商品のないデパート
こんにちは、コーイチです。
コロナ禍以前から百貨店の危機は囁かれていましたが、今回は、アメリカの百貨店の新しい試みをしている、商品のないデパート「Nordstrom Local」を見ていき、このような業態が日本でも登場するのか考えていきたいと思います。
1. Nordstrom Localとは
(出典:CGTN America youtubeより)
Nordstromは、アメリカ合衆国ワシントン州シアトルに本部と本店をおく、全米でも有数の大型百貨店チェーンです。
Nordstromは、1901年にシアトルの靴屋として開業してから、全米規模で最先端のファッションを提供することに特化した小売りとして、またそのカスタマーサービスや、広いサイズ在庫、あるいはその衣類や靴、装飾品を、家族全員に幅広い趣味で提供できる店として知られています。
そのNordstromが、サービスをメインとした新コンセプト店「Nordstrom Local」を2017年10月にロサンゼルスに開業しました。
このコンセプトは、消費者直結型ブランドのショールーム戦略を参考にしていますが、Nordstromの価値提案の核である「サービス」という考え方に立ち返ったものとなります。
「Nordstrom Local」で交流したり、関与したりした顧客は、その直接的な結果として、2.5倍以上の支出をしてくれるようになったとのことです。
Nordstromのカスタマーエクスペリエンス担当シニアバイスプレジデントであるシェイ・ジェンセン氏は、店舗が顧客にサービスを提供していることに触れ、「これは、今日の消費者にとって、簡単さとスピード、時間の価値が非常に重要であることの証拠だと思う」と述べています。
「Nordstrom Local」コンセプトの特徴は、単なるショールームを超えて、サービスと体験が出会う空間に焦点を置いていることで、店舗では、オンライン注文の受け取りと返品、お直し、スタイルアドバイスと仕立てのサービスという3つのコアサービスを提供しています。
その他、ネイルビューティーサービス、店内バー、ベビーカークリーニングや衣料品の寄付などのサービスなどもあり、これらは店舗によって異なります。
「Nordstrom Local」は2018年秋にロサンゼルス、2019年9月にニューヨークにオープンし、現在は、ロサンゼルスに2店舗、ニューヨークに2店舗、サンタモニカ、ニューポート、マンハッタン・ビーチに各1店舗の合計7店舗を展開しています。
2.Nordstrom Local Upper East Side(NY)
(出典:Shoptalk youtubeより)
2019年9月にマンハッタンのアッパーイーストサイドにオープン。
店舗は、セカンドアベニューサブウェイの72ストリート駅からほど近く、数ブロック西側にはセントラルパークがある立地で、周辺にはブランドショップやサロン、画廊に混じって昔ながらの商店が並ぶ高級住宅地があります。
店舗は、シンプルな外観の1階建てで、店舗面積は170㎡でブティックほどの小さな店舗になっています。
店内に入ると、左側面に設置されたピックアップ用の大きな棚があり、棚には顧客がオンラインでオーダーしたパッケージが多く並んでいます。
店内には販売用の商品はごくわずかしかなく、中央には大きなフィッティングスペースが設けられて、ピックアップに訪れた顧客はその場で試着し、サイズが合わなかったり、気に入らなかったりする場合は、交換や返品ができます。
Nordstrom以外の店で購入した返送品も手続きできるということです。
ジェイミー・ノードストローム代表取締役は、ブルームバーグの取材に「リターンは顧客と小売双方にとって痛い点」と述べ、「日が過ぎることは、潜在的な売上を失うことで、別の顧客がそれを手にできないということだ。」と機会損失の問題に触れつつ、新店舗の取り組みが、返品処理の迅速化につながることに期待を示しています。
店舗の最奥には、ラグジュアリーなスタイリングスペースが設けられており、事前にアポイントとって無料で専門のスタイリング・コンサルタントによる相談を受けることができます。
スタイリングサービスに加え、お直しコーナーやギフトラッピングコーナーが設けられており、カウンターでは、ハンドバッグや靴のリペアも受け付けます。
毎週木曜日には、ママ向けに、専門業社が訪問し、ストローラーのクリーニングサービスも提供するといいます。
さらに、入り口付近には、チャリティーコーナーがあり、不要な中古品を寄付することもできるようになっています。
アメリカは税控除になることもあって衣服を中心として不必要になったものを捨てずに寄付する人が多く、その受け皿としてサルベーションアーミー(救世軍)という大きな組織からローカルベースの小さなNPOなどたくさん活動しています。
この店舗はそれらのNPOにスペースを提供し、運営してもらっています。
3. Nordstrom Localの店内サービス
(出典:Kensi DeSimpelare youtubeより)
Nordstrom社のカスタマーエクスペリエンス担当シニアバイスプレジデント、シェイ・ジェンセン氏は、「前代未聞の速度で変化している小売り環境の下、便利さ、スピード、そして価値あるサービスをお客さまに提供し続けることが絶対的であるのを認識しており、お客さまの“時間”に対する要求が以前にも増して強くなっていることと、それらの買い物ニーズに呼応した利便性の高いロケーションで、最高のサービスを提供したかった。今、私たちにとって最重要課題は、それらの要求を満たし、お客さまを惹きつける新しい方法を見つけ出すことです」と語っています。
