手をのばしてももう届かない
つかめない風がある。手をのばしてももう届かないものが。
今夜のお題は「まきもどし」だった。
いつものそのバーでは、毎晩マスターにより題目が決められる。しばし客はそれにそって会話をする。今夜の題目は「まきもどし」だった。さて、「まきもどし」とは。
すぐに思いついたのは時間だった。例えばDVDの逆再生のような。倍速で巻き戻す。チャプターで戻すことも出来る。それはまさに巻き戻し。DVDではそれが可能だ。では、もしこの現実の時間を巻き戻せたら?DVDならばストーリーは決まっているからまた同じ結果になる。ではそれが現実の時間ならば未来はどうなるだろう?
きっと同じ結果になる。
SF小説やタイムトラベルものでは、歴史を変えてはならないという。歴史を変えると未来が変わってしまうから。けれどそもそも、未来を変えたいから過去に飛ぶのだ。変えたい未来。それでも「まきもどし」てはいけないのだろうか。変えたいと願ってはいけないのだろうか。
結論。決して、巻き戻すことは出来ない。
世界には自分の力だけではどうにもならないことが存在する。人と人とのこととか、ご縁とか。そういった類のものは自分だけではどうにもならない。そうなることが決まっていたのだ。たとえそれは時間を巻き戻しても結果は同じ。神様でも変えることは出来ない。私はそんな風に考える。
悲観的にならなくていい。もうどうにもならないことが存在する、ただそれだけだ。
つかめない風のように、手をのばしてももう届かないものあると。