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【シロクマ文芸部10月③】争い

シロクマ文芸部の1カ月の全お題を使って一つの物語を作っています。レギュラー部員は月初めにお題を全部教えてもらえるので思いつきました。1回目は20字小説、2回目以降は文字数制限のないお話というスタイルで毎月挑戦中です。

本日は10月3回目のお話となります。

1回目はこちら👇

2回目はこちら👇

それでは3回目「木の実と葉」から始まる物語、
始まり始まり〜

「木の実と葉が争って困っています。あなたにはこの難問を解決してもらいたいのです」

自動車を運転しながらリビアヤマネコがそう言うので、

「木の実と葉?」

と繰り返してしまいました。

「毎年のことなんですけれどもね」

そう答えたリビアヤマネコは、私が戸惑っていることに気づいたようで、

「あれえ?この争い知らないんですか?この辺じゃかなり有名なはずなんですけどねぇ」

とニタニタと笑います。人間の知らないことを自分が知っている、それが彼のプライドをくすぐるようなのです。その態度にカチンときた私は、

「知りませんよ。大体、木の実と葉が喋るなんて」

と不機嫌になりました。急に黙り込んだ私に不穏な空気を感じたのでしょう。リビアヤマネコは急に口数が少なくなり運転に集中し始めました。進むにつれて道は舗装されないものとなり、どんどん細くなっていきます。これはかなりのレベルでないと上手く運転できない道だ、そう思った私はリビアヤマネコの運転技術にこっそり感心してしまいました。

見慣れない雑木林に着くと自動車はなめらかに停まります。

「運転がお上手ですねぇ」

ドアを開け、降りるのを手伝ってくれるリビアヤマネコにそう声をかけるとパッと顔を輝かせ、

「本当にそう思いますか?」

と聞いてきたので、

「人間の方がよほど乱暴に車を停めますよ。こんなに気持ちいい運転に出会ったのは初めてです」

と感想を伝えました。余程嬉しかったのでしょう。長い手足で小刻みにステップを踏み鼻歌を歌い出します。鋭い目つきに野性味を感じはするものの、こういう素直なところが猫らしく可愛らしいです。しかし、突然リビアヤマネコはピタリと動きを止め厳めしい表情を浮かべました。足元でカサカサコロコロとなにかが動いています。

「リビアヤマネコさん!早く解決してくださいよ!」
「雑木林の中で木の実と葉のどちらがエライのかを!」

キンキン声がワーと聞こえ始めます。いつの間にか私達の足元に木の実と葉が集まっていました。彼らは夕日に照らされ美しく輝いていましたが、同時に話すので耳が破れそうです。私は思わず耳をふさぎました。リビアヤマネコは耳をペタリと伏せながらイラついた声で、

「問題解決に最適な方をお連れした!お黙りなさい!シャー!」

と威嚇しました。耳まで裂けたかのように口を大きく開き鋭い牙を出し、前足は指を開き爪をニョキリと出して彼らに見せつけます。しかも、夕日がリビアヤマネコを照らすので、牙と爪はいっそう不気味に光り輝き、簡単に木の実も葉も串刺しにしそうです。キンキン声はあっという間に止み、雑木林は静かになりました。

雑木林が静まるとリビアヤマネコは穏やかな表情に戻りコホンと咳ばらいをし、うやうやしく木の実と葉の前に私を押し出しました。状況がよく飲み込めない私は、沢山の木の実と葉を前にして思わずオロオロとなります。

「この人間、オロオロしてないか?」
「この難問が解けるようには見えないぜ」

木の実と葉達がまたカサカサコロコロとざわつき始めたので、リビアヤマネコが再びシャーっと牙と爪を出して脅しました。

さて、木の実と葉の争いは無事に止められるのでしょうか。作者の私もまだ先は見えていません。

小牧幸助部長、今週もありがとうございました。

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