渡英予定者は歯科検診を受けよう。できれば半年以上前に。
英国にはNHSという国民皆保険制度がある。留学生は、ビザ申請時に一年あたり十数万の保険料を払って加入するあれだ。あれがあるからって油断してはいけないという話。特に歯科の場合は!!!
結論から先に言うと、
保険診療での歯科は受診困難なので、基本private(自費)の診療しかない。
日本で保険治療する場合の約10倍のお金が吹っ飛んでいく。
海外保険は歯科治療はカバーしないか、しても上限が低い。
日本の健康保険に入ったままであれば、費用をある程度回収できる見込みがあるが、元は取れないし必要書類も細かいのでありがたみが薄い。
これは渡英前に、以下の皆さんの情報を参考に、自らへの戒めとして書いている。見知らぬ皆さんありがとう…!
htの場合は、歯医者が嫌いかつ激務にかまけて、5年くらい歯科健診に通っていなかった。
6月に意を決して歯医者に行ったところ、対処が必要なもののうち、横向きに生えた親知らず二本の抜歯か、虫歯2つのいずれかしか治療できないとのこと。親知らず二本の抜歯のみ、大病院で行うことになったが、技術力が高い人気の歯科医師なので予約が2-3か月待ち。「そんなこんな」で親知らずは何とかなったものの、虫歯二本はあと三週間ちょいでしか対処できなくなった…。抜歯の傷も残ったまま虫歯治療もするので、どこもかしこも生傷?生治療痕?があって痛い。そのうえ、アフターケアの爆弾を抱えたまま渡英するのが辛い!
今思うと「そんなこんな」には、英国の医療事情を把握していないまま助言する歯科医師と、歯科治療には数週間かかる場合があることを把握していない私の間の重大なコミュニケーションエラーがあったような気がする。なかったらもっと安全運転な治療スケジュールが組めたよきっと。深く反省するしかない。
痛みが出たりセラミックが欠けたら、最悪現地治療するしかなくなったので、現地での歯科治療の事情を調べた。
英国の国民健康保険制度NHSは待ち時間が長い
英国には国民健康保険制度NHSがある。16歳以上は保険料を入って加入するし、半年以上滞在する外国人も同様に加入が必要となる。この国民健康保険制度を使えば、無料で医療が受けられる。
とはいえ、最初にGeneral Practitinerと呼ばれる「かかりつけ医」に登録する必要があり、そのGPの診察を一度受けてからでないと、高度な医療が可能になる専門医にかかることができない。
ここにいくつか関門がある。保険診療医の待遇の悪さからGPも専門医も人手が自費診療に取られており、全然足りていない。その結果GP登録を受け入れているGPを探すのに一苦労、予約にも一苦労というありさまである。GPの判断でかかる専門医を推薦してもらえるのは素晴らしい。が、その一方で緊急性が低いと思われれば専門医への予約もGPの判断で数か月後に後回しになることもある。医師不足も相まって、よっぽどのことがない限りすぐには医者にかかれないのだ。
特に歯科医はNHSの受診までには数カ月かかるため、急性の症状の場合は自費診療しか選択肢がない。留学生がわざわざ海外で歯医者に行きたいというならたいがい急性だろうに。自費診療ならすぐ受けられるとはいえ、後述のように費用の問題がある。
日本で治療する場合の十倍のお金が吹っ飛んでいく
自費治療になる場合は、当然ながら治療費の10割が自己負担になる。日本ではたいてい3割負担の保険診療でなんとかなった虫歯が、途端に費用負担率が3倍相当になるのだ。そのうえ、ポンドに対する円安やインフレも加味されて、実質の負担額は日本の10倍程度は見ておいたほうがよさそうだ(虫歯治療は一本10万円始まり)。10倍というのは目安であり、日本では自己負担1000円程度で受けられる歯科検診はロンドンだと6万円近くかかる様子。痛むところがなくてもせめて歯科検診は受けてから日本を出よう。
そのうえ、海外留学や勤務者の医療保険は、その多くが歯科をカバーしない。カバーするにしても、突発的に痛みが出たり、かぶせ物が欠けたり、顔を殴られて歯がおれたような緊急時だけで、しかも初回治療の半額までとかが限度だ。そうじゃないと、日本にいる間に症状が進行していても渡英するまで忙しすぎて治療しない、みたいなケースがあるからだろう(私もそうなりそうだった)。
日本の国民健康保険なりに入ったままなら、日本で同等の治療を受けた場合の費用相当が補填される制度もあるらしい。とはいえちょっと見ただけでもフォーマットの記載事項は多いし、余計な事務作業も増えるし、そもそもの相場が違いすぎて雀の涙だ。やっぱり日本で治療を受けて後顧の憂いをなくそう。
日本の医療制度よりもよくできているところもある
イギリスの医療制度の良くない所ばっかり書いてしまった。これは日本からの留学生目線だからそう思うだけで、米国に比べると格段にましだし、むしろ日本の医療制度を省みて比較すると見えてくることもある。
たとえば、日本の国民健康保険の現役世代への過重負担を思えば、多少はGPのような「後回しにする」役割を持つ医者がいてもいいと思う。年を取るまで日本にいない限り、絶対に元が取れないし、年取って果たして制度が変わっていないかというとそれも怪しい。
それに、日本に留学している中国本土の学生は(少なくとも6-7年前は)十中八九自分の健康保険証で重病の親族の治療を行っていた※。飛行機代はかかっても、日本の3割負担で迅速に、身分証の提示を求められず高度な医療が受けられる制度はそれほどフリーライダーにとって都合がいいのだ。マイナ保険証は早めに定着してほしい。はなからフリーライドするつもりがなくても、途上国出身者には日本で診療を受けて初めて疾患があることが分かって長期療養を始める学生もけっこういる。皆授業料と生活費の「もと」を医療費で取って帰ってたよ。留学生から有無を言わさず相応の健康保険料をとる英国の制度は日本も真似すべきだと思う。無収入だから年額一万円程度ってなんだよ。
※英国の医療制度についても、自分の保険で母国の親族の薬をナチュラルに出してもらおうとしている学生が結構いる。普通に我々や現地学生にそのことを話すので、悪用しているつもりはなく、そうやって使うものと思っているのだろう。
労働党への政権交代があったので、公約通りにGPの待ち時間の縮小が進むことに期待である。現地にわたってちょうど政策変換の過渡期を経験することになるので、それについてもまたわかることがあったら書いていきたい。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/europe/uk.html