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都市農業は、鮮度を売れ!

12月のある日に、農業体験と食事のイベントを行いました。
その時のお客様の言葉がとても印象的だったので、そのことについて語ります。

けんちんうどんを畑で作っていました

とある体験イベントでのお客様の発言からの気づき

今回、提供をさせていただいたのは「けんちんうどん」。
豚肉やニンニクをゴマ油で炒めたあと、うちの畑で栽培した、サラダカブ、ニンジン、小松菜、里芋を入れてグツグツと煮込んで、うどんを入れたらできあがり。
仕事が料理関係の研修生の方に調理していただきました。
 
お客さん達にふるまうと、みなさん口を揃えて「うまい!」「おいしい!」と舌鼓を打っていました。
さらにある一人の年配のお客様は、こんなに「おいしい汁物食べたことが無い!」とまで言っていただき、提供側としては過分なほど嬉しい言葉になりました。
嬉しくなったと同時に、そこまで言わせている理由なんだろうと考えると、やはり野菜のうまさだと思うのです。
畑以外のものといえば、一般的な価格の豚肉、にんにく、そして冷凍うどんだったので、味の限界があります。そうすると結果として野菜の品質の高さになります。
とはいえ、うちの畑の野菜は何か特殊な栽培方法などがあるわけではなく、牛糞堆肥をベースとした土づくりで、農薬は基本使わない、さほどめずらしくないやり方で育てています。
では、おいしさを決める重要な要素とは何でしょうか。

おいしさの重要な3つの条件

私が考える農作物のおいしさの重要な条件があると思っています。
これは私の持論でありますが、尊敬するある野菜の目利きの達人の言葉をお借りしています。
農作物のおいしさの優先すべき条件が3つあって、それ以外もあるが、この3つ以上に重要なものは無いという見解です。
それは・・
①    農作物の旬であること
②    品種
③    鮮度          です。
これについては、実際の体感でも納得することが多いです。
よく美味しさの違いとして、農法(有機農法、自然栽培など)によるもの
土の微生物の状態が違うからだという話しもあります。
その要素も確かに大事なのですが、その前に上記の3つの条件を満たすことが優先です。
 
①の農作物が旬であることは、農作物が最も育ちやすい時期であることを示しています。
結果として、質も収穫量も高くなり、なおかつ虫食いなどの病害虫の被害が少なくなり
結果、各種栄養素が最も含有されているために美味しくなる道理です。
旬の農作物の方が、旬でない時期に栽培した農作物よりも栄養素が高いこともデータで検証されています。
②の品種については、おいしいと言われる品種を栽培すると、栽培さえできれば、ほぼほぼ味がよいものになります。最近では、苦み、辛み、酸味が少なく甘味が強い品種が増えているため、最新のタネを選んでいけば、より確実においしく食べることができます。
例えば、最近のカブの有名な品種で言えば「もものすけ」という品種。
ホームセンターでも並んでいる人気品種。
桃のようなみためもさながらに、味も甘くフルーツに近い食感で、カブのイメージをガラッと変えてしまうほどの美味しい品種です。
1粒あたり約10円で価格は、かなり高いのですが、美味しいものが食べてみたければ、ぜひ作ってみてもよいのかなと思います。

都市農業の野菜のおいしさは鮮度

そして③の鮮度についての話です。
鮮度は収穫した時点から、農作物が劣化していくという考えです。
(一部、熟成という手法で味がおいしくなる農作物もあります)
植物は収穫しても、呼吸をしているため時間が経てばたつほど内部に蓄えられた糖分や有機物が水や二酸化炭素へと代謝され、気孔から放出されます。
また収獲した後も成長していくため、細胞分裂が起き栄養素が使われます。
さらに水分の蒸発によりみずみずしさが奪われていき、その上、エチレンなどの腐敗を促す植物ホルモンも発生し適切な保存状態を保持しなければ、みるみると品質が劣化していきます。
結果、味は大幅に落ちてしまいます。
一般的にスーパーに並ぶ農作物は生産者から卸業者、仲卸、中央市場、小売店などを通じた流通を経ていくため、3、4日かかることもざらにあります。
その間、確実に鮮度は落ちてしまい、味が落ちる事が予想されます。
ただ、今回のうちで行ったイベントの用に採れたての野菜を使うことで、同じような品目だったとしても、スーパーの野菜は段違いに味の違いがあります。
普段では生食では食べない品種の野菜でも採れたてであれば、みずみずしく柔らかく辛みや苦みが少ないものも多くあります。
この体験については、実際に畑に来てもらわなければ味わえない感覚だと思います。