「Nordstrom Local」の店舗では、サービスに関わる取り組みに、もっとも大きな力を注いでおり、敷地面積が3000平方フィート(約280㎡)未満の店舗では、Nordstromが顧客の要望のもとに提供する、オンラインで注文した商品の受け取りや返品、スタイリングや仕立てなどの「コアサービス一式」が揃っています。
また、Nordstromが市場調査を行ない、顧客のニーズが高いサービスについても実施しています。
ジェンセン氏は、「Nordstrom Localは非常にフレキシブルなので、顧客からのフィードバックには頻繁に、かつ迅速に合わせることができる」と言っています。
提供している主な店内サービス
〇パーソナル・スタイリスト:
スピーディで楽しくて無料、そしてプレッシャーがありません。
同スタイリストがファッション・アドバイスをはじめ、予算に合わせた
ギフト・アイデアや最新の装い情報などを来店客に届けます。
〇オンラインによる商品注文と店内受取り:
来店客はネット通販「Nordstrom.com」で買い物でき、午後2時までに
注文すれば、同日に「Nordstrom Local」の店内で商品を受取れます。
〇仕立てと寸法直し:
来店客は職人による仕立てと寸法直しのサービスを得ることができ、
ジーンズの裾直しから、念入りに仕立てられたスーツまで、どんな衣料
も完全フィットが保証されます。
尚、寸法直しは午後2時までにオーダーすれば同日に客の自宅に配達可
能となっています。
〇カーブサイドピックアップ(店頭受取り):
店内での商品注文及び寸法直しと、自宅からのネット注文品について、
「Nordstrom Local」の店頭で受取りが可能となっています。
〇トランク・クラブ:
「Nordstrom Local」は、 Nordstrom傘下のネット通販会社「トラン
ク・クラブ」のスタイリストと出会える便利な場所であり、トランク・
クラブの商品の受取りと返品の場でもあります。
〇Nordstrom gift card:
Nordstromは地域の非営利団体に全てのgift card売り上げの1%を寄付
しています。
〇スタイル・ボード:
Nordstromの「スタイル・ボード」は新しい販促ツールで、販売員とパ
ーソナル・スタイリストによる来店客個々へのパーソナルなファッショ
ン・レコメンデーションを満載したデジタル端末となっています。
〇ネイル・サービス:
来店客の完璧な見栄えをサポートするために8種類のマネキュア・サー
ビスを提供しています。
〇容易な返品:
「Nordstrom Local」では、Nordstrom百貨店、Nordstrom.com、トラン
ク・クラブからの返品を受け付けています。
〇店内飲食:
店内の「Ebar/イー・バー」で、手作りのエスプレッやジュースをはじ
め、ワイン、地ビールなど、豊富な飲み物を提供しています。
4.最後に
(出典:Nordstrom youtubeより)
「Nordstrom Local」の店内には、販売用の商品はごくわずかしかなく、一見して物販を目的としていないことが分かります。
Nordstromはこの新しいフォーマットに売り上げを求めておらず、コミュニティの中にある小さなサービスハブとしてお客との新たな接点を作ろうとしているのかと思われます。
NordstromやNORDSTROM MEN’Sといった旗艦店舗とオフプライスストアのNordstrom Rackを主軸として、その周辺に「Nordstrom Local」を配して補助的な存在として機能させるとともに、顧客の必要に応じて適応・対応させていくのかと思われます。
尚、日本の百貨店業界では、三越伊勢丹グループが展開する「エムアイプラザ」「イセタンミラー」、髙島屋が展開する「髙島屋フードメゾン」などや、地方百貨店においても藤崎、天満屋、井筒屋などが中小型店を急速に増やしているほか、百貨店系列のスーパーマーケットが事実上の百貨店のサテライト店として機能し、百貨店の商品を購入できたり、贈答品を承っているという事例も多くなっています。
そごう・西武も2014年に衣料品を中心としたサテライト店舗を出していましたが、ほかの店舗との差別化が難しくわずか3年足らずで撤退し、その経験とコロナ禍の現状を捉え、食料品やギフトに絞って再出店しています。
(セブン&アイ・ホールディングスは、傘下の百貨店「そごう・西武」の売却を決め既に入札が始まっているようです。)
このように日本の小型デパートは、主に物販を主としており「Nordstrom Local」とは根本的にことなることがわかります。
リモートや非対面ばかりに焦点が当てられる昨今ですが、対面サービスはこれからも変わらず重要になっていくかと思います。
日本のような販売を主としたものと、「Nordstrom Local」のようなサービスを主としたものの、どちらの方がより成功するのでしょうか。
「Nordstrom Local」の新たな挑戦を今後も見ていきたいと思います。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。
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