【#創作大賞感想】「市役所壁画」秘することで救われる魂
実際にある壁画から創作の種を見つけ書かれたと思われる「市役所壁画」はどこまでが現実でどこまでが本当なのかしら?
読了後、画家の名前・市役所・壁画で検索をしてしまいました。
私は「どこまでが本当?創作?」と興味を持つとすぐに背景を調べ始めます。NHKの大河ドラマと朝ドラが背景を調べやすいドラマですが、それはこの2つが史実を元に描かれているからです。調べたことと創作された作品を見比べて「上手いなぁ、そう表現するのか」と、1人楽しみます。傑作と呼ばれるドラマの場合、現実と創作のリンクが非常に絶妙です。1つの事実から作者が豊かな想像力を羽ばたかせる姿に寄り添えることは、私にとっては最大級の創作物への楽しみとなっています。
「市役所壁画」はまさにそのタイプで、小説内に出てくる場所はいくつか行けそうな場所にあることがわかり密かに小躍りしました。本日で創作大賞の応援期間が終わり、明日からは通常投稿の日々に戻ります。仕事の納期さえコントロールできれば、画家猪熊弦一郎の壁画は見に行けそうです。猛暑が落ち着いたら出かけてダフやんを撮影したいなと思いました。「市役所壁画」の聖地巡礼、こっそり実行したいです。
これだけの感想だと画家と壁画を設置するまでの人々の努力を描くお仕事小説と思われそうですが、こちらはミステリー小説部門への応募作です。お読みになればわかりますが壁画の修復作業を行うことで、ある秘密が発見されます。その秘密は当事者と読者にしかわからないものとして描かれており、最終話で回収される伏線は見事でした。
修復にあたったであろう学芸員や工事担当者、役所の方々はその秘密を知らないまま終わります。メッセージを残した画家も、伝えたい相手が目にするのがいつかわからないまま想いを壁画に残します。画家の死後、しばらく経ってから始まる改修工事によりメッセージは当事者に伝わるのです。改修工事がなければ一生目にすることはないかもしれないのに、メッセージを残した画家の心の重さは読む側に切なさを与えます。
専門家にとっては知りたくて仕方がないメッセージの背景が秘密のうちに終わらせる描き方に、私には温かな絆と魂の救済のように感じました。この真実は誰にも伝えずそっと胸の内に残すことで故人となった画家の心もメッセージを贈られた側も救われます。
魂が救われるミステリーを読ませていただきありがとうございました。