【#シロクマ文芸部5月】⑤大切なもの(最終話)
1カ月の全お題を使って一つの物語を作るチャレンジをしています。レギュラー部員は月初めにお題を全部教えてもらえるので思いつきました。今日は5月最後のお話です。
4回目の題名をお題の「金魚鉢」のまま出していたことに気づき、それならと①の20字小説以外は「の」で終わる題名で統一してみました。
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赤い傘を初めて買ってもらったのは幼稚園の時。成長するにつれ大きな傘になるけれど色は常に赤。理由は「雨の日でも目立つから」
「もっと大人っぽい柄がいい」
と言っても赤は譲れないと言ったママ。
「だって大切なルウだから」
いくつになってもそう言っていたな。
小さい頃は「こいのぼりが欲しい」だの「ヒールの靴でコツコツしたい」だの、よくわからないことでずいぶんと騒いだよね。そのたびにママはおどけて私の気分を落ち着かせてくれた。よく怒らなかったな、すごいよママ。
ママの大切なもの、ルウはこれから宇宙へと飛び立ちます。夜店の金魚で泣いていた失敗が、まさか宇宙で金魚との共生試す研究員になるなんて。あの後すくった金魚も今年で27歳。この子も連れて行くよ。あの星の人達は金魚に興味を持ってくれるかしら?天から私を見守って……
「ルウ~なにしているのぉ。遅刻するよぉ」
「わかったからぁ!もう!」
シロクマ文芸部に提出する超大作SFを盛り上がって書いているところで声をかけられ、ルウはプウっと頬を膨らませる。
高校生になったルウは部活にシロクマ文芸部を選んだ。寝ていたら感動的なSF大作を思いつき、明け方から夢中で書いていたのだである。
「目が赤いよ、どうしたの?」
とママに言われドキリとした。ママがいない世界を想像しながら書いていたら涙が出てしまったのだ。
「な、なんでもないってば!」
慌てて味噌汁と流しいれ立ち上がる。
「ごちそうさま!いってきます!」
「ちょっと待って!」
玄関で呼び止められ振り返るとママが折りたたみ傘を持ってニッコリしている。色はもちろん赤だ。
「赤以外の傘も欲しい……」
「赤が一番目立つから他の色はダ~メ」
ため息をつきながらカバンに傘をしまう。これのおかげで学校では「赤が好きな女」と認識されている。誕プレも赤色の小物がほとんどだ。
「もう小さくないから」
とため息をつくと、
「いくつになってもルウは「大切なもの」なの」
とニッコリ笑うので思わず、
「ごめん……ママ」
と謝ってしまった。やはりママはずっと元気な方がいい。
「え?なんで?」
「あ……いや、何でもない」
慌てて飛び出すルウ。SF大作の設定は今日の部活中に変更しよう。ママが宇宙ステーションで食事を作るとかはどうかな?
本当は悲しい話にしようかと思ったのですが。途中でほのぼの系にしました。いつか1か月ゾッとする物語とかにも挑戦してみようかしら?
小牧幸助部長、今週も部活楽しかったです♪