農業公園というスキームの可能性と課題
先日、赤坂にある「東京農村」の企画で、農業公園に関するセミナーに参加してきました。
最近、開設した農業公園の調布市の方々が登壇者のセミナーです。
現在、東京の複数の場所で進行しつつある農業公園というスキーム。
私たちも農業公園に携わっているため、知っておくべきだと思い情報交換のため参加してきました。
農業公園の関心の高さから会場は満員御礼の状態でした!
今回は、そのことについて話をしてみます。
調布市の認定新規就農者の話
セミナーの前半の登壇者は調布市の認定新規就農者の相田さん。
今後の農業公園に関わっていく担い手の一人としての登壇です。
相田さんは、1999年生まれの20代の若手の新規就農者。
学生時代、都市部の農地・農家が減り続けることに疑問を持ちはじめ、その後都市部で農業を続けることの難しさや、現状の制度では農地を残すことが不可能に近いことを知ったそうです。
しかし、それと同時に新規就農者の集まりである「東京ネオファーマーズ」のメンバーによる都市農業の起業、貸農園制度、法制度の変化などもリアルタイムで知ることにもなりました。
それならば起業をして自分自身が農家になり、未来に生き残れる都市農家の新たなロールモデルを作ろうと就職活動の間に考えていたとのこと。
大学卒業後、都内の農園や青果店、農体験サービスを行う法人での修行を経て、2024年にD.C.Farmという名前で開業(今後、TOKYO NOUKAと名前を変更する計画)。
「野菜を売らない農家」という野菜の販売以外を軸においた経営スタイルの確立を目指しています。
相田さんは主に3つの農業の形を主張していました(要旨)
1 エンタメとしての農業
こどもたちに農業を5感で楽しんでもらうエンタメを目指しており、親子田んぼ体験を実施。
小学校の体験プログラムとして実施してもらうために調布の全ての小学校に電話営業をかけていったとのこと。
小学校の体験プログラムとして50校に電話をかけて営業をかけた。
2 教育としての農業
出身大学の横浜国立大から、こどもたちの農業を通じての教育を研究するチームが結成され、農業体験を通じたこどもの学習効果を研究し、農業を通じた寺子屋的な新規事業を模索しているとのこと。
3 まちづくりとしての農業
農の風景育成地区制度(後述)を活用しながら、地元農家、地域住民、若い世代をつなげていく役割を持ちたいという話をされていました。
コミュニティガーデンを作る活動をLFCコンポストさん(ローカルフードサイクリング株式会社)と行っており、生ゴミを使ったコンポストを畑に肥料として使い、農家としてまちづくりの新たなモデルの形成をしていきたいとのこと。
相田さんの夢は多く、これからの都市農業の担い手として期待されており、調布市の農業公園にも関わっていくことにもなっています。
「農業公園」と「農の風景育成地区制度」
調布市の農業公園の前に「農業公園」と「農の風景育成地区制度」について補足をしておきます。
農業公園は、相続が発生した農地を自治体が買い取って市民に開放する仕組みで、2017年から取り組みが始まっています。
最初の農業公園である世田谷区を皮切りに都市農地を抱える自治体に広がってきました。
調布市では「農の風景育成地区制度」に基づいて、今年2カ所の農業公園を開設、地域団体や若手農家と連携して活用を模索しているとのことです。
「農の風景育成地区制度」とは、東京都の貴重な農地を保全し、農のある風景を維持していくために創設されて、平成23年8月1日から施行しています。
この制度では、農地や屋敷林などが比較的まとまって残る地区を指定し、散らばっている農地をひとつの都市計画公園として都市計画を積極的に活用することになっています。
地区指定ができることで
① 農業の継続が困難となった場合にも、区市町が農地を取得し(東京都が補助)農業公園として整備することができる
② 農業者との協力、連携が図られることで、農地の活用を通した農業者と地域住民との交流がさらに促進される
③ 都市農地の重要性などについての住民の理解が進み、農のある風景が保持し育まれる
などの効果があります。
特に区市町村による農地の取得の意義は大きく、農家(地主)の相続税によって農地を手放さざるを得ない構造的課題に対して、一つの解決策として今後注目を浴びていく制度です。
すでにこの制度の指定実績として世田谷区、練馬区、杉並区などの23区内で実施されています。
調布市は「農業公園」「農の風景育成築制度」を使って、これからの都市農業と市民の暮らしの共存を模索し続けていくとのことです。
調布市の農業公園の展望
次のセミナー登壇者は、調布市役所の環境部 緑と公園課の所属である松元さん。
まずは調布市の特性や環境についてお話をされました。
調布市農業公園の深大寺エリアは、「深大寺そば」で知られる歴史的観光地が有名で、植物園や農業高校もあり、農業とも深く密接に関わっています。
この昔から続く自然豊かな環境を守っていくために農の風景育成地区制度を使って市は農業公園を造る計画へ。農地取得の予算は3分の2が東京都、3分の1を市が負担で進めることに。
まず近隣住民に向けて説明会を行い、必要であるかの意識調査をされたそうです。
