メディアが作った飲食店
こんにちは、コーイチです。
緊急事態宣言、まん延防止等重点措置が続く中、飲食店へ時短営業や酒類提供の自粛要請が繰り返され、いまだ外食の機会が制限される状況が続いています。
しかし、DMM.comの調査によると、2021年の宣言発出中に外食をした人は58.0%に上ることが分かったとのことです。
(外食している人って結構多いですね)
今回は、そんなコロナ禍の厳しい中でも新店舗を展開し始めた、雑誌「Time Out」が展開しているフードホール「タイムアウトマーケット」を見ていき、今後コロナ禍が収束した日本で、このような業態が参考になるのか考えていきたいと思います。
1.Time Outとは
(出典:business.timeout.groupより)
「Time Out」は1968年にロンドンで創刊されたタイムアウト・グループが発行するシティガイド(ローカルエキスパート<=地元の⽬利>)によるガイド)です。
地域密着型のシティガイドでありながら、世界315都市58カ国、13言語(2021年3月時点)で展開するグローバルネットワークとグローバルなブランド認知を有する「Time Out」は、世界でもユニークなグローバルメディアブランドとなっています。
2012年のロンドンオリンピックでは公式トラベルガイドとして採用され、マガジン、ガイドブック、ウェブサイト、スマートフォンアプリ、タブレットアプリなどマルチプラットフォームに展開しています。
コンテンツの質には定評があり、英国出版協会主催、『PPA AWARDS』のインタナショナル・コンシューマー・メディア・ブランドを2010年、2011年、2013年、2014年と4度受賞しています。
ちなみに東京オリンピックでは、株式会社KADOKAWAが東京2020大会初、そして唯一となる公式ガイドブックを発行していますね。
2.フードホールとは
フードホールとは一言で表すと「高級版フードコート」のことです。
「早い、安い」が売りのファストフードではなく、価格は高いものの、洗練された料理を提供する人気の飲食店を集めて構成された食事スペースとなります。
フードホールの生まれはヨーロッパですが、爆発的に流行ったのはニューヨークとなります。
ニューヨーク最初のフードホールは、マンハッタン島南部の、昔は食品工場が集まっていたチェルシー地区のナビスコ工場跡に1997年に誕生した『チェルシー・マーケット』と言われています。連続した屋内空間にバールやレストランが何軒も連なったこのマーケットは、その華やかな雰囲気から、たちまちニューヨーク屈指の観光スポットに成長しました。
日本でも2019年頃から、東京や大阪などの都心にて「大人版フードコート」としていくつか誕生していますので、行かれた方もおられると思います。
しかし日本の場合「食」のみなので、おいしいレストランが集まったフードコートという域を超えていないように思えます。
3.タイムアウトマーケット
(出典:food_and_travel_space youtubeより)
2014年にポルトガルの首都リスボンの市内中心部から近い、近郊列車のターミナル駅の目の前に1号店をオープンしました。
大西洋に面するこの港町から、大航海時代にはヴァスコ・ダ・ガマを始め、多くの遠征隊が旅立ちました。今日では、その風光明媚な景色を求めて世界中から多くの観光客が訪れている都市となります。
「タイムアウトマーケットリスボン」は、古くからある市場に併設するかたちでオープンしたフードホールで、50以上の飲食テナントに加え、雑貨店やライブレストランなど合計で60店舗以上が出店しています。
営業時間は月曜~水曜・日曜が午前10時から午前0時まで、木曜~土曜は午前10時から午前2時まで。(当時)
特筆すべきは、テナントとして出店しているのがいずれも地元で人気の飲食店である点で、シーフード、ステーキ、中華、和食(寿司)、スープ、スイーツなどあらゆるジャンルで話題の専門店が集結しています。
最も大きな成功要因は、地元客も観光客も楽しめる空間づくりに成功している点となります。観光スポットでありながら、地元民の日常的な食事場所としての機能も併せ持つことは決して簡単なことではありません。
