ハートブレイクと懐中時計(オツキアイ)
そういえば、大学生の頃に初めて付き合った彼にプレゼントを渡そうとしたことがある。
昔から気に入っていたアパレルブランドの腕時計。ブラックがベースでゴールドの文字盤がアクセントになった、ちょっとカッコいいメンズウォッチ。
二十歳を超えてやっと幸せを掴んだ。といってもほんの1ヶ月の幸せだったけど。
バイト先にやってきた派遣さん。でも歳が近かったから気さくですぐ仲良くなった。恋をするのも時間はかからなかったし、付き合うのも早かった。
バイト先のメンバーで遊ぶこともあったけど、二人で仕事終わりに話したり、日付が変わるまでメールのやりとりをしたこともあった。それが一番楽しかった。
けど、それもほんの1ヶ月だけ。
社会人と学生じゃ、時間の使い方が違いすぎる。
結局、すれ違いというか多忙が原因で別れてしまった。よくある話だがあまりにも突然すぎて自分自身を納得させるのに時間がかかった。
そんな矢先にクリスマスシーズンがやってきて、何気なく入った店に例の腕時計があり、思わず衝動買いしてしまった。渡せる訳なんかないのに。
まだ好きだから。まだ諦めたくないから。
自分を奮い立たせて渡そう。そう決めたのに。
結局、渡すことなく終わってしまった。
大学も3年、4年生となるとゼミやら就活やらで忙しくなり、バイトに入る時間も減ってしまった事もあってなかなか遊ぶ機会も減ってしまったが、時々集まって遊びに行く姿を見ると胸が締め付けられて辛かった。
あの輪の中に入りたい。でも、そんな事許されないよな。半ば自暴自棄になりながら何度帰宅したかわからない。
卒業が決まってバイト先を辞める時も、話す機会がなかったせいか中途半端な気持ちのまま、彼の背中をただ見つめることしか出来なかった。
別れ際、彼からこんな事を言われた。
「辛い思い、させたくないから」
どっちに転んでも辛かったし、今も辛いよ。
彼にぶつける事もできないまま、ハートブレイクした学生生活が終わった。
ちなみに、数年経ったある日、何気にSNSを開いたら彼の名前が出てきたのでプロフィールを見た。
彼はいつのまにか結婚していた。
知らないのが当たり前なんだけど、涙が止まらなかった。
なんだ、幸せ掴んだ人、自分じゃなかったんだね。