その説明会でのイメージとして農業公園を
・農業体験ができ、交流できる機能
・協働で行う体験や学びを通じて楽しむ機能
・気軽に参加できる機能
・都市農業をPRする機能
として、多くの市民に関わって行ける利用を考えていたようです。
さらに利用の例として
一般の立ち寄り利用
・市民農園等の利用者の参画
・利用者や農業高校等と連携した実験的農作物の栽培や展示
一次的なイベントなどの利用
・収穫祭やマルシェなどの交流イベント
・子どもや初心者向けの収穫体験教室
・地元農業者や農業に詳しい人との交流会や講座など
継続的なプログラム利用
・作付けから収穫までの一連の作業を体験できるプログラム
・都市農業の担い手を育てる人材育成プログラム
などがあり、農業公園を多様な形で活かすことが考えられています。
地理的な話で言えば
農業公園は、北農業公園、南農業公園と別れており、それぞれの目的や役割を分けながら運用していくようです。
そして深大寺・佐須地域農は、農業公園以外の周辺に里山の自然が多く残っているため総合的に連携しながら農の風景育成地区として保全していくようです。
農業公園の今後の展開として
農業公園を通じた地域コミュニティ作りを想定していること。
さきほど示した農業活動をきっかけに、地域住民と連携やコミュニケーションを増やすことで、より自発的な市民活動ができる環境を作ることを目指されていました。
この展開については、やはりどの地域の農業コミュニティも同じだといえます。
それと同時に課題にも共通する部分があるといえます。
それは、担い手不足という面です。
現時点では、農業公園は地域の農協であるJAマインズや一般社団法人グッド・コモンズさんが関わっており、最初にお話をした相田さんも農業公園に関わっていく予定だそうです。
とはいえ、長期的に包括的に誰(どの組織)がこの農業公園を管理していくかがまだ明確にはなっていないそうです。
そこで調布市としては農業公園に【コミュニティマネジャーの設置】を検討しています。
コミュニティマネジャーは、農地である場と利用者との間に存在し、場の魅力を最大限に高める役割を担うとされています。
農業公園においては、場の規律を見守りながら体験できるコトの価値の明確化、利用者同士のつなぐハブとして、農という場で過ごす関係づくりの設計をする役割を想定しているそうです。
私自身も多摩市の農業公園づくりにおいて、そういった役割に近いことをやっていますが、農業の知識を持ちながらも、コミュニティとの調整、マネジメントをトータルでできる人はかなり稀少だと言わざるを得ません。
私自身も常に難しさを感じています。
どの地域においても担い手不足は否めないため、人材を探すことよりも現場の活動とともに育てていくのが、遠回りの様に見えて近道ではないかと個人的に感じるところです。
農業公園は持続可能な仕組みなのか
お二人の登壇者のお話が終わったあとに、いくつかの質疑応答がありました。
全ては紹介できませんが、ひとつ印象に残ったものだけを紹介したいと思います。
私自身とまったく同じ視点で
【農業公園での収益性はあるのか、継続性はあるのか】
という趣旨の質問でした。
農業公園は初期投資の段階でいえば、東京都からの補助も出るため比較的取り組みやすい仕組みではありますが、長期的に継続する場合、維持費の予算は各市に委ねられていきます。
農業公園の事例として23区内で、すでに運用はされており、税収が比較的安定している所においては問題ないように見られます。
調布市も都心に近いため人口は増え続けており、全国的に人口減少傾向の中でも安定した税収も見込めるかもしれません。
しかし、それも時間の限りがあります。
調布市は2018年から2023年までは6000人増えていますが2030年ぐらいには人口減少へ転じると予測されています。
また、今回の調布市の農業公園の維持管理の経費は、明確に決まっていないようですが年間1000~1500万円近くかかるとも言われているそうです。
さらに今後、別の場所にも農業公園を作る可能性があることを考えると、やはり一定の収益性を生む部分を農業公園に生み出す必要があると考えます。
収益を生み出す為には、農業公園内に市民農園、体験農園などの仕組みの導入は最低限ありながらもプラスαとして、調布市民以外の顧客(都内に住んでいる人や外国人観光客)の受入れも想定する可能性があります。
しかし、そういった傾向が強くなってしまうと、調布市民のために作られているはずの農業公園がヨソモノの利用に偏ってしまい本末転倒になりかねないというジレンマも抱えています。
そもそも公共性や環境保全の意識の高い農業公園という場所で収益事業を展開することの難しさも存在しており、前提となる制度設計やルールについても現実ベースで見直す時期が来るかもしれません。
そのプロセスと答えについては、それぞれの農業公園の現場で試行錯誤しながら導き出す必要があるようです。
私たちが現在対応している多摩市の農業公園についても同様で、個別で答えを出しながら、数年後に答え合わせをしていきたいなと思っています。
その点も逐次情報発信をしていきますので、ご興味あれば引き続きぜひご覧ください!