見出し画像

ブッキングリゾート(324A) 【週末ビジネス分析】 #006

重い。重すぎる。腰も頭もタイプするキーも何もかも
書きたいのに書けない、考えても納得のいく分析ができない

いっそサボってしまおうかと思う。誰にも怒られない。でも、そうして逃避して先延ばしにしていると、声が聞こえてくる
「逃げるのか」という自問の声が

それは決して大きな声ではないが、ぼんやりと常に頭の中にいて注意力を散漫にする。無視できれば大したことはないけれど、うまく剥がせなかったシール跡のように、ただそこにいるだけなのに地味にストレスを与えてくる

重い腰を上げる。頭の動作はまだ重い。深呼吸して酸素を取り込む

研究者でもコンサルタントでもないため分析が得意というわけでも慣れているわけでもなく、そして分析が好きなんて口が裂けても言えない位には怠惰なのだ。でも、やらなくてはならない
「分析の基本は比較すること」と、かの有名なコンサルタントも言っていた。困ったら何かと比較すればいい

諦めたように決意して、キーボードに手を添える

それでは、特色のある宿泊施設を掲載する予約プラットフォームによる集客支援事業と、当社自らが宿泊施設を運営する直営宿泊事業の2本の柱で構成されている新規上場企業「ブッキングリゾート」のビジネスについて分析してみたいと思います(上場予定日:2025/2/21)


売上高(等の概観)

Ⅰの部(有報)を見る限り、20/4期は赤字だったものの、直後の21/4期は利益率が50%超。赤字からの急回復と直近より高い異常な利益率、それに宿泊業界にも関わらずその両方がコロナの直撃した時期に生じていることを踏まえると、おそらくは関連会社との取引が多かったのではないかと推察

謎の急回復以降は外部顧客が増えてきたためか利益率は低下傾向にある。とはいえ、直近の通期実績(24/4期)は売上高10.6億円、粗利7.6億円(粗利率72%)、営業利益3.8億円(営利率36%)となっており、かなり収益性が高いことが伺える

さすがにこの利益率を直営の宿泊事業で稼ぐのは難しいはずなので、おそらくは予約プラットフォームによる収益が大きいはず
事業ごとの利益率は開示されていないが、24/4期の売上高の内訳を見てみると、集客支援事業の売上高が約9.4億円であるのに対して、直営宿泊事業は約1.2億円となっており、少なくとも現状の主力事業は集客支援事業であると分かる
更なる売上高の分析は後段のセグメントごとのパートに譲る

売上原価・販管費

順番が逆になってしまうが、先にあまり変化していない販管費を見てみると、23/4期から24/4期にかけて大きく変わったのは役員報酬(+30百万円)だけ。広告宣伝費も10百万円程増えているものの、元々2億円近く使っていることを踏まえると、ほぼ横ばいと言っていい
したがって、多少のブレはあるものの、当社の販管費はおよそ固定費とみて差し支えないように思う

他方で、売上原価は23/4期から24/4期にかけて倍以上に増えている(1.3億円→3.0億円)。内訳としては、材料費・労務費・経費のそれぞれで約50百万円ずつ増加している状況
23/4期にほぼ生じていなかったことを踏まえると、材料費はおそらく直営宿泊事業によるもの。また、経費の増加の主要因である減価償却費は直営宿泊事業用の建物の取得・建設に伴うものと考えられる

上記とその他適当な仮定に基づいて費用を各事業に配賦してみると、24/4期の集客支援事業の粗利率は約80%、直営宿泊事業の粗利率は約5~10%と見られる。ほぼ集客支援事業のみ行っていたと見られる23/4期の粗利率が約82%なので、そこまで外れていないはず
直営宿泊事業の粗利率が低すぎる気がするので、こちらは後段で検討してみる

集客支援事業

結論から言えば、利益率の高いビジネスではあるものの、ビジネスとしての効率性は従来型の宿泊予約プラットフォームには劣っているように見える

24/4期の予約獲得件数が約13.5万件、ADR(平均客室単価)が7.7万円であり、プラットフォームを通じた販売高は約104億円と計算できる。ここから一定の成功報酬を収受する形で当社の売上が計上されているため、料率は約9%と算出できる
開示を見ると、当社のサービスには集客支援と完全集客支援の大きく2種類存在するため、実際の料率とは異なる可能性が高い点には留意する必要がある

事情通でもない限り実際の料率を把握しかねるが、デスクトップリサーチでは楽天トラベルやじゃらんのような宿泊予約プラットフォームの料率はおよそ10%近傍のようで、結果としての料率はそこまで変わらないように見受けられる。ちなみに過去に上場していた一休の開示を見ても、料率はここから大きくは乖離していない認識

