【#シロクマ文芸部】ジョン
愛は犬を救いました。首を捻じ曲げられ半分舌を出し、白目の状態だったのをバイト帰りの大学生に助けられたのです。
小さな仔犬が白目を剥いて倒れているのを見捨てられなかったと連れ帰ったのですが、父親が「すぐ死ぬ!飼わん!」と怒鳴りました。
フワフワの仔犬を元の場所に戻す気に、母親はなれません。
せめて朝まで、と父親を説き伏せ玄関に毛布を敷き母親と大学生で看病すると犬は奇跡的に元気になり、そのままジョンと名づけられ家族となりました。
ジョンは首をひねられたせいか、少しおバカさんでした。雪が降ると怯えてワンワン鳴き続けます。「バカ犬!」と怒られますが、その「バカ」には愛が込められていました。
ジョンは上から落ちてくるもの全てを怖がりました。仔犬の頃に殴られた恐怖が染みついていたからです。たまに寝ながらうなされるので、家族の誰かがそっとジョンをなでます。起きた時は家族がいるのがわかると、フッと鼻を鳴らして安堵の表情を浮かべました。
ジョンはなぜか父親の足の指が大好きでよく舐めていました。ジョンが舐めたがると父親は部屋に入れ、靴下をぬぎ舐めさせます。わざと脱がないと「ワフッ!」と鼻にシワを寄せて怒るので、バカがぁと笑いながら靴下を脱ぎました。
そのうち晩酌が始まるのですが、ジョンは太股にアゴをのせ三白眼でじっと父親を見つめます。最初は無視しますが、酔っ払い始めると醤油のついていない刺身を気前よくジョンにあげます。
素面の時と全く違う対応に、家族は苦笑いするしかありませんでした。刺身の効果か、飼うのを反対した父親にジョンはよく懐きました。
ジョンの眉間には縦シワが寄っていました。仔犬の頃に首をひねられたせいで、皮が突っ張ってできてしまうのです。それが哲学的な雰囲気を醸し出していて、みなの笑いを誘います。
笑われているのに嬉しそうに尻尾を振るジョンは余計にバカに見えますが、愛おしくて愛おしくてたまらない存在でした。
庭掃除の時に母親は、ジョンと話します。ジョンは眉間にシワを寄せ「クゥ~ン」と鳴き、母親を喜ばせました。
幸せな日々は13年続きました。
家族がいない日にジョンは庭で倒れました。慌てて病院に連れて行きましたが、重いフィラリアで心臓がかなり弱っていたのです。
「あんな暑いところにひとりで、喉が渇いて仕方なかっただろう」
「大きい犬だったけど、庭で飼うんじゃなかった」
後悔の言葉が矢継ぎ早に出る母親に、父親はジョンの歯が入った銀のロケットペンダントを渡しました。
「綿に水を含ませて一緒に入れれば喉は渇かない」
母親はギュっとペンダントを握り「ジョン、幸せだったかな」と言いました。
「幸せに決まっとる!」と父親が怒り気味に言いました。
伯父伯母をモデルにしているので半分実話です。
ヘッダーの犬がジョンです。
私も、夕飯の味がついてない部分をあげていました。
ジョンの顎の温かさは一生忘れません。
小牧幸助部長、今週もありがとうございました。
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