【超短編】現場が暴走したんです
20XX年、冬。
世界で猛威を振るう新型ウイルスの変異種が確認され、世界各国がその対応に追われていた。
20XX.11.29 報道
イスラエル保健相は14日間の渡航禁止措置を発動。
11.29 6:30 総理官邸
官邸「前政権は後手後手になって倒れてしまったが、我々は先手先手だ。なに、イスラエルが入国停止措置!?後れを取ってはいけない、国交省に電話だ!」
国交省航空局長「(早朝から携帯が鳴ってたたき起こされた…災害発生かな)はい、なんでしょう」
官邸「変異種。報道、みたでしょ。先手先手で、渡航禁止措置をやれ!例外なく全部だ!」
航空局長「は、はい、、、?、、、えっとそれはつまり」
ガチャ
航空局長「あ、切れた。とりあえず担当課長を呼んで相談するか」
11.29 8:30 航空局長室
航空局長「今朝は官邸からの携帯でたたき起こされて大変だったわ~」
審議官「それは大変でしたねぇ~、渡航禁止措置やれって話ですか」
担当課長「しかし、例外なくって、ほんとに例外なくですか?航空会社、聞いてくれるかな…」
審議官「そんなもんキミ、免許とって事業してるんだから、やれって言えばやるっしょ。ね、局長」
局長「あんまし波風立てたくないなぁ~、一回感触聞いてくれる?」
審議官「それはもちろんその通りですね!キミ、急いで頼むね!」
課長「は、はい、、、あと、海外にいる邦人を保護する観点もあると思いますが、その点は大丈夫でしょうか、、、」
審議官「官邸は例外なくって言ってるんだからさぁ~、あんまり物事を複雑にしない方がいいんじゃないんですか、ね、局長」
局長「うぅーん、官邸は例外なくって言ってたからなぁ~、でもなぁ~、どうなんだろうなぁ~、その辺は現場でうまいこと判断してよ」
課長「そうですか、、」
11.29 9:30 航空局XX課
課長「いつもお世話になっております~。XX課の課長をしております○○です~、渉外担当の△△専務をお願いできますでしょうか~」
専務「あーどうもー。ご無沙汰しておりますー。」
課長「変異種の件で、官邸から至急渡航制限措置という話が出てましてですね~」
専務「あー、ようやくビジネス客が戻ってきている矢先に、やっぱりそうなっちゃいますか、、」
課長「いけますかね」
専務「そうですね、すべて欠航にして既存予約をキャンセルとなるとビジネス的なダメージが大きいですが、新規予約の停止なら、最悪なんとか」
課長「その辺の落としどころが無難ですね~。今度の補正予算でも、政策金融による特別貸付を積み増しておきますので、なんとか耐えて頂ければ~」
専務「たすかりますー、では現場の調整はじめますんで、早めに通達をお願いしますねー」
11.29 11:00 再び航空局長室
審議官「新規予約のみなの?それで大丈夫なの?」
局長「まあ無難なところやなぁ。これ、局長先決でやれるんだっけ」
課長「はい、航空会社への通達ですので。お持ちした決裁文書にハンコ押して貰えればすぐに発出できます」
局長「はーい。あれ、ハンコどこにやったかな。最近電子決済が多いからなぁ。まあ急ぎの場合はハンコが速いよね。あーあったあった。はい、んじゃこれでよろしく。」
課長「ありがとうございます、では早速ファックスを流しておきます」
局長「んじゃ大臣には明日にでも報告いれとこう。大臣レクのアポもよろしくね」
課長「秘書に予定を確認しておきますが、明日は既に埋まっているでしょうから夕方ぐらいですかね」
11.30 邦人を含む全渡航者の新規予約を停止する旨が報道…
世の中の皆さん「はぁ?日本人が帰国できないってどういうこと?」
炎上…
11.30 17:00頃
総理「なんですか、この報道、、、国交大臣!どーなってんの!」
国交大臣「はぁ・・・、現場から報告を受けていないもので・・・至急確認をさせて頂きます・・・」
総理「のんびりしてますねぇ・・・しっかり頼みますよ!ただでさえ株価も下がって支持率が・・・ぶつぶつ」
11.30 17:30 国交大臣室
大臣「で、どうなってんのこれ」
航空局長「申し訳ございません!本日まさにご報告に伺おうとしていた矢先でございまして…。現場が暴走してしまって恐縮です」
課長「えっ」
大臣「そうなの?総理にめっちゃ怒られちゃったよ。こういうの上手くやるのが官僚でしょ。邦人保護を考えないとか、どうなのそれ。」
審議官「おっしゃる通りでございます。言われたまま考えずに通達してしまったようでして、、現場の荒っぽい判断がご迷惑をおかけしてしまい、恐縮でございます」
課長「えっ」
大臣「まあ、やってしまったものは仕方ないからさ、今からでも至急修正してよ。総理に報告しないといけないから、一緒に官邸にいこう」
局長「かしこまりました!」
11.30 18:00 航空局長室。
局長「いやーまいったねー。じゃ、課長、通達を修正してすぐ送っちゃって
。」
課長「あの、わたし、確認しましたよね」
局長「ん?」
課長「現場が暴走したって、さっき大臣室で、、」
局長「あそこはああでも言っておかないとさぁ~、大臣のメンツが立たんでしょ」
課長「大臣っていうか、局長のメンツでは、、、」
審議官「きみ、言うねぇ。左遷希望かな」
課長「いいっすよそれでも、もう疲れました…。」
審議官「珍しく疲れてるね。冗談だからね。パワハラ相談室とか行かないでね」
局長「ほんともう疲れたね。昔の局長は偉かったけど、今はこの歳になっても官邸や大臣に怒鳴られる日々だからね…。ボクも左遷でも降格でも退官でもいいけど、ちゃんと勤め上げないと奥さんに捨てられちゃう…。」
審議官「局長がそんなリアルな悩みを吐露しないでください…」
新人「課長~!修正する通達案もってきました! …あれれ、皆さんどんよりしてますね、さすがに炎上で大臣にこってり怒られた感じでしょうか」
局長「キミは明るくていいね、これからも頑張ってね」
新人「はい!難関試験を突破して第一希望の国交省で働けて嬉しいです!ゆくゆくは諸先輩のように活躍したいです!」
課長「ま、まぶしい。あれ、目から水が…。」
審議官「きみ、ちょっと休んだ方がいいね。さっきの話、マジで冗談だからね。」
局長「よーし今日は皆で飲みに行こう!」
新人「あ、今日は合コンの予定があるので、決裁貰えたらすぐにでも失礼します~」
局長「断るんかーい」
審議官「おそるべしZ世代」
終幕。
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