その絶妙なバランスを保てているのは、「人気店のおいしい料理を誰もが気軽に楽しめる」というフードホールに求められる役割を最大限に全うしているからと言われています。
そして、テナント編集力の高さと、そこに集まる人々の熱気がこの施設を成功に導きました。
館(やかた)をつくって「フードホール」を謳うことは簡単ですが、魅力ある店と料理、そしてそれを求め、楽しむ人々の熱気がそこになければ、フードホールとは言えません。
タイムアウトマーケットのコンセプトは、ショップ、レストラン、文化体験の組み合わせを再構築すると同時に、世界各都市の象徴的な場所で、インデペンデントなビジネスや才能をサポートすることと言っています。
4.フードホール事業に着手した理由
現在、雑誌業界は苦戦を強いられています。
ネットの普及により雑誌の売上は減少し、さらに今まで収益源であった広告収入が、GoogleやFacebookなどグローバル規模のメディアに奪われていっています。
広告収入だけを収益源にしていても勝ち残ることはできないと考えた「Time Out」は、新たな収益源を確保するためにフードホール事業へ着手したのではないかと言われています。
また、タイムアウトマーケットで得られる収益は飲食店の売上だけではありません。例えば、フードホールの正面にある大きなスクリーン画面。
ここには街のイベント情報がQRコードと共に映されています。
更に、タイムアウトが作成した飲食店含め観光情報が掲載された冊子も無料で配布されています。
これらの広告も収益の一つとしています。
一部のアナリストは、開業当時に「2019年末までに、タイムアウトグループの収益の約35%がタイムアウトマーケット事業からとなる」と予想しています。
5.メディア業界がフードホールを運営するメリット
リスボン店が成功したとは言っても、小売業界で注目されているフードマーケットにはライバルも多いのも事実です。
雑誌であったタイムアウトがフードホール市場に参入したメリットは、下記の2点と言われています。
①各部門の連携で、収益性の高いフードホールを構築
巨大メディア企業である「Time Out」には、コンテンツを企画するマーケター部門、そしてその企画を形にするメディア部門、収益性を管理するファイナンス部門など、多くの部門が存在します。
日頃、地元の人気レストランをリサーチ・取材しているメディア部門は、地元のレストラン事情を熟知しており、タイムアウトマーケットに相応しいレストランを選ぶことができます。
そして、1度レストランを選んだら終わりではなく、評判や売上を参考にそのレストランと継続契約するか、あるいは別の店舗を誘致してくるかはファイナンス部門で分析します。
また、広い面積を持つタイムアウトマーケットにはイベントスペースなどが存在し、そこでマーケター部門は、フードホールを活用したコンテンツを企画し、集客に貢献します。
このようにして、部門間で連携しあうことで、収益性の高いフードホールを構築することが出来ているということです。
②プロモーションも提供できるフードホールの構築
その地域の優れたヒト・モノ・コト情報を発信する情報誌、そしてメディアサイトとして高い評価を得ている「Time Out」。
そんなブランド力の高い雑誌やメディアサイトに、無料で情報を掲載してもらうことができるというのは、タイムアウトマーケットに入居を考えているレストランにとってもメリットがあります。
記事の執筆や動画制作を専門としているスタッフに、魅力的な記事を作成してもらい、PRしてもらえるという事実は、地元の有名レストランを惹きつける大きな要素になっています。
タイムアウトマーケットでは、シェフ、レストラン、ユニークな文化体験をキュレーションして、その土地のスピリットに触れられる場所を提供しています。ここで楽しめるのは、一流シェフによるデモ料理教室、地元アーティストによるアートインスタレーション、ライブ音楽パフォーマンス、コメディショーなどさまざまなことが行われます。
6.ポストコロナのタイムアウトマーケット
各都市のタイムアウトマーケットは、パンデミックの影響を受け、2020年3月から一時的に閉店していましたが、現在は営業を再開しています。
健康と安全のために対策を強化し、地元の人気料理、カクテル、文化が体験できる機会を提供しています。また、安全であることを大切にしながら、新しい都市での展開も進行させています。