鮮度を売りにした販売アプローチ

ということで、3つの条件を提示しつつも、個人的には都市農業であれば鮮度を意識した販売に取り組むべきだと感じています。厳密に言えば、小規模農家においてもそれは当てはまります。
まず一番鮮度をアピールする分かりやすい方法として
【その場で食べる】ということ。
これはいわゆる収穫体験の際に食べてもらいます。
葉物や果菜類、豆類であれば、ほとんど生で食べられます。
基本的に加熱しないと食べない ほうれん草でも生でも食べることができます。
うちでは、丸オクラの収穫の際にその場で食べてもらいます。
ほとんどの方が生でオクラを食べることがないため、採れたてのオクラがこんなに甘くてみずみずしいんだと驚かれています。
そのような形で、もっとも新鮮な状態で食べてもらうことで、新鮮な野菜がこんなにおいしいのかと実感してもらうことが何よりも効果的だと思っています。
 
つぎに出荷する際には
【葉っぱや根っこをできるだけ残しておく】ことが必要です。
みなさんはスーパーにいく際に、ダイコンの葉っぱやニンジンの葉っぱがそのままついていることを見たことはありますか?
道の駅などの産直販売所以外ではあまり見たことがないと思います。

葉っぱがない理由に、箱に詰めるときの物流コストなどの都合もありますが、葉っぱがダイコンの水分を吸われないためでもあります。
これは野菜の収穫からスーパーに並ぶまでに時間を要していることを意味しています。
産直の場合は、ほとんどが収穫の次の日までには陳列するので、新鮮でそのままの状態で出しています。

都市農業においても生産者と消費者の距離は近いため、産直と同じようなことができ、スーパーと大きな差別化ができるわけです。
またダイコンやニンジンをスーパーでしか買わないお客さまは、葉っぱの食べ方を知らないことも多くあります。
うちの直売所で販売をしていても、「葉っぱいりません、切ってください」と言われることがあります。とてもおいしいのにもったいないと思ってしまいます。
そこで都市農業で売る場合は、葉っぱが付いていることで新鮮なことをアピールしつつ、その葉っぱをどうやって食べたらおいしいかを説明することで、付加価値を高めることができます。
この点を消費者に理解してもらえると、スーパーではなく産直の新鮮な野菜を買い求めるように行動が変化していきます。
根っこについては、食べられる場合はほとんど無いですが(ほうれん草は食べられます)、水につけておくと鮮度が長く保たれやすいため、梱包などに問題がないようであれば、根っこのある状態で出すことが望ましいと思います。
 
さらに直接、消費者とやりとりができる状態にあるならば
【早めに食べてもらうよう促す、鮮度を活かした簡単なレシピを伝える】
ようにします。
あたり前といえば当たり前ですが鮮度が落ちるため、早めに食べてもらいます。
購入したけど、冷蔵庫にしばらくおいて、スーパーで並ぶぐらいの鮮度になってから食べて「スーパーの野菜とあまり変わらないね」と判定されると、次の購買に結び付かないため、お客様には早めに食べてもらうことを強調します。
併せて料理のレシピも促します。
鮮度の良さを残すためにも、加熱する時間を少なくするようなレシピにします。
鮮度がよければ、苦み辛み酸味が少ない為、あまり加熱しなくても充分食べることができます。
長時間加熱すると栄養素や風味が飛びやすくなるため、鮮度の価値を活かせません。
※根菜やイモ系は品種や料理によって適切な加熱時間は違います
炒めるにしても「軽く火を通すだけで美味しいです」と伝えています。
 
また量が多くて冷凍保存する場合でも、購入後すぐに加工して冷凍庫に入れておけば、葉物野菜などは解凍しても比較的シャキシャキとした状態で食べられるので、そのことも伝えると、より買ってもらえる機会が増えます。
 
以上のように
消費者とコミュニケーションがしやすい都市農業だからこそできる鮮度を売りにした販売アプローチがあります。
この点は、まだまだアイデア次第でさらにいろんな可能性が拡がると思いますので、いま消費者と近い場所にいる生産者、もしくは今後そうなりそうな場合は、鮮度の価値について改めて考えてみてはいかがでしょうか。

【自己紹介】
非農家でありながら、東京の八王子で農業系サービス事業を展開。
専門分野は都市農業の経営、都市部での小さな農、コミュニティ農業、農のある生活、キャリア視点から見る農などで幅広く農業を語っています。
【研修事業のご案内】
東京キャリアファームhttps://tokyo-c-farm.com/
年間を通じて募集中(おススメは春の時期)
ZOOMによる講座を中心として
東京八王子を中心に現場での農業体験も行っています。

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