十月第四週:Formal swap その2
一回目のCaiusに味を占めて、いろんな人とフォーマルスワップをしている。これはちょっと面白いなと思った人と一対一の付き合いになる手段として最上かもしれない。
今夜は仲良しの60台のおじいちゃん学生をゲストに、私がホスト役を務めるワインの会だ(おじいちゃんがワイン好きだから)。おじいちゃんをお迎えするためにPlodge前にいたら、WhatsAppから「もう中に入ったよ」というメッセージ。あれ?と思ったら旧Plodgeの前で学生を待ち構えて、出る学生と入れ替わりにしれっと侵入したらしい。ブラックタイの正装に、カナダグースのおじいちゃんが手を振りながら悠々と歩いてくる。40年前に自分が学部生をやっていた時は、こっちが入り口で、こうやって侵入するのもなれたものなんだとか。むしろにっこり微笑んだら出てきた学生はドアを抑えて通してくれたらしい。他の学寮の図書館とかにしれっと侵入するコツをたくさん教えてくれる。おうおう。
しっかり学寮の来歴や建築の由来を暗記して、薄闇の庭とコート(回廊が囲う中庭のこと)、橋を、チャペルや図書館を案内する。おじいちゃんは時々、懐かしそうにここは変わっていない、ここは新しい、と当時の思い出をぽつぽつ話しながら楽しそうについてくる。おじいちゃん曰く、自分のところが一番好きだけど、ここもとっても素敵とのこと。どこもしっかり美しくて、ここを選んでよかったし、選んでもらえてよかったなあと思う。
最後はわがカレッジの一番美しい部屋で、暖炉の火がグラスに照り映えるのを見ながら雑談をする。次々に回遊しながら、Theologistを、考古学者を、医学生を、Low studentを、どんどんおじいちゃんに紹介していく。おじいちゃんが学生という時点で面白いので、皆喜んで寄ってくる。そしておじいちゃんの経歴や所属学寮を聞いてちょっと目の色を変えたりする。おじいちゃん、それ私も聞いてなかったんだけど。あなたは突然学問に目覚めた面白おじいちゃんというだけじゃなかったんだね。
おじいちゃんの話は切り口が豊富で、大方しっかりと実利に結びついている。うちの学寮長の経歴と、その物凄さ。機械学習分野の成長と、考古学者にとっての使い道、学寮から離れて住んでいる場合の友達の作り方。コンサル歴が長いだけあって、おじいちゃんは雑談を「相談」と理解して対応することが多い。そうやって人とのつながりを作ってきたのだろう。
おじいちゃんがふとLinkedInを見ると、さっき話した何人かから申請が来ている。この人さっき話したっけ?と確認を求められる。なんだそれ!おじいちゃん曰く、同じコースの中国人はみんな初日におじいちゃんに申請してきたらしい。なんだそれ!!おじいちゃんが重要人物であるというのはみんな初見で認識してたのか!!何か疎外感!いやむしろそういうギラギラ感がないから私と仲良くしてくれてるのか?まあ深く考えてもしかたないか。せっかくなので私もLinkedInで申請を送る。
話し疲れたので、二人で壁際でまったりと火を見つめる。
おじいちゃんは、いつも同じ席に座る理由を教えてくれる。そこが実習の補助教員の通路に近いから人に手伝いを頼みやすいし、しかも毎回同じ席に座っていれば憶えてもらえるからだそうだ。そんな知恵だったのか。
おじいちゃんはここに通っていた時にRowing teamに入っていて、同じteam mateだった人と結婚して40年連れ添ってきたらしい。おじいちゃんのお父さんも同じケンブリッジの学生で、同級生と結婚したのだとか。学内を歩いていた時に、お父さんのMatriculationのセピア色の写真がいまだにしっかり壁にかかっているのを見つけて、送って差し上げたら大変喜んだのだという。当時からの友人の孫や、自分の子ども世代もオックスブリッジにいて、今でも家族ぐるみの交流があるのだそうだ。そのうち一人がPunting Admiralだというので紹介してもらうことになる。やったぜ。
二人で暗がりのKings Paradeをとぼとぼ歩き、おじいちゃんのお家(当然のように一等地)の前でさようなら。なんか、ワインの会なのにすっごく社会勉強しちゃったよ。こういう人と知り合えるのってやっぱり得難いものだよなあ。