京急電鉄本線 品川駅 SHINAGAWA GOOS
もう名前も忘れたし、連絡先も消した。顔もうろ覚えだし声など思い出すことも出来ない。私たちは湘南の海で知り合った。
私が天ぷらを食べたいとワガママを言ったので夜は食事を抜いているにも関わらず付き合ってくれた。海が好きな人でサーフィンをしていてとてもスリムなのに、知り合う前の昔、ボリュームのある体だったことを気にしていたらしい。確か日本酒を飲みながら、私が美味しそうに食べるのをニコニコと見守っていた。
時間が早いからもう一軒。と連れて行かれたのはSHINAGAWA GOOSの30階。Restaurant CELLY with SKY BARだった。
私はまだ、少し前に別れた恋人を思っていた。それでも私を気に入っていたのだろう。たびたび誘っては私の嘆きを聞いてくれていた。20も上だった気がする。兄のような人だった。
「年上の人と恋をするとね、私は私ではいられなくなるの。気取ってしまって彼に合わせなければいけない気がして。大人ぶって、言いたいことも言えなくなる。そして気付いたら、彼の心は離れていった」
「多分さ、彼はそれに気付いていたんじゃないかな?そしてそれが悲しかった」
ドキッとした。いつも女友達に嘆きを聞いてもらっていたけれど、男心を知るには女性に話しても仕方ないのだ。ただ女友達に励まされても一時的にすっきりはすれどいつまでも引きずっていた。それは誰もはっきりと諦めろと言わなかったからかもしれない。
その後クルーズに誘われたけれどタイミングが合わず行けなかった。そのうちに会わなくなってしまった。その人との出会いで、私は考えを変えるようになった。気取るのはやめよう、言いたいことは言おうと。人生を変えるキッカケをくれた人だった。
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