『コミュニティガーデン』という都市農地活用の選択肢
先日、日野市のコミュニティガーデン「せせらぎ農園」に行ってきました。
そのコミュニティガーデンでは、日野市民が中心となり農地を活かしながら生ごみを減らす活動をされています。
以前の日野市は、一人当たりの不燃ごみの排出量が多摩地区でもワースト1位になり、全国平均の2倍以上と厳しい状態でした。
その後、日野市が市民とともに「ごみ改革」をすることで、今では一人当たりのごみの排出量が全国1位になるほどの変革を見せることに。
その成果の背景には、この「せせらぎ農園」が大きく寄与しているのは間違いありません。
せせらぎ農園の代表は、佐藤美千代さん。
私たちの事業が間もない頃からのお付き合いで、いろいろと教えていただきながら、都市農業を共に盛り上げている間柄の方です。
いつでも明るく勤勉で活動的でありながら、とても謙虚な方という印象です。
久しぶりに佐藤美千代さんのお話を伺ってきました。
せせらぎ農園のゴミの堆肥化の流れ
せせらぎ農園の活動以前は、2004年に牛糞堆肥を使って日野市で生ごみの堆肥化を行っていました。
牛糞堆肥は、八王子市の鈴木牧場(鈴木亨氏)の堆肥を使い、福祉事業を行う「NPO法人やまぼうし」と連携して進められていました。
その後、鈴木牧場が閉鎖したことを機に、日野市内の畑に直接生ごみを入れる「土ごと発酵方式」に変更に。
そこでの畑が、現在のせせらぎ農園を開設へとつながっていきます。
(ちなみに「土ごと発酵」の指導をしていただいたのは、現在「菌ちゃん農法」で有名になった吉田俊道さん)
それ以降、多くの日野市民が関わるようになり、せせらぎ農園は農コミュニティへ変化。
多くの市民がごみのリサイクルの活動を行うようになりました。
現在では、生ゴミの回収は行われなくなり、各市民が生ごみを直接、せせらぎ農園に持ってくる方法に変更。
市民はゴミを生ごみBOXに入れたら、落ち葉たい肥、竹炭、竹チップをかぶせて発酵させていきます。時期ごとに分類させ、発酵が完了すると堆肥として使われるようになります。
せせらぎ農園のコミュニティ
現在、せせらぎ農園では50名前後の方が定期的に訪れ、コアメンバーは10名ほどのようです。
農園に来ると、毎回受付簿に名前を書いてそれぞれ農作業を行っていました。
農体験自体は、誰でもできるような受入れ体制になっています。
ただ野菜を収穫し持ち帰る事ができるのは、年会費を払っている人、もしくはその日に500円支払ってもらえば、単発で持って帰れるルールになっています。
お金を払わなくても畑に入れる農園の自由度の高さと収益源を確保するための方法が共存できる、よい手法だと思います。
農園を見学させていただくと、佐藤さんの指示などなくても、それぞれの役割を持って農作業を楽しくされていたのが印象的でした。
一般社団法人を設立、活動も拡大
2018年に前身となる「農のある暮らしづくり協議会」という組織が発足し、2021年には、一般社団法人TUKURUを設立。日野市民の人達を中心に日野市での農地活用の議論がされていました。
そこに私たち山田、舩木も、たまに参加させていただいていました。
一般社団法人TUKURUでは
・日野市民を対象にコミュニティガーデンを作るため講座の開催
・市民が参加できる農地を見つけ、コミュニティガーデンづくり
・行政との調整、賃貸借契約(利用権)などの事務手続き
などをされています。
実際に、「東平山ハチドリ農園」「ほっとプレイスうちたす」
というコミュニティガーデンが2か所生まれました。
たまに佐藤さんがサポートされているようですが、基本的に地元の日野市民の方が管理運営をされているようです。
佐藤さんがいなくて、農業コミュニティが生まれて運営されていることをサラッとおっしゃられていましたが、何気にすごい事だと思っています。
農地の管理運営をやってみると分かるのですが、誰かにお任せするのはかなり難易度の高いことです。
農業の知識や経験を前提に作業工程の管理、農法の方向性、人の受入れ、参加者同士の調整、ルール作り、経費や時間管理など、細かな調整がたくさんあります。
多くの農コミュニティにおいて、主体者が情熱をもって進めることは素晴らしいのですが、主体者が頑張りすぎると持続可能性に欠けるため、主体者が不在になると組織が衰退することをよく聞きます。
そういった中で、佐藤美千代さんが先頭に立たず、サポート役として動けているのは本当に意味があることだと個人的は感じています。
都市部のコミュニティガーデンの可能性
コミュニティガーデンという言葉は、まだ日本ではあまり馴染みがないようですが、海外の都市では、よくある仕組みの農園です。
(詳しくは新保さんの書籍『まちを変える都市型農園』に書かれています)
農地として畑の要素は残しつつも、花なども植えて庭のような空間をつくり、そこに多くの地域住民が集まりやすい環境を作ります。
行政が管理するような自然公園と違い、運営の主体者は地域住民やその組織になります。
私たちの場合、「コミュニティ農園」と言い方をよくしますが、農園よりもガーデンの方が、より人が集まりやすい空間を作れるのではと、佐藤さんのお話を聞いて感じました。
また佐藤さんのコミュニティ作りの考え方として、自発的に考え動けるよう促すため、まずはやってみることを重視し、ルール作りは60点でよいとおっしゃられていました。
まずはやってみて、そこから修正していく。
頭でっかちになりがちな現代社会の風潮の中で、実践経験に裏打ちされた佐藤さんの活動が、多くの人の意識を変えているだとお話を聞いて強く感じました。
そんな中、佐藤美千代さんの活動が評価され、日野市では、日野市農業振興計画の中に「市民団体と連携したコミュニティ農園の展開」の項目が追加され、これからさらにコミュニティガーデンが生まれる機運が高まっています。
都市農業の先行事例を走っていく佐藤美千代さんの活動に、これからも注目していきたと思います!