#毎週ショートショートnote裏お題：手加減無用鍋

「これ鍋じゃないだろ！」
「私が鍋って言ったら鍋なの！」

共働きで家事に時間が割けないのはわかし、俺も極力手伝うようにはしている。しかし、それでも俺の手伝い方に不満があるらしく、妻は時々イライラするのだ。そういう時の夕食は大抵鍋。

「肉と野菜がバランスよく食べられていいよね」

最初の頃はそんなことを言っていた。しかし、最近ではなんでもかんでも鍋と言い張る。

「こ、これは……」
「豚汁鍋よっ！」

テーブルの上にデンと置かれた土鍋以外には箸とご飯茶碗。

「主菜はないのかな？」
「鍋は鍋が主菜でしょ！」

その日は豚汁で夕飯を済ます。

「おい……これ、炒飯だよな」

ホットプレートの大量の米飯を見て絶句する。さすがに温厚な俺も腹が立った。

「馬鹿！これはパエリア！」

大声で泣き出す妻。よく見るとエビやカラス貝、色鮮やかな野菜も乗っている。

「最近、手抜きばかりだったから……」

ごめんと妻を抱き寄せる。それ以降、手加減無用鍋は我が家の自慢料理となった。

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