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【#創作大賞2024】骨皮筋衛門「第四章:名画危機一髪!」(2769字)
第四章「名画危機一髪!」
「おのれぇい……骨皮筋衛門!」
悪の組織イービル・フラワーのボスは何か所目かにあたる秘密のアジトで恨みつらみを吐いている。側近達が次々に捕らえられ、自分は満身創痍の状態。
「指一つ触れずに痛めつけるとは筋衛門…、恐るべし…」
ボスの傷はフィッティーのダイナマイトボディとエン・ガイが、逃がすために遠くへ飛ばしたことによりできたもので骨皮筋衛門はひとつも手を下してはいないのではあるが。
コノヒト、本当ニマヌケダ……。
下っ端の部下は不安でいっぱいになるが、この先のボスを見ていたい気もしてイービル・フラワーを抜けるに抜けられない。
「お加減いかがかな?」
ある日、痛みに唸るボスの前に親友である名画専門の怪盗ア・ルセーヌル・パンが現れた。
「アじゃないか。イタタタ……久しぶりだな」
「もう!アじゃなくルセーヌルと呼べと……」
「悪い、痛みでつい。パン、久しぶり……」
「わざとだろっ!」
お約束のボケとツッコミを終え、ボスと怪盗は本題に入った。
「骨皮筋衛門にひと泡吹かせたいんだって?」
「ひと泡どころか闇に葬り去りたいわ!」
忌々し気に呟くボスに怪盗はニヤリと笑う。
「闇に、とまでは行かないが俺が筋衛門を窮地に追い込んでやろうか?」
「ほ、本当か?」
「帳面町では仕事をしたくなかったのだが、親友のお前が筋衛門にこんなひどい目に遭わされたんじゃ黙っていられない」
「あ……この傷は……」
訂正しようとしたが、親友ア・ルセーヌル・パンは帳面町以外では窃盗率100%のすご腕の怪盗ということを思い出し、口をつぐんだ。こいつなら骨皮筋衛門を窮地に追い込むことができるかもしれない……。
「や、やってくれるか」
「帳面町というのが引っかかるが親友のためだ。一肌脱ぐよ」
そう言うとア・ルセーヌル・パンは姿を消した。
「すげぇ」
思わず感嘆の声が下っ端達からあがる。側近どももこれぐらい優秀だといいのだが、と複雑な気持ちを抱きつつ親友の成功を祈るボスであった。
「なに?ア・ルセーヌル・パンが日本国内にいるだと?」
「はい。最近の絵画窃盗は全て彼の仕業と見られます」
眉根をひそめ報告を聞く骨皮筋衛門に部下は説明を続けた。ア・ルセーヌル・パンは日本各地で窃盗を繰り返しており、少しずつ犯行現場が帳面町に近づいているのだそうだ。
「このままだと奴はXデーに帳面町に到達してしまいそうです」
「うううむ」
暫くの間、筋衛門は目をつむり考えていたが、
「地下に潜る」
と一言残し闇に消えた。
「す、筋衛門さん!」
慌てた部下であったが、気づくと手に紙切れを握っている。それには
「大丈夫だ」
との力強い筆跡で筋衛門が残したメッセージが書かれていた。
「筋衛門さんが言うなら大丈夫だ」
部下は筋衛門を信じ切っていたため、そのままXデーへの準備に集中した。
実は、骨皮家が所有する令和最高の傑作と囁かれる名画がルーブルに貸し出されることとなっており、今はその準備に向けて万全の準備が整えられている最中だった。この名画の名前は「踊る阿呆に見る阿呆」といい、見ると全ての者が魅了され踊り出してしまうという怪作であり、噂を聞きつけたルーブルが調査を願い出たため貸し出されることになったのだ。
