【#シロクマ文芸部】おともだち
ありがとう、と言いながら手袋を握ったのはコギツネの手のひらでした。差し出された手のひらの硬貨が本物か一瞬だけ迷いましたが、外はビュゥビュゥと北風が吹いています。コギツネの小さな手が小刻みに震えているのに気づいた店主は、すぐに硬貨を受け取り手袋をコギツネに渡したのです。
小さなキツネが外で震えているのを想像したら矢も楯もたまらなくなり手袋を売ってしまいました。
そっと耳を澄ましていると「指ってどこに入れるんだろ」というコギツネの声が聞こえてきたので、店主は手袋がはめられるか心配になりました。思わずドアから顔を出しそうになったとき、再び「ありがとう。この手袋とってもあったかい」と可愛らしい声がしてサクッサクッと去っていく足音が聞こえました。
ビュゥゥ~、暖かいか?
あったかいねぇ。
お店の人が優しくて良かったな、ピュウ~。
うん。キツネのおててでも売ってくれた。
夜の帰り道がコギツネひとりでも危なくないよう、誰かと一緒に手袋を買いにきたようです。コギツネに付き添う人がいたことに安心し、店主は途中だった店じまいの支度を再開しました。コギツネのお金は本物だったので、店主は今日の売り上げにコギツネのお代を足しました。
今晩は暖かいな、そう店主が思うのはコギツネに手袋を売ったせいでしょうか?さっきよりも北風が少し弱くなったせいでしょうか?
コギツネは小さな手をそっと北風に差し出しました。
「よせよ、冷たいぜ、俺は」
北風が小さくピュウゥと戸惑うと、
「大丈夫。あったかい手袋をしてるから」
とニッコリするコギツネ。
優しい雪が降り積もる中、北風とコギツネが手をつないで、ゆっくりと森の方へ帰っていきました。
12月は勝手に「童話の二次創作しばり」でシロクマ文芸部の活動を行っています。
「ありがとう」に相応しい童話ってなんだろう?と考えたら新見南吉さんの「手袋を買いに」が思い浮かびました。子どもの頃、キツネが無事に手袋を買えるのか何度読んでもハラハラしたものです😊
小牧幸助部長、今週もありがとうござました。