【#シロクマ文芸部7月】③綺麗で怖いおねえさん
1カ月の全お題を使って一つの物語を作るチャレンジをしています。レギュラー部員は月初めにお題を全部教えてもらえるので思いつきました。今日はその3回目。
①はこちら👇
②はこちら👇
海の日を忘れるなんてひどい、そう言っておねえさんは綺麗な顔を横に向けてしまった。
「海の日?忘れてないよ。もう終わったじゃない……」
「終わった?じゃあ旅行にも行ったのね」
「あ……」
海の日は毎年7月の第3月曜日だった。土日祝と3連休になるからみんなで家族旅行に行っているはず。今年だってパパとママと3人で……。
そこまで考えた時、今年の3連休はどこへも出かけていないことを思い出した。去年まで必ず出かけていたのに、今年は……。
黙ってしまった私を見て、おねえさんは気の毒そうな顔をした。
「ああ……ごめんなさい。あなたは忘れていなかったのね。忘れたのはパパとママだわ」
ごめんね、といいながら綺麗なおねえさんは私をそっと抱きしめてくれた。おねえさんの腕の中は温かく、懐かしい感じがする。小さい頃、ママに抱っこされたのと似ているかも。そう思った瞬間、ポロリと涙がこぼれた。その途端、おねえさんはさっと綺麗なガラスの器を私の顔の下に置き、涙を受け止めた。
「なんて綺麗な涙かしら。もっと泣いて」
そう言った瞬間、おねえさんの顔が怖く見えた。あれ?私、どうしてこんなところにいるんだろう?リオちゃんの家から帰る途中だったのに。そういえば、急に海に行きたくなって……それでそれで。
そこまで考えた時、急に頭が痛くなった。
痛い!怖い!
「うわーん!ママァ!」
「そういう涙はいらないのよ!」
おねえさんは慌てて器を引っ込めた。
「な、涙にも種類があるの?」
「あるの、私が欲しいのは甘く切なく悲しい涙」
そう言っておねえさんは引っ込めた器を私の頬にグイっと押し付けた。
「早く、泣きなさい!」
頬に当たる器は痛いしおねえさんの顔は怖い。
「痛いぃ!ママァ!」
「だからそういうのは要らないって!」
慌てて器を引っ込めるおねえさん。その慌てぶりがちょっとおかしくて少し笑ってしまった。
「ちょっと!笑ったら涙が出ないでしょ!」
再び恐ろしい顔になりおねえさんが怒鳴るので、怖さのあまり涙がにじむ。
「う……ううう」
「ちょっとぉ、そういう雑味のある涙はいらないの!さっきのいい感じの涙を流してよ!」
「う……うう……わからないよぉぉ」
私は思わず大声で泣き出した。最初はやったぁと言っていたおねえさんだが、
「あらやだ。これしょっぱい。こんな涙じゃいやなのよ!」
とわけのわからないことを言っている。おねえさんの言っていることはわからないし、どうしてここにいるのかもわからない。だんだんと不安になってきた私は、
「おばあちゃぁぁぁん!」
と叫んだ。
「はいよっ」
え?おばあちゃん?
驚いてキョロキョロしていると上からスイスイスイっと平泳ぎでおばあちゃんが降りてきた。背中になにかを背負って。
今週も無事シロクマ文芸部の活動を終えました。
さぁさぁ、「ドシャえもん」の仕上げにかからないと。
小牧幸助部長、「ドシャえもん」が終わり次第、部長の作品も読みにいかせていただきます!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?