農業マーケティング持論 前編 ~ なぜ農業にマーケティングの考えが浸透しないのか ~
今回は久しぶりに農業経営に関するお話をします。
農業経営の中でも重要度は高いけれども、軽視されがちなマーケティングについてです。
農業に関わり始めるころから、マーケティングのことも調べていました。
しかし
農業の生産技術の知識は巷には溢れているけれど、農業の販売戦略やマーケティングは、調べても不思議となかなか見つけられませんでした。
農業のマーケティングの知識が存在しないのならば、
一般的なマーケティングの知識を農業に応用すればいい!
と、そんなことを考えていました。
例えば、王道なマーケティングのフレームワークとして
・4P(Product、Price、Promotion、Place)
・3C(Customer、Competitor、Company)
・PEST分析(Politics、Economy、Society、Technology)
・STP戦略(Segmentation、Targeting、Positioning)
などがあります。
(ご存知ない方は、この機会に検索してみてくださいませ)
フレームワークを一つひとつ説明すると、話が逸れるので今回は割愛しますが、これらを農業の業界に当てはめられることは可能です。
しかし、実際に取り入れようと思うと、かなり難しいことに気づきました。
どう難しいかと言うと、やってみても机上の空論になりやすいということ。
やってみても、マーケティングを使いこなすには、いろんな条件を乗り越える必要があるのです。
もう一度、農業の特性を前提にマーケティングを見てみたいと思います。
以前の私が書いたものも参考にしていただければと思います。
その中で、少なくとも4つの理由があるなと感じました。
一つずつご紹介したいと思います。
① 農作物は誰でも食べるものなので、安くさえすればある程度売れてしまう
どの業種も商品を販売するにあたり、多少の差はありつつも、必要とする人の範囲が決まっています。
いわゆるターゲット層とも言われるものです。
そのターゲット層の対象が、生きている全ての人が対象になる業界があります。
それは農業という業界です。
全ての人が食べてなければ生きていけないという前提から、常に農作物をどんな時期も関係なく、誰でもが購入することになります。
大きなニーズが存在する為、多くの農家が参入しており、スーパーなどの小売店にズラッと陳列されています。
ただ農作物は、日常的に購入するもののため、かなりの層で安い価格ものを求める傾向にあります。
そのため、価格を市場価格より安くさえすれば、かなり確率で売切れることも可能です。
利益が少なくはなりますが、捨てるより売れてしまえば、とりあえずよいという生産者もいるため、価格はより安くなる力が働きます。
また何度か安売りして売切れてしまう経験を繰り返してしまうと、付加価値を付けて高く売る努力をするよりも、ものを大量に作って安く売った方が楽ではないかという考えになってしまい、マーケティング思考を失ってしまう農家もいます。
大量生産して安く販売する戦略であれば、ある一定の合理性はありますが、とりあえず流れで安売りしていった場合、低い利益構造になってしまい、骨折り損のくたびれ儲けになります。
頭では分かっているけれども、売れ残りが増え、廃棄が続くと、まずは安売りという選択肢が先にでてしまう傾向にあるのが農業だと考えます。
② 傷んだり、急に生産が増えたりして販売交渉が不利な構造
先ほどの話ともつながりますが、農作物は基本的に鮮度が命のため、収穫した場合、早めに売り切る必要があります(カボチャやサツマイモなどの熟成させることができるもの以外)。
収穫された段階で売れる先が決まっていなければなりません。
決まっていなければ、先述した通り買いたたかれてしまいます。
さらにそれを加速させるかのように豊作貧乏という状態もあり得ます。
自分の所が豊作であれば、他の農家でも豊作であることが多く、相場が値崩れし、単価が下がってしまい、物流、販売コストがかかってしまうため、売れば売るほど利益が減るという構造になります。
そのため、出荷せずに畑に廃棄する選択をする農家もいます。
天候の変化、市場の変化が読みにくい農業では、常に変化するために、その都度、販売交渉で強気に進めることが難しく、売り先や小売店や卸業者の相場でコントロールされてしまいます。
契約農家や安定供給体制を構築している農家以外は、販売交渉ができず、マーケティングの知識も活かすことが難しくなってしまいます。
マーケティングの知識を発揮する前に安定した供給体制ができることが前提になります。
③ 顧客のニーズに合時間的ラグや技術的課題(栽培技術、品種など)がある
顧客が欲しいものがあったとしても、すぐに提供するのが難しいのが農業。
1年以上かかることもあり、いざ出荷する頃には、ブームが終わることも考えられる。
例えばタピオカブームのようなことが起きたとしても、いざ原料のキャッサバを日本で作ろとしてもすぐには栽培できず、輸入する選択肢しかない。
(そもそも栽培すること自体が、生産効率が低い場合もありますが)
また、味や見た目のニーズが明確に分かったとしても、それに併せられる品種を作るのも時間がかかるし、いつできるかの目途がつかないこともしばしば。
製造業やサービス業のように、ニーズに合わせた商品開発が難しい。
人間が対応できる努力が限定されているのが農作物でもあります。
逆に言えば、ニーズに合わせた農作物が作れると収益性が大幅に上がります。
④ 歴史的に経営者として販売することがほとんどなかったため
もともと農家自身が年貢米として預けて、商売をすることが無かった歴史背景もあると考えます。
農家はコメを売ることを基本的にはせず、一部を年貢として納めながら、お米を市場で換金という形をとっていました。またコメそのものが貨幣としての役割をあったため、農家が商売をしてきた歴史的背景はありません。
江戸時代後も、大地主と小作人という関係が存在しており、小作人はひたすら栽培にのみ力をいれて販売はしていませんでした。
戦後GHQの農地改革後に、小作人が独立をしてモチベーションの高い農家が増えました。
しかし、販売においてはJAという農業協同組合が生まれたことで、JAが代わりに集めて買い取ってくれる仕組みが続きました。
そういった農家の歴史をみると、そもそも農作物をどう売るかを求められなかったことも、未だに農業経営が苦手なことの理由かもしれません。
ただ逆に考えると、JAが弱体化、JA離れをしつつ、ニーズが多様化しているため、これからマーケティング思考の強い新しい農家がドンドン生まれる期待もできます。
以上が農業にマーケティング思考が浸透しない4つ理由でした。
この4つの理由を前提して思うのは、農業を最初に始める時点で、ある程度のマーケティング戦略を練っておく必要があるということです。
まずは作ってから誰に売ろうかと考えている時点で、マーケティングの浸透しない理由につながっていきます。一度、その状態になってしまうと目の前の栽培ばかりに時間を取られてしまい悪循環の流れになります。
そうなるとリカバリーが難しくなります。
では、具体的にどういう風にすればいいの?具体的な例は?
という話しになりますが、この辺の話はまた別の機会に一つずつお話をしたいと思います。
次回の農業マーケティングの持論の後半は
今まで、あまり語られなかった農業の価値を別の視点の農業マーケティングとして語っていきたいと思います。
前半は前振りで、後半が、本質的な重要なお話になります。
ぜひご覧ください!