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新交通ゆりかもめ 汐留駅 コンラッド東京
年上のその人の右足にはプレートが入っていた。数年前に相当ひどい骨折をしたらしい。脚を見せてもらうとかなり大きな傷だった。プレートを入れた時の傷。時々病むと言っていたけれどもちろん私は何もすることが出来ない。さすってあげることくらいしか。そんなわけで歩く時は常にステッキを持っていた。それがまたお洒落で好きだった。
いつも左手にステッキ。だから私は左側に立ち腕を組んで歩く。右手を塞ぐと歩きにくいだろうと。
その日食事を終えたのはまだ8時頃。彼がバーを開けるまでまだ少しある。
「もう一軒、気に入っている場所があるので行きましょう」
そう言って私たちは歩き出した。どこへ行くのだろう。汐留などほとんど来たことがない。電通と資生堂と様々なオフィスビルがあるくらいしか私は知らない。連れて行かれたのはコンラッドの28階にあるラウンジだった。
夜景の見える窓側の席に案内される。私は彼の左側に座る。お互いにカクテルを頼み夜景を眺め、そしてふと尋ねられた。
「あなたは左側が好き?」
どういうことか。私はいつも彼の左側を歩いていた。けれどそのラウンジのその席から外に見える夜景は右側からの方がよく見えたのだ。だから彼は気を遣い、もし私が彼の右側にいることを心地いいと思うなら席を変わろうということだったのだ。どうしてそんなにきめ細やかに私を扱うのだろう。胸が一杯になった。特別な人だった。
何から何まで完璧で、徹底的に私を大切に扱う。もう彼以外の人とはコンラッドに行かないだろう。そう思わせるほどに、特別な人だった。