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【#秋ピリカグランプリ】ランドセルの底

まただ。

優のランドセルから出てきたクシャクシャのプリントを見て香苗はため息をついた。プリントを入れるファイルを優は使わない。ランドセルの底にいつもグシャ、だ。そのうちプリントは破れたりどこかへ消える。優は宿題を忘れるし学校行事のお知らせもすぐに失くす。何度注意しても直らない。他の女の子はみな綺麗にプリントをファイルにしまって帰るのに。

近所の商業施設でランドセルを初めて見た時を思い出し、またため息が出る。最近のランドセルはA4サイズのファイルも入る大きなものだ。大きくても軽い多機能なランドセルに驚いていると店員が

「最近は宿題やお知らせプリントをA4ファイルやクリアファイルに保管するよう子どもに指導するそうですよ」

と言われ、すごいと感動したのだが。

小学3年生になった優のランドセルは形も色も綺麗なままだ。多少の傷はあるが昔のものに比べると、その耐久性のすごさに感心してしまう。しかし、その中は。今日も重い教材に押しつぶされたプリントがランドセルの底からボロボロと出てくる。その中の宿題と思われるプリントは半分ほど破けていた。

「優!どうしてファイルに入れないの!」
「時間がないんだもん。帰りの会には全部しまわないと怒られるし」
「でも他の子はできてるじゃない」
「できてない子もいるよ!」

優は名前をあげたが全て男の子だった。ママ友からも女の子は好きなキャラが描かれたファイルに綺麗にプリントをしまうと聞いてる。

「女の子なのにだらしない!」

吐き捨てるように言った瞬間、しまったと思ったがもう遅い。

「女の子だってできないんだも~ん!」

ギャーと泣き出す優に申し訳ないと思うがプリントをファイルに入れさえすれば、あんな言葉は吐かないと思ってしまう。ムシャクシャを丸まったプリントにぶつけるように香苗は無言で広げ丁寧にファイルしていく。ただ、その保管先である2穴ファイルの紙表紙はシワが寄り、クリアファイルは斜めに折れ曲がっていた。

「汚くて嫌になるっ!」

破れた宿題プリントを裏からセロテープで補修した。表にセロテープが少しでも出ていると字が書けないと騒ぐから絶対に表に出さないようにする。最後のグシャグシャのプリントを広げようとした時、優が突然飛びついた。

「痛い!」
「やめて!ダメ!」
「なにがダメなの!」

優の行動は香苗の怒りに油を注いだ。しがみつく優を乱暴に突き放しプリントを広げた。

コロコロ……

プリントから転がるいくつものドングリ。

「大切なプリントで遊ばないっていつも言ってるのに!」
「遊びじゃないもん!」

ギャンギャン泣く優に背を向けドングリが包まれていたプリントを広げると。

「あ……」

プリントには「木の実でリースを作ろう」と書かれてある。リース作りの講習会のお知らせにドングリが包まれていたのは。

「クッリスマスはママの誕生、だからリースプレゼッント、ないっしょで」

すすり泣く優を香苗は思わず抱きしめた。

(1197字)

投稿のハードルをあげるようなコメントを書き、前日には自分を煽るような記事を投稿。お馬鹿さんな行動ばかりしましたが、それだけ開催が楽しみだったのです。

投稿直前、浮かれすぎて秋ピリカへの応募が怖くなりました。しかし、大口叩いて落ちても私の生活は変わらないのです。そう思ったら気持ちが軽くなり好きなことを好きなように書けました。あー楽しかった。

人間、楽しんだ勝ちよ。ほっほっほ。

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