50代の心を今もわしづかみにする『サンクチュアリ』の魅力
このnoteでは、今までは麻雀関連の記事だけを書いてきました。しかし、今回は、麻雀とは1ミリも関係ない『サンクチュアリ』(1990〜1995)というマンガを紹介します。
1.あのガーシーも読んでいる
ガーシーの「ネオトウキョウ構想」
この記事を書こうと思ったきっかけは、『現代ビジネス』のガーシー(東谷義和)に関する次の記事を読んだことでした。
あのガーシーも『サンクチュアリ』の影響を受けているのかと驚いたのですが、考えてみれば、大ヒットマンガですし、世代的にも驚くような話ではありませんでした。
立憲民主党の「サンクチュアリ」
ちなみに、立憲民主党の最大派閥の名前も「サンクチュアリ」といいます。
Wikipediaには以下の由来が書かれていて、まあ筋は通るのですが、実はひそかに疑っていたりします。『サンクチュアリ』の連載終了が1995年、派閥の前身となる勉強会が民主党時代に発足したのが1996年——けっこうインスパイアされているのではないかと。
何が彼らの心をつかんだのか?
40代の私も、大学生のころに読んだ『サンクチュアリ』のことは心に残っています。最終話の雑誌掲載時、フルカラーでの北条と浅見のジャンケンシーンには涙したものでした。「俺の体の弱さをおまえに謝りたい」とか、やめてくれよ……。
ガーシーは現在51歳。『サンクチュアリ』の何が、50代の心をつかんでいるのか? 改めて『サンクチュアリ』全12巻を読み直し、考えたことを書いていきます。
2.『サンクチュアリ』とは
どんなマンガか?
前述の『現代ビジネス』の記事には、以下のようなあらすじが紹介されています。うーん、ちょっとカタいですね。
簡単に言うと、ヤクザと政治家のダブル主人公が、仲間とともに日本のトップをめざす天下取りマンガです。ジャンル的には、『ONE PIECE』とか『キングダム』とかあんな感じ。難しいことは何もありません。
原作の史村翔先生は、武論尊のペンネームで『北斗の拳』を大ヒットさせたヒットメーカー、作画の池上遼一先生は、その美麗な作画で海外も含めて多大な影響を世に与え、80歳近い現在もドラマ化が決定した『トリリオンゲーム』を手がける現役バリバリのレジェンドです。
いつまでもジイさん達の時代じゃねえ!
『サンクチュアリ』は、北条のヤクザパートと浅見の政治家パートが分かれて進行し、やがて合流するというストーリー展開を取ります。
まずは政治家パート。『サンクチュアリ』と言えば、何と言ってもこのシーンでしょう。
次はヤクザパート。
どちらのパートからも、無能な老人達への苛立ちと「自分なら現状を変えられる」という自負がビンビンに伝わってきます。こういったシーンに、当時の若者達は胸を躍らせたものでした。
それにしても、連載時から30年たっても、世の中が1ミリも変わっていないことには驚くばかりです。
エロと暴力
『サンクチュアリ』の掲載誌は青年誌『ビッグコミックスペリオール』であり、何しろ主人公のひとりがヤクザなので、エロと暴力もふんだんに登場します。そして、それらを一身に体現しているのが、主人公の兄貴分であるオレ達の渡海さんです。
余談ですが、この破天荒ヤクザ・渡海さんを若返らせ主人公にしたのが、同じ史村(武論尊)・池上コンビの『HEAT-灼熱-』(1999〜2004)だと思っています。まあ、最後は収拾つかなくなるけど、それはいつものことか……。
ヤクザから政治家へ
終盤では、裏社会の人間である北条が国会議員に立候補するという、どこかで見たような展開も起こります。
しかし、結果は落選。
日本の明日はどっちだ?
作中では、ガーシーのネオトウキョウ構想の元になった「和僑」や大統領制への移行といったさまざまな提案がなされました。
そして、日本が改革に向けて動き出したところで、物語は幕を閉じます。
3.なぜ、おっさん達の心をつかんで離さないのか?
まだ変革を夢見る余地があった
『サンクチュアリ』の連載期間は1990〜1995年であり、現在の50代が20代だったころです。1991年のバブル崩壊を目の当たりにしながらも、いずれは景気も回復するだろうとまだ夢を見ることができた時期でした。「いつまでもジイさん達の時代じゃねえ!」とか「30年かかるところを1日でやったる!」といった気概が残っていたわけです。
国内総生産(GDP)も、ちょうど1995年までは上向きでした。しかし、この後、阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件を経て、日本経済は長く停滞していくことになります。
政界の闇を暴露する
『サンクチュアリ』にある「無知な大衆 VS めざめたオレ達」というのは、いつの時代も若者が乗せられやすい構図ではありますね。近年では、ネットを中心に目につくことが多く、ガーシーをはじめとするYouTuberの多くもそういった構図をビジネスに利用しています。
上のコマは、敵である与党・民自党から寝返ったチンピラが、テレビカメラに向かって、民自党とロシアン・マフィアのつながりを暴露するシーンです。テレビとYouTubeという違いはありますが、ガーシーに投票した人が求めていたのは、こういうことだったんじゃないのかと考えると、なかなか興味深いですね。
そういう意味では、ガーシーも北条とは違ってせっかく当選したんだから、もうちょっと何とかならんかったもんかなあとは思います。
進まなかったのは社会なのか自分なのか
作中では、国民が政治に関心がなく、投票率が低いという話が出てきます。「今も昔も同じだな」と読み返していて思ったのですが、90年代初頭の衆議院議員総選挙の投票率は70%近くもあり、現在より10%以上高かったことを知って驚きました。ときおり現れるトリックスターがガス抜きとして作用しているだけで、社会全体が諦念の度合いを深めているんですね。なお、ガーシーが当選した第26回参議院議員選挙(2022年7月)の全体の投票率は52.05%、20代の投票率は33.99%でした。
『サンクチュアリ』連載時から30年が経過して、進まなかったのは社会なのか自分なのかと問いを発したなら、答えは両方ということになるでしょう。
私も含めて、「いつまでもジイさん達の時代じゃねえ」と思い続けてきた若者にとって、何も変えられないまま嫌悪していたジイさんになりつつある現状が、『サンクチュアリ』へのノスタルジーに拍車をかけている面はあると思います。
とりあえず、選挙も行くし、冷笑主義におちいることなく次の30年で何かやんないとなあ、というのがおよそ30年ぶりに『サンクチュアリ』を読み返して思ったことでした。やっぱり面白かったよ!
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