当社の集客支援事業は、他の宿泊予約プラットフォーム同様に取引高に料率を掛ける形で当社の売上を立てている(&結果としての料率もあまり変わらない)ものの、その他プラットフォームとは異なり、予約サイトの構築やマーケティング等まで当社が請け負う等、かなり宿泊施設事業者に入り込んでいる(=完全集客支援)とのこと

業務内容を踏まえると、もう少し高い成功報酬を収受しても良さそうなものだが、プラットフォームに支払う費用が嵩むと(小規模であるほど特に)宿泊施設事業者にとっては致命傷になりかねない。そのため、おそらく当社サービスの価格設定はかなり上方硬直的で、料率を上げたくても現実問題として上げられないことが想定される
つまり、当社の手厚いサービスが寄与しているのは顧客獲得の点であり、単価上昇への貢献度はそこまで高くない可能性がある。誤解を恐れずに言えば、ビジネスとしての効率性は従来型の宿泊予約プラットフォームには劣っている

データで比較すると、23/4期の当社の営業利益率が約34%(24/4期は約36%)であるのに対して、一休の23/3期の営業利益率は約53%(下記参照)となっており、その差分はかなり大きい

決算期:23/3期
売上高:343億400万円
営業利益:184億6,700万円

株式会社一休 第25期決算公告

直営宿泊事業

次に、足元で展開を進めている直営宿泊事業について検討していきたい

24/4期に稼働していたのはほぼ「ドックヴィラ千葉南房総」のみ
当事業の売上高(24/4期で約1.2億円)を分解すると、単純計算で日商は約33万円。当物件の客室は4棟(4室)しかないため、開示されている客室平均稼働率(8割超)を勘案すると1棟当たりの日商は約10万円となる
実際に当物件の予約サイトを見に行くと、最低二人から予約可で、一人当たりの料金は5万円前後となっており、計算結果と大きな乖離は見られない

客室稼働率8割超と聞くと、素人目には非常に優れた宿泊施設に思える。事実、ネットで調べると平均的な客室稼働率は60%程と出てくるため、一見すると当物件の稼働率が著しく高く見えてしまう
ところが、例えば観光庁の出している『宿泊旅行統計調査』を見てみると、2023年の千葉県のリゾートホテルの客室稼働率は75.9%となっており、稼働率の高さは当物件の優位性というよりも、立地の優位性による可能性が高い

また、星野リゾートの関わる星野リゾートREITの決算説明資料を見ると、星野リゾートが運営するリゾート施設「リゾナーレ」の稼働率がおよそ80%前後、ADRが約7万円弱となっている
国内有数の宿泊施設事業者たる星野リゾートでこの水準であるとすると、当物件の稼働率とADRは高価格帯リゾートの天井近くにあることがなんとなく伺える

星野リゾートと並んですごいとも言えるが、投資家の目線では成長性や収益性が重要になるところ、既に売上高も利益率も天井近くまできている可能性があるため、直営宿泊事業”単体”での成長を企図する場合は施設(客室数)の増加を狙うほかない

しかしながら、開示されている有報には直営宿泊事業の目的として「施設運営上の成功事例・失敗事例を蓄積し、 集客上有用なノウハウを獲得すること」と記載されており、当事業は本命である集客支援事業のためのサイドビジネスと捉えるのが適切である

したがって、勝手試算の当事業の粗利率が低すぎる点については以下のとおり補足しておく(普通に筆者の見立てや計算が間違えている可能性は結構ある)
①ノウハウ獲得が主題のため直営宿泊事業で大きく儲けたいとは考えておらず、むしろリスク管理の観点では、最低限の規模で運営することで十分
②規模に基づく収益性の改善を図るよりも、損益分岐点を超えられる程度の運営ができれば目的は達成可能(もっと言うと、高価格帯リゾートで実現できるMaxの稼働で損益分岐点を超えられるような数の客室を建てている

終わりに

正直なところ、前回以上に分析が難しかったです
基本動作として比較するとか数値で考えるとかはできていても、結局それが何を表していて、そこから読み取れるインサイトやインプリケーションは何なのかが分かりませんでした

比較も何か一つと見れば済むんではなくて、その前提だとこっちが整合しないけどなぜだろうかと考えて手を動かすほかなく、いちいちめんどくさいですね、正直。まあやるんですけど

おそらくもう少し丁寧に調べて、もう少し時間を掛けて考えれば、もう少し鋭い分析になる気がしなくもないけれど、当初の杜撰さに比べるとだいぶ纏まった内容になったので潔く公開します。褒めてください

いいなと思ったら応援しよう!