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【#シロクマ文芸部7月】⑤最終話
1カ月の全お題を使って一つの物語を作るチャレンジをしています。レギュラー部員は月初めにお題を全部教えてもらえるので思いつきました。今日は7月最後のお話です。
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風鈴と波の音が一緒に聞こえる部屋でトウモロコシを食べる。ホカホカとしたトウモロコシにかぶりつくと、ジュワっと口の中に甘い味が広がり夏休みだなぁと思う。いつもは歯の間に薄皮がつくし食べた後が汚い感じがするから食べないんだけど、おばあちゃんの家で食べるトウモロコシはなんか違うんだよねぇ。
「腕がベトベトだよ、みーちゃん」
おばあちゃんがニコニコしながらお手拭きと冷えた麦茶をちゃぶ台に置いてくれた。
「ありがとう」
そう言いながらチラっとおばあちゃんを見る。
「なに?」
「なんでもない」
慌てて目をそらしトウモロコシに集中する。このニコニコしたおばあちゃんが銃を持っていたなんて未だに信じられない……でも、本当なんだよな。思い出してもドキドキする。
「おばあちゃん、カッコ良かったかね?」
「へ?」
「銃を構えた時のおばあちゃんさ」
「う、うん」
返事をした途端、笑いがこみ上げてきた。
「銃は嫌だなってアセったよぉ」
「みーちゃんをさらった悪者だからねぇ」
「魔物、ブルブル震えて可哀想だった」
「覚悟を決めたおばあちゃんは無敵さ」
我慢できなくなり、2人でしばらく大笑いとなる。
「魔物じゃなくてかき氷に発射するんだもん」
「魔物、喜んでただろ?」
私が魔物に引き寄せられたと知ったおばあちゃんは水鉄砲に、シロップを詰め海に飛び込んだという。かき氷にシロップをかければ魔物が子ども達を開放すると知っていたのだ。
「でも、どうして海の魔物がシロップが欲しいって知っていたの?」
「子どもの涙で作る甘い露を魔物が好む言い伝えを覚えていたからね」
10年に一度、甘い露を求めて海の魔物は活動する。10年前まではこの近くの人達は言い伝えを守り子どもを外に出さなかった。しかし、それを忘れて祭を開いた今年、祭りにでかけた子どもが何人も行方不明になり大騒ぎとなって……
「昔はねぇ、スイーツも発達してなかったから子どもを家から出さない方法しかなくてねぇ。あんなに喜んでかき氷を食べてくれるんだったら、もっと早くにシロップを分けて上げれば良かったね」
知らないままよりわかり合えた方がいいもんねと言いながら、おばあちゃんがドッコイショと立ち上がる。
「さあ、支度をしようか」
「なにを?」
「浴衣だよ。お祭りに着ていくだろ?」
「お祭り?」
昨日、行うはずだったお祭りは騒ぎで中止となってしまい急遽、今日行われることになったそうだ。
「そんなに簡単に変えられるの?」
「元々、雨が降ったら今日やるって決まっていたからさ」
鼻歌を歌いながらおばあちゃんは私に浴衣を着せてくれる。着終わったのを見計らったかのようにリオちゃんが、
「みーちゃん!」
と呼びに来てくれた。
「はーい!」
「楽しんできなさい」
そう言ってお小遣いを渡すおばあちゃんの顔はいつもの通り優しくニコニコと笑っていた。
「いってきま~す!」
リオちゃんとお祭りが開かれている神社に駆け出す。知らないより分かり合えた方がいい……そうだよね、それがいいよね。黙っていたらよくないよね。今度の週末はパパとママが来るって言っていた。そのままおばあちゃんと一緒にみんなで旅行に行くらしい。
でも私はそれを知らなかったから毎年、海の日の旅行がなくなったのがすごく悲しかった。ママとパパのことだから休みを取るために「きゅうじつしゅっきん」とかしたんだと思う。そして、
「サプラ~イズ!」
ってしたかったんだろうな。それも嬉しいけれど、でもちょっと相談してほしかったな。私だって大きいんだもん。サプライズ旅行のお手伝いだってしたいよ。だから、2人の顔を見たらちゃんと自分の気持ちを話そう。家族ってホントの気持ちを意外と話さないんだよねーなんて考えていたら、
「みーちゃん?どうかした?」
とリオちゃんが心配そうな顔で聞いてきた。
「ううん、なんでもない。大人ってダメだなぁって思ってた」
「そうだよね!さっきだってね、パパがさ」
2人でおしゃべりを楽しみながら神社へと向かう。今年の夏休みも楽しいな。
小牧幸助部長、今週もありがとうございました。