安売りの誘惑に負けないための戦略会計の考え #会計から見る農業の経営分析
畑会の山田です!
今回は、前回の利益率の話の続きで、安売りがいかに危険かについて話をしていきたいと思います。
安売りの誘惑に負けないように
農作物は、嗜好品やお土産などと違い、日常品であるため多くの人にとって常にニーズがあります。
そのため、安くすればするほど、ほぼ完売することができる商品といえます。
マーケティングの知識や販売技術なども価格さえ低ければ必要ありません。
しかし、そうなってしまうと「骨折り損のくたびれ儲け」となります。
人件費として計算すると時給○百円の仕事になってしまいます。
それが利益の為でなはなく、生きがいの為でしたら全く問題ないのですが、経営として考えると致命的です。
もちろん安売りを絶対やっていけないわけではありません。
安く売ることが常態化してしまうことが問題なのです。
安く売りにしても理由や条件をつけて一時的に販売するまでにしてほしいと思います。そして安売りしてしまった原因を深く考え、同じような状況にならないように真剣に考える必要があります。
「今回も売れなきゃ、安売りして売りさばこう」と思うことは、都市農業で生業とする場合は、かなり危険な行為です。
安売りの誘惑に負けずに、より高い価格で買ってもらいましょう。
では、なぜ安売りが危険なのかを数字を通じて話をしてみます。
利益を2倍するためには、価格はいくら上げる必要があるか
突然ですが、質問です。
利益を2倍にするには、価格を何倍にすればいいか分かりますか?
この答えは、それぞれの立場や状況で変わるので、一概には言えませんが自身の農業経営をする場合は、ある程度把握しておくべきと思っています。
「利益が2倍だと、同じように価格も2倍ぐらいかな」ともし思っているのであれば、それは感覚的な経営になっていると言わざるを得ません。
そこで、数字を使って検証してみたいと思います。
まずはひとつの農作物の価格で、どれだけ利益がでているかを知る必要があります。
まず原価率についてですが、統計的な資料で見ると30~50%程度になります。
ここでは40%とすることにします。
またJAの直売所で販売する場合は、販売手数料として売上の15~20%がとられます。またスーパーによっては30%ぐらいのところもあります。
ここでは手数料を20%とします。
そうすると生産物の価格を100円とした場合、
利益は、
100円-40円―20円(20%)=40円。利益率は40%です。
この場合、利益を2倍にするためには80円になればいいことになります。
これを満たすため価格は、150円になります。
150円-40円―30円(20%)=80円。利益率は53%となります。
つまり利益を2倍にするには、価格を1.5倍で売ることができれば可能です。
仮に利益が2倍ではなくても1.5倍ぐらいでもよければ、価格は125円になるだけで到達可能となります。
その為、市販で販売する金額の20%~50%ぐらい価格をあげることだけで、経営の収益率が大きく改善するようになります。
もちろん、その価格を上げることが難しいと感じるとは思いますが、付加価値をつけたりやポジションを取ることで価格が上げる仕組みができあがったならば、それ以降は継続して利益を生み出せるようになります。
そのためにもマーケティングの知識や経営戦略についても農家は学ぶ必要があると強く思います。
安売りは、想像以上に利益を減らしている
では、今度は価格を上げるのではなく、安く売ることにしましょう。
例えば、さきほどの例を使うならば、100円から80円で20%の安売りをするとします。
そうなると80円-40円-16円=24円。利益率は30%。
100円の利益が40円だったので、40%も利益が下がってしまいました。
価格の増加率以上に利益率が上がったように、価格を下がる場合も、価格以上の利益率が減ってしまうこと分かると思います。
もし、100円で売った時と同じ利益を出したい場合は、約1.7倍の量を売らなければなりません(計算省略)。
1.7倍の量を売ることがどれだけ大変か、私以上に農家の方は分かっているかと思います。
何度も話した通り、都市農業においては生産量で競争は難しいことを考えると、この安売りという販売方法は、経営においては致命的といわざるを得ません。
たった2割の安売りとして捉えるのではなく、利益が4割減かもしれないことを農家側は知る必要があると言えます。それは、つまり所得も4割近く下がってしまうことを示唆しています。
そのためにも普段から、野菜を作る際にはどれだけの原価や経費がかかっているかを把握して、利益率を知っておく必要があります。
もちろん、農家の状況によっては、事例にだした金額よりも経費が少なく、利益率が高い場合もあるので大きな損をすることはないかもしれませんが、その事実を数字として知っているかどうかによって、経営のあり方はまったく違ってくると確信しています。
粗利益を大事にしている戦略会計について
急に自分の話になりますが、
正直会計は自分にとって難しくて縁のないものだと思っていました。そんな自分が、会計が面白いと思い始めたのは、戦略会計という考えに触れてからです。
戦略会計とは、西順一郎さんという方が提唱した造語です。
彼が言うには、いかに粗利益率を高めることが大事か、が書かれている本です。
そのことで、会計をより戦略的に使えるようになり、そこから会計は稼ぐためのツールという意識になった記憶があります。
そもそも日本のバブルの時代は、売上至上主義や規模が大きければよいという考えが強く、非常に効率の悪い経営をしていました。その考えに警鐘を鳴らしたのが戦略会計でした。
売上を高めて規模を大きくするよりも、少なくてもよいので粗利益を大きくすることで、経営の効率化を図り、ムダやリスクを減らすことになりました。
結果、利益率が高ければ高い業態ほど、より強い会社になります。
業界で言えば、IT業界の利益率は高く、農業の何倍も高い状態にあります。
例えば、現在、世界を席巻しているGAFAM(Google,Amazon,Facebook,Apple,Microsoft)は、IT業界で利益率が最も高く、日本の製造業であるTOYOTAがいくら業務改善をしても、彼らのような経営状態には構造上不可能です。
もちろん農業は、製造業よりも利益率が低くなりがちな業態です。
だからこそ、農業を生業としていくのならば、よりシビアに利益率を高めることに向き合う必要があります。その一つの考えとしては前回のカテゴリーでも話したビジネスモデルでした。
またビジネスモデルという枠組みではなくても例えば
・有機JASや自然栽培のような栽培方法で価値を高める
・機械や設備を購入することで、品質や量を高め効率化を図る
・販売する場所を東京都内に限定する
などの考えがでてくるかと思います。
それらの方法がいいかどうかは、正直思いつきレベルでは判断できません。
単価が上げられたとしても、それ以上にコストが大きければ利益率はかえって下がる可能性もあります。いわば、コスパがいいかどうかを判断していく必要があります。
それ自体の方法がいいか悪いかを最終的に判断すべきは、やはり数字を通して長期的な判断になります。
今回は以上です!
2回に渡り、利益率の重要性を話してみました。今回の件でいかに利益率が大事かはなんとなくは分かったのではないでしょうか。
現時点では、まだ基礎的な話なのでまた機会があれば、戦略会計についても深堀りをしてみたいと思います。
次回のお話は、最後に話をした「コスパがいいかどうか」を判断する経営指標について、お話をしてみたいと思います。
これも利益率と同じぐらい大事な観点です!
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