三〇分まで自由な時間があったはずなのだが、今はそれが無い。全く無い。
テレワークの終了も大きいが、一番は気持ちの部分の問題だろうか。
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航空基地のフェンスどん突きまで行ってUターンしてきた。往復同じルートだが行きと帰りとでは視点も変わり新しい発見があるものだ。行きに畑の傍らで椅子に座って魂が抜けたようにぼーっとしていた爺さんは帰りにはもういなかった。
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スナップ写真は撮ってすぐにはたいした価値もないと私は思っている。寧ろ最近ではSNSの撮って出しなどは害悪すらあるが、一〇年後、二〇年後にはウイスキーやワインのように深みを増すはずである。 それは観光客が人気スポットで撮影した何億枚もの映える記念写真や過剰にアプリでエフェクトされたモノクロのストリートのスナップ写真ですら、長い年月を経たら深みを増すだろう。 だが、一番普遍的なのはストレートフォトグラフィーではなかろうか。撮影者の演出や加工をなるべく排除し、見たままのシーンを切り取ることを追究すれば、写真の熟成はさらに深みを増すのではないか。
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再び六実駅を通過して五香駅に向かう。今日は時間がないのでそこでフィニッシュとしたい。しかし距離は意外と長いので自然と早足になる。ゆったりと趣味の撮影をしに来ているのに道を急ぐのでは全く意味がないと何度も自分に言い聞かせる。
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街道を通るクルマは六実の踏切から渋滞して長い長い列を作っている。カメラをぶら下げて右車線を歩いているとノロノロ運転をしているドライバーたちの視線が痛いので左車線の歩道を歩くことにした。
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必ず立ち寄るTUTAYA六高台店に立ち寄りトイレ休憩。いつもここに売ってるディズニーグッズを買わずに後悔しているが、コーナーごと無くなってチープなおもちゃ売り場に変わっていた。
店の有線で流れている「ズルい女」のなよなよしてるカバーを聴いてたら、なぜだか急にお腹に差し込む激痛が襲ってきた。慌ててトイレに駆け込む。オーバーオールを着ていたので脱ぐのに時間がかかったがギリセーフだった。
最近やっとこのオーバーオールを脱ぐのに慣れてきたが、初めて着た時は居酒屋のトイレで間に合わず1日に2回連続でお小水を漏らしてしまった。何食わぬ顔をしてトイレから出てきてそのまま呑み続けたが、酒を呑む時はオーバーオールは着ない方がいい。
もう一度言う、酒を呑む時はオーバーオールを着るな。
人生とは何事も経験である。
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TUTAYAから出て、再び鮮魚街道を歩きはじめた。比較的賑やかな通りなのでスナップ撮影のネタには事欠かない。しかし、チェーン店のファミレスやら回転寿司が並ぶだけでどうも面白味がない。あの白井市を歩いた時に味わったヒリヒリする感じが懐かしい。
うどん屋の看板が見えてきたのでゴールの五香駅も近い。先日このうどん屋が気になって、わざわざここまで家族で食べにきたことがある。武蔵野うどんを食わせる店だったので、北関東慣れしている私や埼玉県北部出身の嫁はビタイチ感動しなかった。
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いよいよ五香駅が見えてきたが、間違えてトンネルから線路をくぐってしまった。本当の鮮魚街道はこのトンネルを左に迂回し線路に突き当たり、線路沿いに駅まで歩き、駅を通過して右折し、線路沿いに鮮魚街道まで戻るのだ。次回は五香駅から端折ったルートをきちんとトレースして再スタートしよう。