ポストコロナで初、中東初となる、タイムアウトマーケットドバイをダウンタウンの象徴であるモダンな「市場」、スーク・アル・バハルの中心に2021年4月に開業しました。
タイムアウトマーケットドバイは、3万平方フィート(約2790平方メートル)の広さを誇り、ドバイのトップシェフや著名なレストランが手がける店が17軒できるほか、3軒のバー、文化体験のための専用スペースを備えています。
(出典:The Brief Review youtubeより)
各都市のタイムアウトマーケットでは、健康と安全に関する対策を充実させ、楽しく食事ができる取り組みを行っています。
高度な空気循環技術、最先端のろ過システムの採用、エントランスの消毒ステーションの設置などにより健康と安全性を確保しています。
全ての飲食カウンターにはアクリルガラス製パネルを設置し、マーケット内には専任の清掃員を配置しており、ダイニングテーブルには、ソーシャルディスタンスを確保するために、地元の思想家の名言が刻まれたデザイン性の高いパーティションも置いています。
また、タイムアウトマーケットアプリやデリバリーサービスを使えば、非接触による注文も可能となっているようです。
7.今後オープン予定のタイムアウトマーケット
既存の六つのタイムアウトマーケットの広さを合計すると、約19万平方フィート(1万7000平方メートル)にも及び、オープン以来、120以上の受賞歴のあるシェフや人気レストランの味を提供してきました。
今年以降オープンするドバイ、ポルト、ロンドン、プラハのマーケットを合わせると、11万平方フィート(約1万200平方メートル)以上の広さ、60以上のシェフやレストランが新たに加わり、それぞれの都市の多様性、情熱を感じられる卓越したローカルフードをさらに提供できるようになるという事です。
既存のタイムアウトマーケット(~2020年まで)
タイムアウトマーケットリスボン(2014年オープン)
タイムアウトマーケットマイアミ(2019年5月オープン)
タイムアウトマーケットニューヨーク(2019年6月オープン)
タイムアウトマーケットボストン(2019年7月オープン)
タイムアウトマーケットモントリオール(2019年11月オープン)
(出典:ElenaLifeDesigns youtubeより)
タイムアウトマーケットシカゴ(2019年11月オープン)
今年以降オープン予定のタイムアウトマーケット
タイムアウトマーケットドバイ(2021年4月オープン)
タイムアウトマーケットポルト(2021年第4四半期オープン予定)
タイムアウトマーケットロンドン(2022年オープン予定)
タイムアウトマーケットプラハ(2023年オープン予定)
8.最後に
「Time Out」だけでなく、広告収入以外の収益を確保するため、飲食店業界に参入するメディア企業がアメリカでは増加しています。
例えば、レシピ動画を配信している「テイストメイド」がサンタモニカにカフェをオープンしたり、フリーマガジン「VICE MAGAZINE」がニュージャージーにフードホールをオープンしたりしています。
「Time Out」は、タイムアウト東京という雑誌を発行していますが、現時点では、タイムアウトマーケットを日本に出店する情報はありません。
日本でも雑誌業界の広告収入が減少しています。日本の同様のメディア誌「東京Walker」(KADOKAWA)や「るるぶ」(JTBパブリッシング)などもこのようなフードホールを開発する可能性はあるのでしょうか?
現在、緊急事態宣言や蔓延防止などにて厳しい飲食業界ですが、アフターコロナでは、飲食業界も必ず復活すると思います。
飲食、カルチャー、エンターテイメント、観光、メディアなど、現在厳しい業界が力を合わせて、このような美味しいものを食べるだけでなく楽しめる業態を作ることで、新しいムーブが起こるかもしれません。
私もそんな新業態開発に取り組んでみたいものです。
今回も最後まで見ていただき、ありがとうございました。 よろしければスキ、フォロー、サポートのほどよろしくお願いいたします。
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