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【落選供養】創作大賞後だからわかる作品に欠けていたもの

高橋源一郎さんの「小説でもどうぞ」にチャレンジ中です。5月31日締め切りのものも見事落選しました!今回、落選供養するショートショートは投稿した時点でかなり自信がありました。これ、なかなかいけるんじゃない?と思い上がりもしていたんです。あれ?でも受賞通知来ないなと不思議思っていた自分に今、

赤面しています


でも、創作大賞という冒険を終えた今は、ひねりの無さ過ぎるストーリーは落選も当然と納得しているのです。落選はがっかりしますが、挑戦した分なにか得るものがあると私は信じています。前向きな発想を支えてくれる栄養となってくれたであろう創作大賞に心より感謝😊

以下から受賞作が読めます👇

やはり選ばれた作品はいいですね。今月も勉強させていただきます。ただ落選しただけではつまらないですもんね。しっかりと自分の利益になるものを学び取らないと。

「はるの湯」

こんなに気持ちいいのに最後か。湯船につかり天井を見る。タイル張りの浴槽、熱めの湯。肩までつかると思わずため息が出てしまう。なんでちょくちょく来なかったんだろうと自分を責めたくなる。近所の銭湯、はるの湯が閉まると聞いたのは先月末。その話を聞いて以来、連日はるの湯は大賑わいで番台の爺さんが「男湯は今20人入浴中、女湯は10人浴中!」と早口で伝える。混んでいるから長湯はごめんだよ、という意味も込められていた。気を抜くと聞き取れないほど早いのは下町育ちであるせいか。
「おひさしぶりです」
先月末に何十年かぶりに訪れたとき、そう挨拶をするとジロリと見、すぐに読んでいた新聞に目を落とした。さっさと入ってこいといわんばかりだ。変わらないなと苦笑する。小学生の同級生の実家ということで昔は何度も入浴に出かけた。
「家に風呂があるのに」
と言われても風呂場ではしゃぎすぎて大人に怒られても行くことをやめなかった。はるの湯には、なにか惹きつけるものがあったのだ。中学でも部活帰りにも顧問に内緒で友達と寄った。いつもは無口な番台の爺さんも泥だらけの中学生がドヤドヤと来たときだけは、
「汚すんじゃねえぞ!」
と大声を出した。
「へーい」
と一応は返事をするが泥だらけの足で入るものだから、床は汚れてしまう。孫の智が後で掃除をさせられていたと聞いてからは、みんなで床を拭いてから帰るようになった。
 高校になり、世界が広くなると自然とはるの湯から足が遠ざかった。楽しいことや辛いこと、自分のまわりで起こることが多すぎで地元にまで目が届かなくなったのだ。ワンルームの小さな浴室でシャワーを浴び仕事に出かける、たまに同僚と会社近くのサウナに行く、そうやって銭湯の思い出は俺の記憶の中でフタをされていった。
 子どもも成長し、休日にどこへ行こうか頭を悩ませなくても済むようになった頃、はるの湯の廃業が飛び込んできた。スマホに流れてくる地域のWEBニュースを見て、懐かしい記憶が蘇ってきたのだ。慌てて出かけると中学の頃のままの爺さんが番台で座って早口で話している。一気にタイムスリップしたような不思議な気持ちになってしまった。
43度の熱い風呂は5分も入れば十分だ。誰もが、さっと汗を流しさっと上がる。どんなに混んでいても人の流れがスムーズなのは熱い風呂のおかげだろう。長時間つかれないが、あがった後の爽快感は家の風呂では味わえない。お休みどころでコーヒー牛乳を飲んでいるとまた昔のことを思い出す。たまに、ごくたまにだが爺さんが俺達にコーヒー牛乳をおごってくれたのだ。
「ん!」
口を聞くのも惜しいと言う感じでパッと瓶を渡してくれる。
「ありがとうございます!」
ほてった身体で床を拭き終わった後のコーヒー牛乳は最高だった。爺さんの口元が心なしが笑っているような気がしたのは気のせいではなかったと思う。
「今日も混雑していますね」
空き瓶を片付けながら番台に声をかけると、
「廃業の話が流れたらこうよ」
と言って鼻で笑われた。思わずズキリと胸が痛んだのが顔に出たのだろうか。
「気にするねい。これがご時世ってもんよ」
とニカっと笑って新聞に目を通した。
 人は大切なものを失って初めて気づく、どこかで聞いたことがあるような文言を思い出しながら帰った。
 はるの湯が廃業して半年、スマホにまた地域のWEBニュースが流れた。
はるの湯、リニューアルオープン!
「ちょっと!どこ行くのよ!」
驚く妻の声を背に受けながら部屋着のスウェットのまま家を飛び出す。はるの湯の前まで来て本当に開いていることを確かめる。誰かが買い取ったのか?恐る恐る暖簾をくぐり下足入れの札を取る。入り口は変わっていないがリニューアルオープンって?番台も変らないなと思いながら番台の中をのぞくと、
「ひっ!」
「男湯は13人入浴中、女湯は8人入浴中!」
爺さんが座っていた。廃業したのではなかったのか?呆然としている俺に向かって、
「後がつまってんだよ!ちゃっちゃと入りな!」
と早口でどやされた。だが心なしか口元が笑っている。混乱したままフラフラと脱衣場に入ると床を拭いている従業員とぶつかってしまった。
「あ、すみません」
「いや、こちらこ……徹じゃん!」
従業員は智だった。はるの湯廃業の話を聞いて智は爺さんに受け継ぐと言ったが、ご時世に合わねえと拒絶された。実は智が大学を卒業後も銭湯をやると言ったがカフェを併設すると言ったら怒鳴られておしまいになったそうだ。
「はるの湯のはるって婆ちゃんの名前なんだよ」
どうしても銭湯を残したい智は今回は爺さんを説得して営業を再開したのだという。
爺さんの思いを残しながら俺らしさをちょっとずつ出していこうと思う、という智と入浴後、コーヒー牛乳で乾杯をした。

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