なぜ学び、なぜ働くのか。
大学院では、ひずみ勾配理論の有限要素法への適用について研究していました。
例えばバネを縮ませるとき、圧縮により変形したエネルギー量はその圧縮幅によって決まる訳ですが、これをめちゃくちゃ圧縮すると元に戻らなくなる=塑性変形するポイント(座屈点)がある訳です。
これを知ることは、材料工学的に大事なことでありまして、構造体の塑性変形を解析するためには、有限要素法という手法を用います。
有限要素法とは構造物を三角形の要素に分割して、その頂点の力の釣り合い方程式とエネルギー保存の方程式を全部連立方程式にして、コンピュータでひたすら計算しちゃおう!というメソッドです。
この計算式は、大きさには依存しないので巨大構造物でも顕微鏡で見るようなミクロな物体でも同じ方程式で解ける、ということになってるんですが、実際には極小な物質だと結晶粒径の影響などスケール因子の影響を受けることが実証的には示されているわけです。
これをシュミレーターで表現するには、通常は極小なので無視しているひずみの勾配量(変形量の微分値)を加味した方程式をシュミレーターにインプットする必要があります。
ということで、まず英語の論文をいくつか引っ張ってきて、理論的に導かれる方程式を整理して、数値計算するためにFORTRUN 77でプログラム化するというのが大まかな修士課程研究の方針となりました。
なぜFORTRUNかというと、研究室に先祖代々伝わるFORTRUNのコードがありまして、歴代の先輩はこれをちょろっと変えて論文を書いて卒業されていったので、諸先輩方の財産を活用するのが基本方針となったのでありました。
それまでプログラムのプの字も知らなかった訳ですが、既存のコードをいじったりネットで調べたりしながら、四則演算に落とし込めば後はプログラムが計算してくれるってことねと、誰から教わることなくその意味を理解しました。
超絶難解な連立偏微分方程式すら、気合と根性で簡単な計算の集合体となり、ゴリゴリと足し算引き算を繰り返していくと、解が導かれるんです。
その上で、計算精度を高めるために三角形の要素に分割する際にそれぞれの三角形のエネルギー量が大体同じようになるように=座屈するクラック近傍では三角形の一辺の長さが短くなるように評価した値に基づいて座標指定をしてから再計算するサブルーチンを作ってみたり、研究室のショボいPCでも走るように涙ぐましい計算プログラムを構築してました。
今から思えば、プログラミングの知識ゼロから独学1年でそれなりに自由自在に有限要素法のアルゴリズムを構築していたというのは、凄いことなのでは...今となっては一体どうやってたのか、記憶の彼方なのですが。
プログラムを走らせてる間は、研究室にあった漫画「超人ロック」を読み耽り、ふとパソコンを見るとバグで死んでいるので原因究明してデバッグして、次は「火の鳥」を読み耽り...。
そのうちブックオフに行って古書を全巻買いして、後世の後輩達に伝承する漫画資産を増やしたりもしました。研究室の近くに下宿を借りてましたが、往来が面倒で寝泊まりしながら研究する生活は楽しかった。
ちなみにひずみ勾配理論で導いた方程式の材料パラメータは5つぐらい出てくるのですが実験でもこれを特定できないので、対称性を仮定してスケール因子と材料因子の2種類のパラメータで表現できるという仮定を置いて、このパラメータをちょびっとずつ動かしながら再計算。
暫時それっぽいデータが吐き出されてくるので、これをポチポチとプロットして縦横斜めに見ながらウンウン唸って、担当教官とあーだこーだ議論して、なんかそれっぽいデータで論文を書き、発表用のプレゼン資料を作り、敢えて研究者視点で突っ込みたいポイントを残して、その周辺のFAQを分厚くして。
応用物理学会賞を頂きました。
高等教育機関でやるべきことはやりきった満足感があり、もう良いかな...ということで、アカデミックの道から逸れて国家公務員になることを決めました。
10代後半から20代前半のスポンジ脳の時代に、何の役に立つのか分からない抽象思考操作に耽溺したことは、自分の欠けがえのない財産になっています。
その後、経産省の採用活動のお手伝いで理系の学生向けイベントに良く行きましたが、常々言ってたのは、「理系こそ国家公務員になるべき」という話でした。
まず、どこに就職するにせよ、その専門性を単に専門領域で活かそうなんて視野の狭いことを言うなと。大学は高等教育機関であって就職予備校ではないよと。
大学では一つの学問領域の中で抽象度の高い論理思考の方法論を学んだのであって、それを活かせる場所はもっと沢山ある。
次に、あらゆるものが科学技術と一体不可分になっていく現代社会において、政治・経済・法律もその内数にあるんだよと。理系学生には基礎的な科学リテラシーを持っているという武器があるんだから、それを経済社会の発展に生かそうよ。
ちなみに法律改正なんてものはプログラムのアップデートパッチを作るようなもの。法律を読めば厳密な論理操作で構築されたアルゴリズムでしかないことがすぐ分かるはず。だから法学部を卒業してなくたってコツさえ掴めば法律改正の仕事は出来るし、むしろ理系センスがあればすぐにコツを掴める。
そうした将来有望な理系の若者が、数ある霞ヶ関の組織の中でも特に論壇風発、議論を重ねるケンカ省庁と言われている経済産業省に入るべきなのは何故か。
経産省では、何の専門家でもないゼネラリストが配属されて1週間後にはその道の専門家の顔をして語っている。これが出来るのは単なるハッタリではなくて、謙虚な気持ちでその道の一流の人達に会いまくるフットワークがあるから。
組織や立場の垣根なく、どんな人だって会って議論できるのが経産省の最大の強み。偉そうに座って情報がやってくるのを待つ規制官庁とは違う。
先入観を持たずに素直に新しい知識を吸収して、抽象度を上げて全体像を把握する知の瞬発力が、高いレベルで求められている。
理系的なセンスで、何故この領域はロジカルにこうなっていないのか?というピュアな疑問をぶつけまくり、七転八倒していくことが期待されている。
実際、正論は何よりも強い。だから嫌われることも多いけど、それでも全体最適視点で突き進め。
正しいことを正しく進めることが出来る職場って、なかなか無い。
僕からしたら何故ファーストキャリアに経産省を選ばないのか、意味がわからない。
骨を埋める必要なんてなくて、経産省でやれるだけやってみて、もっとオモロイ居場所を見つけたら軽やかに旅立っていけばいい。ただし今が辛いとか、働きと比べて稼ぎが少ないとか、そういう狭い視野で利己的に動くと絶対に後悔する。
せっかくやるなら大義に燃える人生を選んでみないか。
中途採用もやってます。
最後まで読まれた方におかれましては、奮ってご応募ください。
https://www.meti.go.jp/information/recruit/others/index.html
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