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【農業マーケティング持論 後編 ~ 自己実現のマーケティング論 ~】

前回は「なぜ農業業界にマーケティングが浸透しないのか」のお話をしました。
今回は、農業マーケティングの可能性について探っていきたいと思います。
マーケティングは、いろんな視点で語ることができますが、今回あまり語られることのない本質的な視点からお話してみます。
今回のテーマは、マズローの5段階欲求節をベースにして説明すると分かりやすいため、こちらの考え方を説明しながら、お話をしていきます。

マズローの5段階欲求説とは

まずはマズローの5段階欲求から解説してみます。
マズローの5段階欲求説は、心理学者のマズローが提唱した説で、欲求が段階を経て変化する話になります。図を参照してみてください。
また自分自身と照らし合わせて考えると分かりやすいと思います。

マズローの5段階欲求

生理的欲求
食べたい、飲みたい、睡眠や排せつ、呼吸など
安全欲求
心身ともに健康であること、経済的に安定し、暴力や危険な場所から回避している
所属と愛の欲求(社会的欲求)
恋人、家族、友人とのつながり、会社や学校、地域社会でのつながり
承認欲求
周囲から認められたい、自分を価値ある存在として認められたい
自己実現欲求(自己超越含む)
自分の可能性を最大限に発揮し理想の自分に近づく、自分らしく生きたいという欲求
 
以上のような形で5段階に分かれます。
ほとんどの場合、最初の生理的欲求から順番に階段を上っていく必要があります。
いきなり最初から何も満たされない状態で、自己実現の段階に行く事はほぼあり得ません。

5段階欲求説を農業に照らし合わせてみる

では、次にさきほど上げた5段階欲求の部分を農に照らし合わせてみます。

マズローの5段階欲求を農業ビジネスを照らしてみると・・

この中で大きくは①、② と ③、④、⑤で大きく分かれます。
①と②は、いわゆる一般的なイメージの農業で生産販売を行っています。
②は有機JASや自然栽培などこだわりのやり方で、安心安全思考の消費者の販売になっています。
③、④、⑤については、農をベースにしつつもサービス業などに焦点をあて、人間の隠れた欲求を満たすサービス業です。
③は、体験イベントなどを通じて家族や仲間のつながりを深める価値があります。
表面的には、子供に喜んでもらいたい、美味しい物を自然の中で食べたいなどの言葉になりますが、その本質は③の所属と愛の欲求があり、イベントの目的意識もそこに焦点を当てていくと満足度も付加価値も高まるようになります。
④は、農業界においては、より事例が少ない段階です。
農業というよりもインフルエンサーが行うような行動になったり、社会に貢献するための消費をしたりすることで、自身の社会的評価を上げるニーズが存在します。
(本来は、前者と後者は別で説明すべきですが長くなるため割愛します)
どちらの場合も、自らが情報発信者となり、農作物そのものよりも実践的知識や社会への問題提起などの啓発的な活動を中心に展開します。その中で、農作物や加工品、サービスなどを織り交ぜて提供することになります。
⑤は、④とも似ていますが
焦点が周りの評価ではなく、自分自身のやり方ことにベクトルが向いています。
この段階になると、より抽象度があがり、物質よりも生き方にシフトしていきます。
難易度が最も高い分、やっている事業者はさらに少なく単価もあがっていきます。
 
以上のように
同じ農業といっても、解釈や視点を変えることで、全く別の事業が生まれます。
マーケティングもこの5段階欲求の構造で見ると、自身の事業がどのような階層で進めているかが、より理解できるようになると思います。

あえて自己実現のビジネスモデルを目標にする

私としては農のマーケティング戦略を進めていくためには、あえて最も難しい自己実現欲求のサービスを目標に進めていくことが大事だと考えます。
理由としては、小規模で始めた場合に高い収益率を維持しなければ、事業として成り立たなくなるからです。
もともと低い収益率の農業を小規模でやったとしても、たいした稼ぎにもなりませんし、拡大したところで、その分経費や身体の負担がかかってしまうので、継続していく事が困難です。
そもそも論をいえば、私は農家にならなくていいと思っています。
農家になるためには少なくとも約2年の研修を経て農業に携わる必要があるため、農家にならずとも農に関わる方法を検討したほうがいい場合が多々あります。
実際に私自身農家ではありません。
ですが、ほぼ毎日農作業をしており、それでいて一般の農家よりも収入があります。
農家になることを目標にしてしまうと、かえって選択肢が狭まる可能性があるので
まずは農に関われる自己実現のビジネスモデルを考えていくほうが長期的に見て近道だと私は考えています。
(もちろん、ひたすら生産したいと最初から腹が決まっている方は、農家になることがおススメしています。稼げることと価値観は別で考える必要があります。)