そこで帳面町から飛行機でルーブルへ送る日をXデーと名づけられ、骨皮筋衛門を筆頭に準備は進められていた。責任者の筋衛門が地下に潜ってしまったので部下は慌てたのである。しかし、彼が「大丈夫」と言うのであればそうに違いない。勇気や希望を相手に与える、それが骨皮筋衛門という存在なのだ。
Xデー当日、梱包された絵画はトラックに乗せられ骨皮家のプライベートジェットのあるHONEKAWA Airportへと運ばれた。
骨皮家が所有する空港は犯罪のない帳面町内にある。直接海外へアクセスできるため羽田を使わずに済むので警備はしやすい。もう大丈夫と誰もが思ったその時、
「梱包がおかしいです!」
学芸員が叫んだので、その場はハチの巣がつつかれた状態となる。
「ほ、本当ですか?」
「紐の結び目がおかしいです!」
真っ青になり泣き出す学芸員。世界的な名画に起こった出来事への不安に耐えられないのだろう。慌てて近くにいた警備員が梱包をほどいて中身を確認しようとした。
「ダ、ダメです!」
部下が叫んだのだが時すでに遅し。そこにいた全ての者が「踊る阿呆に見る阿呆」の魅力に憑りつかれ踊り狂う。
「ハーッハッハッハ」
1人踊らずにいた学芸員がスッと絵画に近づく。
「お、お前はア・ルセーヌル・パン!」
踊りながらも捕まえようとする部下。しかし、魅力に憑りつかれた者は2時間は踊り続けてしまう。呪いがかかっている体ではどうしようもない。
「なぜ奴は踊らないのだ!すみません。筋衛門さん」
悔し涙を流しながら部下は、悠然と絵画を持ち去るア・ルセーヌル・パンの姿を目で追いながら踊り続ける。
「陽動作戦で欲しくもない絵を盗みまくったのが功を奏したな」
プライベートジェットに無事乗り込みフカフカとしたシートに身を横たえ、ア・ルセーヌル・パンは満足げに呟く。名画に特化した怪盗としてア・ルセーヌル・パンは日々精進を怠らなかった。「踊る阿呆に見る阿呆」の場合も同じで、呪いを防ぐガラス素材を使い特殊な手袋とブーツを製造し身に着けていたのだ。
「本当ならルーブルに着いた後にこの手袋とブーツを使って盗む予定だったのだが」
犯罪の難しい帳面町で盗むよりパリに着いてから盗んだ方が安全だとはわかっていた。だが、親友の満身創痍の姿がア・ルセーヌル・パンの闘志に火をつけたのである。
骨皮筋衛門がいなければ計画は成功する、そう思い複数の絵画を盗みア・ルセーヌル・パン参上のニュースを流し筋衛門の関心を帳面町から外した。おかげで、今日の仕事は楽だったとプライベートジェット内備え付けのワインを開けようとした瞬間、
「そうはさせない!」
と声が響き、ア・ルセーヌル・パンの体はプライベートジェットから勢いよくはじき出された。
「ブゴォ!」
滑走路で態勢を立て直したア・ルセーヌル・パンは目の前にいる男を見て驚く。帳面町にいるはずがないのに……。
「ほ、骨皮筋衛門!」
「プライベートジェットの操縦士となり待っていた」
「くそう、全てお見通しかよっ」
悔しそうに叫ぶア・ルセーヌル・パンは、
「親友の仇!」
と飛びかかる。しかし、その時すでに骨皮筋衛門は空中にあった。
ヒラリ・クルリ・プルン・ボスン
あっけなくア・ルセーヌル・パンは捕らえられた。
「親友を思う気持ちは素晴らしいのだがな」
目を回し倒れているア・ルセーヌル・パンを慈愛に満ちた目で見降ろす我らがヒーロー骨皮筋衛門。
「踊る阿呆に見る阿呆」の魔力が切れる頃、プライベートジェットはルーブルへと旅立っていった。研究の一助としてア・ルセーヌル・パンが開発したガラスの手袋とブーツも添えられて。