【#創作大賞2024】骨皮筋衛門「第一章:我が名は骨皮筋衛門」(2252字)
第一章「我が名は骨皮筋衛門」
帳面町の犯罪発生率約0%。
この驚異的数字はある男の活躍により達成した数字である。その男の名前は骨皮筋衛門、令和のヒーローと呼ばれる潜入捜査官だ。首都東京から遠く離れた帳面町は元々のどかな地方都市であったが、骨皮家がこの地を支配するようになってから犯罪が極端に減った。
骨皮家は悪を憎み平和をこよなく愛する一族である。平民という立場でありながら時の権力者の懐刀として善政を行ってきた。名字帯刀を藩主よりすすめられたが苗字は受け入れたものの、帯刀の方は固辞。
「武器は持たぬ方がよい」
という初代骨皮筋衛門の言葉を大切にしてきたからなのだが。実は骨皮家、当主にのみ伝わる秘技がありそれを用いて悪と闘ってきたのだ。陰で悪をこらしめ、善政をサポート。ひっそりと生きることを望むため、その活動は秘密裏に行われていた。
しかし、善きことは自然と漏れるもの。骨皮家の行いは帳面地方一帯に伝わってしまう。善が善を呼び財を産む。江戸時代から続く骨皮家は令和の時代となった今、骨皮財閥として日本経済を支える存在だ。
何度か東京に進出してはと言われたが、
「我が骨皮家が愛着のある帳面町を離れることはない」
と固辞した。取材につれない返事しか返さずマスコミにも出ないため、日本での骨皮家の知名度はかなり低いが、帳面町における「骨皮筋衛門」の人気は絶大である。しかし、奥ゆかしい骨皮家の家風を守るため帳面町の住民は「沈黙は金なり」と彼らについて語らない。住民と骨皮家は厚い絆で繋がっているのだ。
骨皮家の歴史についての話はここまでにしよう。この話は23代「骨皮筋衛門」と悪の組織との闘いについてのものなのだから。
23代「骨皮筋衛門」は帳面町の平和を守るため帳面警察内にある秘密部署に所属し、彼にしか使えない秘技で悪の芽を早々に摘んでいる。帳面町における犯罪発生率が約0%というのも彼が千里眼的なセンスで帳面町の平和を守っていることが大きい。骨皮筋衛門は神出鬼没と言われ、スーパーの万引きから体育館裏のカツアゲまでを未然に防ぐ。こういった小さな犯罪を犯しかけた者は骨皮筋衛門の慈愛に満ちた眼差しと誠のこもった言葉に改心をし真っ当な人生を送る。そのため、帳面町は
日本で一番幸福度の高い町
でもあった。
ただ、この幸福で平和な町を許せない者達がいた。その代表が悪の組織「イービル・フラワー」である。しかし、彼らは小さな悪から大きな悪まで帳面町に送り込み筋衛門を邪魔しようと躍起になっているのだが、ことごとく失敗に終わっていた。
「くそう。骨皮筋衛門に弱点はないのか」
イービル・フラワーのボスがいまいましげにつぶやいていると「名前転売鬼」と呼ばれる手下が、
「ボス、いい考えがありますぜ」
とニヤニヤしながら耳打ちをする。ボスは彼の話を聞くとニヤリとし、
「やれ」
と命令をする。名前転売鬼は嫌な笑いを顔いっぱいに浮かべながら姿を消した。
「お兄さん……あなた、コンプレックスをお抱えですね」
「はて?そう見えるかな?」
骨皮筋衛門が任務を終え、部下と共に帰ろうとすると、辻占の老婆が声をかけてきた。
「あ!筋衛門さん!この辻占、よく当たると評判なんですよ!」
部下は以前に辻占を利用したことがあり、すっかり心酔しているようだった。
「筋衛門さんもどうですか?」
「いや、私は……」
「遠慮することなんてありませんよ!」
筋衛門を大好きな部下はグイグイと辻占の方へと彼を引っ張っていく。自分が楽しかったことは筋衛門さんにも体験してもらいたい、この部下なりの気遣いだろう。筋衛門は苦笑いをしながら辻占がすすめる椅子へと腰かけた。
「あなたはお名前にコンプレックスをお持ちのようです」
「そう見えますか?」
誰にでも優しい筋衛門は、辻占にも丁寧な対応を取る。
「あなたの名前は……骨皮筋衛門」
「ほう、よくご存じで」
「あなた様ほど有名な方なら誰もが知っていますよ」
ホホホと笑いながら、辻占の老婆は目を閉じ水晶に念を込めながら占いを続ける。
「あなたは……あなたは名前と体型の違いに耐え続けた人生を歩んできた」
「た、確かにそうかもしれない」
筋衛門は小さい頃から、ふっくらとした体型であった。骨皮家の出身であったが皆と同じ教育を受けさせる方針から町立の小学校に通った。子どもの世界に大人の権力は通じない。「23代目骨皮筋衛門」という名前が友人のからかいの対象となるのは当然だったといえよう。
「太っちょなのにスジィ~」
そうからかわれ何度涙を流したことか。
過去の記憶を感慨深げに思い出していると、
「お兄さん、私ならあなたの人生や名前から違和感をなくしてあげられるよ……」
と顔を近づけてくる。
「ほ、本当か?」
吸い寄せられるように老婆の顔を見つめた骨皮筋衛門だったが。
「そうはいくか!」
次の瞬間、筋衛門の体は宙を舞い必殺技「ヒラリ・クルリ・プルン・ボスン」を老婆にさく裂させた。
「ぎゃあああ!」
「筋衛門さん!」
辻占の老婆の宣託の不思議さにウットリ聞き入っていた部下はビックリ。心優しい筋衛門が老婆に必殺技を放ったのだ。筋衛門は狂ってしまったのか?
「大丈夫だ。問題ない」
振り向いた筋衛門は温かな笑みを浮かべながら手錠につながれた老婆を部下に見せた。
「こ、こいつは!」
部下が驚くのも無理はない。犯罪者の名前を変え、悪事を闇に葬る手伝いをしていると全国に指名手配されていた「名前転売鬼」とあだ名された男だったからだ。
「我が名は骨皮筋衛門、恥ずかしいと思ったことなど一度もないわ!」
こうして今日も帳面町の平和は守られた。
第二章はこちら👇
第三章はこちら👇
第四章はこちら👇
第五章はこちら👇
第六章はこちら👇
第七章はこちら👇
第八章はこちら👇
第九章はこちら👇
第十章はこちら👇
第十一章はこちら👇
第十二章はこちら👇