半世界|東京国際映画祭にて
東京に来てから、毎年この時期は少しだけ心がウキウキする。
東京国際映画祭があるからだ。
学園祭の季節でもあるのだけど、そちらは僕の大学生活とはほとんど無縁で、むしろ学園祭でキラキラしている同級生から目をそらすように、この期間は大学の外に目を向けて、旅行やらイベントやらに足を運ぶことが多かった。ちょっと背徳感があって、なんだか特別なことをしている気分になれるリッチな期間だ。
そのときだけは、大学生じゃない自分、“自分だけの自分”になれた気がしていた。
そんな期間に、大学1年生の時にSNSで知ったのが、今年で31回目を迎える、東京国際映画祭だった。
六本木ヒルズで全面的に開催されるこのイベントは、華やかで、まぶしくて、北海道から出てきた田舎者を魅了には充分すぎた。
世界中の映画作品が集められ、各回の上映後には、監督や出演者のトークショーもある。
まだ世の中で公開されてない世界中の映画。もちろん前評判もないし、CMなんかもない。映画通でもない僕にとっては、実際に行って観てみるしか、どんな映画か知る手段はなかった。
そうしてふらっと行って、偶然観た作品が素晴らしかった時の高揚感。。。
人と同じことはしたくない、常に特別な自分でありたい僕にとっては、これほど心躍るイベントはそうなかった。
大学を卒業して、今の職場が六本木に近いので、今年は例年にもまして六本木に通った。合計で5本も観ることができた。
インド映画の「パッドマン」もめちゃくちゃ良かったけど、一番印象に残ったのは、今日観た「半世界」という作品。今年の観客賞受賞作品だ。稲垣ゴロちゃん主演で、地元でうだつの上がらない日々を送るおじさんの話。阪本順治監督。あらすじは以下のとおり。
『半世界』で描かれるのは、39歳の男3人の、美しい地方都市でのささやかな日常だ。かつて一緒に過ごした3人組のうちの1人が前触れもなく田舎へ戻ってくることから物語が始まる。何があったかを決して口にせず、仕事を辞め、家族と別れ、1人で帰ってきた。ワケありの仲間の帰還が、残りの2人にとっては「これから」を考えるきっかけになっていく。
諦めるには早すぎて、焦るには遅すぎる年代の彼らの視点を通して、「人生半ばに差し掛かった時、残りの人生をどう生きるか」という葛藤と、家族や友人との絆、そして新たな希望を描くヒューマンドラマ。
https://www.fashion-press.net/news/37296 より引用
映画を観た後、監督の人となりがすごく気になって、いくつかインタビュー記事を読んでみた。
それで、すごく納得した。
映画は物語じゃなくて「人語(ひとがたり)」ということです。物を語っているんじゃなく、人を語っているので、登場人物たちを存分に観てほしいなと思います。
https://filmaga.filmarks.com/articles/2306/ より
まさにそういう作品だった。
僕が映画を観たいと思う理由も、たぶんこれ。自分とは全く別の世界に生きている人の“ひとがたり”を知りたいという欲求。
映画は普通、娯楽の一つというくくりにされるけど、映画を観ることがマンガやバラエティ番組とは違って勉強の一つのように感じられるのも、たぶん映画を通して「人への想像力」を培える気がするからだと思う。
映画の内容はネタバレになるからあまり詳しくは書かないけど、少しだけ。
この映画には何か一つのテーマがあるというわけではなく、親子の絆、妻との関係、親友、仕事、トラウマ、いじめなど、要素がたくさん詰まっていた。
はじめはどう観たらいいのか少し戸惑うんだけれど、途中から主人公を取りまくそのすべてが尊く輝いて見えはじめて、終盤になるにつれていつしか涙が溢れて止まらなかった。
色んな要素を全部まるめて、これが人生だ。ということを温かく伝えてくれる、そんな映画だった。
一つだけ印象的なシーンを。
つるんでいた三人の中で、一人地元を離れて自衛隊になり、海外派遣の経験もした瑛介と、地元から一歩も外に出ずに父から継いだ炭職人の仕事をしている紘が、あるきっかけから言い争いになる。そのとき、瑛介が紘に対してこんなことを言う。
「お前が知っているのは“世間”で、“世界”のことなんてわからないだろ。」
瑛介は、世界を舞台に仕事をしてきて、自分が見てきたものが世界だと思っている。そして、いつまでも地元に頓着している紘を、内心見下していたのかもしれない。
人は、俯瞰した目線で物事を見れば見るほど、それをわかった気になる。そして、ミクロな狭い範囲しか見ていない人を、内心見下してしまうことがあるのではないだろうか。
このシーンは、そういう心理背景があっての発言のように感じた。
話は進み、瑛介は紘の生きてきた人生、小さな世界だけど、確かに歩んできたその軌跡を強く感じることになる。その時にふと漏れた言葉が、
「あいつも世界だったんだな。」
という言葉だった。
この社会の価値観では、死ぬまで地元に居続ける人と、一流と言われる企業に入って出世し、世の中に対して大きな仕事をしている人を比べれば、後者のほうがすごい、優れているように見えてしまうだろう。
だけど、それはたぶん、大きいか小さいかの話でしかないのだと思う。
生きている限り、どんな人にも必ず悩みや葛藤はあって。
その中でも、きっと一歩ずつ前に歩を進めていて。
そしてそれが、誰かに影響したり、また影響されたりして。
そうして生きた証が、確かに次に繋がっていく。
誰もがその人だけの、尊い世界を生きているんだよな。
この営みに、優劣なんてつけられるわけがないだろ。
「あいつも世界だったんだな。」
この言葉を聞いたとき、妙にしっくりきて、なんだか、ずっと考えてきた問題が解けたような解放感があった。
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「半世界」観れてよかったなあ。“ひとがたり”、素敵な言葉だな。
とてもおすすめの映画です。
映画やっぱいいな。
、
でもさ、こうして感じることができたこの感情も、おそらく2,3週間もしたら薄れていって、またもとの感覚に戻ってきちゃうんだろうな。
だからせめて、今日の気持ちに立ち戻れるように、文章にしておいたよ。