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利益を見えなくさせている農業の根本的な問題 #会計から見る農業の経営分析

畑会の山田です!(お久しぶりです)
さて今まで、都市農業にとって大事な経営指標として「利益率(粗利益率)」「資産収益率(ROA)」の話を2回ずつさせていただきました。
この2つに共通しているのは、利益という点。
この部分をさらに深堀していきたいと思います。
今までもそうですが、あまり具体的な数字の話はしていません。
数字を使いこなす上で根本的な考えの話をさせていただいています。
今回の話も、そういった類の話になりますが#会計から見る農業の経営分析のカテゴリーの中でも、中核的な話の一つになります。
 
さて、おさらいになりますが利益とはシンプルに言えば
「売上 ― 経費」になりました。
利益を増やすためには売上を上げ、経費を下げ、
そのために細分化をして分析する必要があります。
その話をざっくりですが4回ほど話をしてきました。
 
ただ、その中で話していない経費がありました。
その経費は、利益を導き出す上でとても重要な要素になります。
それでいながらも農業では最も軽視されている経費でもあります。
 
それは、人件費になります。
さらに詳しく言えば、「時給換算した場合の人件費」です。
 
農業において人件費が軽視されがちなのです。
では、なぜ軽視されるのかは、いくつか理由があります。
 
・農作業は時間よりも日照や気候によって左右されていること
・作ったものを売るという完全成果主義で、時間を考慮しない傾向
・労働基準法の適用除外の部分がある(労働時間や休憩など)
・昔から続く多様な仕事をもった百姓としての歴史的背景
・そもそもスローライフの仕事を目指している(一部)

 
などがあり、労働時間を管理できる環境、状況でないことが理由としてあがります。
結果として
1年間でどれだけ収入があるがあるかを気にしても
1年間で何時間働いてどれだけ収入があったか気にする人は少なくいのが現状です。
 
私は時給ベースの人件費を把握しようとしないのは、経営としてはかなり危険だと思っています(もちろん、稼ぐための農家を目指していない場合はその限りではありません)。
危険である理由は、経営改善ができないからです。
時給ベースの人件費を算出することの意味は、
労働を数字化して「見える化」することにあります。
現実では時給100円の時も3000円の時もあると思いますが、それは、たまたま時給100円なのかもしれないし、タイミングがよくて時給3000円だったかもしれません。
そこで一喜一憂せず、その因果関係を数字に落として認識しておかないと、また同じような失敗を起こしてしまいます。
まず初めに認識して分析することが目的になります。
 
あと勘違いしてしまうのは、アルバイトのような時給〇〇円といった考え方と混同されてしまうことです。
たまに農家との話題で、アルバイトとの時給とくらべ、農業は儲からないという話があがります。
これはネタとしての話はいいのですが、真に受けてしまうと誤った判断をしてしまいます。
アルバイトは、時間を会社や事業者に提供して、時間に基づいた給与(報酬)が払われている反面、農家(経営者)は、自らの生産性をもとに給与(報酬)が払われています。
まったく性質が違うものなので、比べるものではありません。
ここでの時給としての人件費は「労働生産性」を表しています。

図1


では、時給としての人件費が分かるとどういう経営改善につながるのでしょうか。
 
分かりやすい事例としては、マルシェがあります。
マルシェを売る場合に、売り上げが4万円、諸経費や必要経費を引いて粗利が3万円だとします。ぱっと見で、一日3万円であれば、悪くないと感じるかもしれません。
ただマルシェのための収穫、準備や打ち合わせ、移動時間、片付けや売れ残りの野菜の処理、報告書の作成なども含めると1日に収まらず、3日に渡り20時間だとする場合、時給は1500円となります。また生産する時間を計算いれる場合やほかのスタッフと一緒に行う場合を考慮すると時給はさらに下がることが分かります。
この数字がよいのか悪いのかは、自ら決めた基準や相対的なもので一概には言えませんが、この時給よりもあげるために、どうすればよいかを考える必要があります。
(個人的には複数人でマルシェをやる場合、10万円近い売上を出せるようにならないと継続は厳しいかなと思っています)
ここで経営改善として、無駄な時間をいかに省くか、マルシェに関わる活動をすべて洗い出し、どこが省略できるか、削減できるかなどを考えることになります。
時間あたりの生産性を数値化しなければ、そういった発想を湧きづらいものになり、単純にマルシェで3万円の利益がでたという認識だけで終わります。
つまり次のマルシェ(経営)での改善点が浮かびづらいことになります。

また別のパターンとしては資産収益率(ROA)の話をしましたが
設備投資などをする場合にも基準として、生産量があがるか、売上が上がるかという視点はあっても、どれだけ人件費が削減できるかで考える人は少ないかと思います。
少ない理由として、一人当たりの1時間あたりの生産性(時給)を数値化していないことにあります。数値化していないため、設備投資することでのメリットが曖昧になってしまいます。目的は利益を上げることなので、設備投資で人件費が大幅に削減できるのであれば、結果として利益は高くなるわけなので、その点についてしっかりと検証する必要があるといえます。
例えばある機械Aを導入することで、作業時間が一日1時間短縮され、年間100日使用するとなると年間100時間が短縮となります。
ここで時給が決まっている場合、仮に1000円としますが、年間で10万円の人件費が削減されることになります。
もし、その機械Aの価格が5万円ならば、買ったほうが、利益率が高くなることが分かります。
逆に20万円だった場合、買うべきか検討すべき判断になります。
場合によっては機械Aを5年間使い続けるということであれば、50万円の人件費に削減なので、買おうという経営判断もありえるわけです。
逆に時給としての人件費を数値化していないと
「この機械Aを導入すると楽になるから買おう」ということになり、楽になるのはわかるけど、その機械を導入することによって経営改善や利益率が高まるのか、そうでないのかが判断しづらくなってしまいます。

以上、2つの事例から、時給あたりの人件費を導くことで経営改善の意思決定が可能になってくることがご理解できたかと思います。
もちろん現実的に正確な一時間あたりの時給を算出するには細かな計算する必要もありますし、時期によっても大きく変動するので、もっと長期的な期間から考えていく必要はあります。それと同時に細かく管理しすぎると、管理するコストが大きくなってしまうため、簡易化する必要もあり、バランスが求められます。
その点については次回にもう少し掘り下げてみたいと思います。

いずれにせよ多少のずれがあっても、一時間あたりの人件費が分かっていることは経営判断の大事な指標になっています。
一人、もしくは家族経営でやる場合も当然大事ですが、組織的に農業をやる場合は、さらに人件費を明確にすることに重要度が増します。ひとつの作業や事業にある程度、労働生産性としての時給が見えていなければ、どれぐらいの時給で何をお願いすればいいか分からなくなってしまいます。経営者自身は、生産性の高い仕事を集中的に行い、低い仕事に関しては、機械化もしくは別の人にお願いすることが求められます。
それができなければ、結果として規模が大きくなったが利益率が下がる、という本末転倒な経営になります。
そのため、時給としての人件費を意識してみてください。
 
今回は以上です!
次回は先ほど話したとおり、人件費の管理方法について話してみたと思います!

【自己紹介】
非農家でありながら、東京の八王子で農業系サービス事業を展開。
専門分野は都市農業の経営、都市部での小さな農、コミュニティ農業、農のある生活、キャリア視点から見る農などで幅広く農業を語っています。

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東京八王子を中心に現場での農業体験も行っています。

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