農のあるライフスタイルの提供する

では自己実現のビジネスモデルとは何かというところですが
【農のあるライフスタイル】を提供していくサービスです。
農業においての自己実現とは、農のあるライフスタイルと言い換えることができます。
私が研修事業を立ち上げてから気づいたのですが、研修生のほとんどが農家になりたいわけではなく、農のあるライフスタイルを持ちたいと思っていることです。
農家になりたいと入ってきた人もよくよく聞けば、農家でなければならない理由がなく、むしろ農家でないほうが現実的にうまくいく可能性がある人もいました。
つまり
【農のあるライフスタイルを実現したい】
という潜在的なニーズが実はかなりあるのではと思っています。
 
以前、私が書いた記事で、農業は産業化した農とライフスタイルの農の2極化になると書きました。

日本全体として農業は大規模化が進み、より生産性や効率性の高い農業が増える一方で、その反動として、昔ながらの農の分野や食文化を大事にしようとする復興運動のような流れが生まれると考えます。もちろん、そのまま昔に戻るのではなく科学技術を取り入れながら個人レベルで農のあるライフスタイルが大量に生まれてきます。
今回、事例の紹介は割愛しますが、実際にその兆候は全国で拡がっており、ごく少数の方がリーダーシップを発揮し、生き方を含めた農のライフスタイルを発信しています。

ライフスタイルをベースにしたマーケティング戦略

では、実際にどうすればよいかを考えていきます。
それは【自分自身が理想の農のあるライフスタイルを築くこと】から始まります。
一般的な形としては、自給自足のようなスタイルが分かりやすいです。
野菜であれば、1~10a(100~1000㎡)ぐらいあれば、できると言われています。
この面積であれば、地方だと自宅の庭などを使ってできる可能性がでてきます。
ですが、現実的には難しい点がいくつかあります。そのため、全てをまかなうのではなく一部をまかなう半自給自足生活のような形が妥当だと考えます。
その考えをベースにして、何かに特化したものを作っていきます。
それは個人的に好きな物をやってみたらよいと思っています。
今までの研修生の中で例えば、ハーブ野菜(加工含む)、果樹、水耕栽培、アクアポニックス、お酒、自然栽培、加工食、健康食などいろんな個性的な農のあるライフスタイルを模索されていました。家畜も組み合わせるとより面白くなるなと感じています。
そうやって自分にとって、理想の農のあるライフスタイルを決めて実行していきます。
それ楽しく発信し続けていくことで、必ず誰かが興味を持ってもらえます。
ここで大事なのは、まず自分が楽しんでいること。
自分自身が農のライフスタイルを楽しんでいなければ、相手にその価値が伝わりません。
農家が「しんどい」という趣旨の愚痴を発信しているのをよく目にします。
間違いではないのですが、それでは人は集まってきません。手伝おうと思う人はでてくるかもしれませんが、顧客にはつながりにくいです。
人を集めて集客をしたいのであれば、楽しいことをできる範囲でやり続け発信する事。
時間は数年かかる可能性があるかもしれませんが、それがライフスタイルをベースにしたマーケティング戦略の基本になります。
自身のライフスタイルが仮にニッチなことをやっていたとしても、SNSを駆使することで、同じような趣味嗜好な方は少ないですが必ずいます。ネット上であれば、距離的制約はほぼ無く、数百万~数千万の人達に伝えられるため、ターゲットの割合が全体の0.01%だったとしても数百~数千人の見込み顧客が存在しています。
そういった人たちをターゲットにして進めていきます。
 
ターゲットの方々と交流できるようになれば、いろんな商品やサービスを提供する機会が生まれます。
それは、農作物や加工品でもサービスでもよいかと思います。
しかし、大事なのはその先のライフスタイルを提供することを意識することです。
単純に作った物を売るのではなく、知識、ノウハウ、ストーリー、情熱などを混ぜながら販売し、最終的には、同じようなライフスタイルができるようにサポートしていきます。
そこからはサブスクリプションのような会員制でもいいですし、研修カリキュラムを受講するなどのサービスに提供することができます。
ニッチなニーズなため、単価も強気で高くすることが可能です。
さらにはファンとして、また先生と生徒、師匠と弟子、仲間としての関係性にもつながっていく可能性を秘めています。
そうなっていくとコミュニティビジネスへとさらに段階を上げられるようになり、さらにいろんな可能性が拡がっていくことが予想されます。
 
以上が、私が考える農のマーケティング戦略でした。
実際に私は【東京キャリアファーム】という、自己実現欲求の視点から研修サービスを提供しています。まだまだ試作段階にあるので、そんなに単価は高くありませんが、一人当たり最低10万円からなので、一般的な農作物を売るビジネスモデルよりも利益率が高いことは証明できているかなと思います。
 
今回は戦略の本質的な部分が大きかったため、今後は具体的な事例なども紹介しながらマーケティングのことも、どこかのタイミングで話をしてみたいと思います。
これから農業を始めたい、もしくは関わってみたいと思う方は、ぜひ今回の記事を参考にしてみてください!
この視点があるかないかで戦略も方向性も大きく変わると思います。

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