豪運を考える
先日、NHK BSで放映された『ドキュメント20min.』の赤坂ドリブンズの園田賢プロを扱った回「運命との闘牌」を見ました。番組では、Mリーグで度重なる不運に翻弄されながらも、最善手を模索し続ける園田プロの姿を描いていました。
この番組を見て、11年前に書いた以下のブログをアップデートしたのがこの記事です。不運とは真逆の豪運について書いていましたが、Mリーグについての内容を追加しています。
1.豪運とは
「豪運」というのは、要するに、「すごく運がいい」ということです。単に「強運」と言うよりすごそうだから、と深く考えずに使われている例が多いと思います。
何となく使われている例を除くと、「豪運」の使われ方は以下の2種類あります。
(1)の豪運上位説では、「強運」の上位概念として「豪運」が使われており、(2)のギャンブル用語説では、麻雀や特定のジャンル(ソシャゲのガチャ等)での強運を表す用語として「豪運」が使われています。
2.麻雀マンガに見る豪運
豪運の起源とは
豪運の起源については諸説ありますが、私が有力だと思っているのは、上に貼った『幻に賭けろ』です。わざわざ「ゴーウン」とフリガナつきで書いているところが初出っぽいと思うのですが、どうでしょう。
『幻に賭けろ』の主人公は、第1巻から強運キャラとして描かれていましたが、最終巻である第4巻から「豪運」という言葉を使うようになりました。ピカチュウがライチュウに進化するように、主人公の運が、強運から豪運に進化したと考えることもできますが、特にそういう描写はありませんでした。途中から「豪運」という用語を出してきたのは、個性的な4選手がそろった最終戦の場で、主人公の「持ち前の運を生かした高打点打法」という個性を強調するためではないかと思われます。
つまり、『幻に賭けろ』の豪運は、上の分類で言うと(2)のギャンブル用語説っぽいんですね。
鷲巣様は豪運だったか?
アニメ化・実写化もした人気麻雀マンガ『アカギ』では、主人公であるアカギ自身が強運キャラとして描かれていました。そして、そのアカギを凌駕する運を持つラスボス鷲巣様を豪運キャラと考えれば、(1)の豪運上位説の格好の例となりますが……
惜しいっ…! 漢字ちがいの「剛運」っ…!
どうやら福本先生は「豪運」は使わないみたいですね。
こっちも超運っ! かたくなに使わないっ…!🤣
しかし、鷲巣様は、強運などという言葉ではなまぬるいほどの運を持つという設定なので、いわゆる豪運キャラとあまり変わりはないですね。
アカギ本編では使われませんでしたが、鷲巣様が主人公となるスピンオフ作品の『ワシズ』では、けっこう豪運豪運言ってました。
ちなみに、『アカギ』自体が、『天 天和通りの快男児』に敵として登場した赤木しげるを主人公としたスピンオフ作品なので、『ワシズ』はスピンオフ作品のさらにスピンオフということになります。
こっからは豪運のバーゲンセールや!
最近は麻雀マンガの収集をサボっているので、ここで紹介するのは、元のブログに載せていた古めのマンガばかりになります。
『幻に賭けろ』とほぼ同時期に連載が始まった『兎』は、高校生代打ち集団を主人公としたスタイリッシュな麻雀マンガでした。それほど人気も出ず4巻で終わったマニアックな『幻に賭けろ』とは異なり、1996年から2017年まで20年以上にわたる長期連載となり、ゲーム・パチスロ・実写化もされ人気を博したため、豪運のネタ元と考える人も多い作品です。特に、序盤は豪運キャラ同士のぶつかり合いが中心となったため、しょっちゅう豪運豪運言ってました。
『兎』は、特異な雀風や特殊能力を持つ高校生雀士たちがコードネームで呼び合いながら大人たちに立ち向かうという厨二心をくすぐるマンガでしたが、今から見れば、『咲』ほど能力バトルに振り切れなかった印象があります。
どちらも人気マンガである『咲』と『ムダヅモ無き改革』は、能力バトルと必殺技バトルというそれぞれの路線が固まってからは、あまり豪運とは言わなくなりましたね。
最後の『炎神戦隊ゴーオンジャー』は、「そっちはゴーウンじゃなくて、ゴーオンじゃん!」というオチとして引っ張ってきていたのですが、Wikipediaの主人公紹介を見ると、豪運が元ネタっぽいんですよね。
というわけで、麻雀マンガで使われ出してから30年近くを経て、豪運はすっかり世の中に定着したのでした。
3.Mリーグに見る不運と豪運
Mリーグにおける不運と豪運についても見ていきます。
83人に1人の不運
NHKの番組では、園田プロの不運を示す具体的な指標として、裏ドラ率が挙げられていました。
確かに、「なんなん?」と言いたくなるくらい、園田プロの裏ドラ率はぶっちぎりの低さでした。現役Mリーガー32人だけでなく、旧Mリーガー6人を加えた38人の中で最下位です。一方、裏ドラ率のトップは、同じドリブンズの丸山奏子プロでした。そうすると、けっこうチーム内で相殺されているのではないかという気もしますね。
なお、「裏ドラが乗るかは生き方による」という説も昔はありました。
役満をよくアガっているのは?
裏ドラ以外の運の指標として、Mリーグで役満をよくアガっているのはどの選手かも見てみました。
これまでに21回出ている役満は、佐々木寿人プロ、松本吉弘プロ、魚谷侑未プロ、そして所属チームは変わりましたが滝沢和典プロが、それぞれ2回アガっています。チームとしては、Mリーグ5年間で6回の役満をアガっている麻雀格闘倶楽部が1位でした。特に、現メンバーは全員が四暗刻をアガっており、麻雀四暗刻倶楽部に改名してもいいくらいです。
「ファイナルでのアガリは、レギュラーシーズンの4倍の価値がある」と考えれば、つい先日、2回目の役満(四暗刻)を2022-2023ファイナルでアガり、首位のABEMASに追いつけるかと思わせた滝沢プロが一番の豪運ということになります。
上に貼ったのは、Mリーグ成績速報(非公式)さんが出している2022-2023のレギュラーシーズンのデータですが、裏ドラ率や役満以外の運の指標としては、一発率や満貫以上親被り率等があります。選手の勝ち負けが運なのか実力なのかを示す明確な指標はありませんが、いずれは麻雀AIとの一致率がその役割を担うようになるのでしょうか。
豪運と言えばやはり
豪運と言えば、やはりこの人でしょう。
キンマwebのMリーガー紹介を見ると、「豪運」の二字がプロフィールに躍っているのは黒沢咲プロだけです。
一口にツイてると言っても、「山6の追っかけリーチくらったけど、つかまんかったわ!」とかいろいろあるわけです。しかし、『幻に賭けろ』で言っていたとおり、豪運として印象に残るのは「豪快かつ豪勢」なアガリであり、その意味で黒沢プロの名前が挙がるのではないでしょうか。
こんなリーチ一発メンホンチートイツの親っパネとか
死ぬほど擦られたこんな西単騎の四暗刻の河底ロンとか
こんな9本場の親で一発ツモしての11万点トップとか
プロフィールに「持ち前のスタイルで豪運を操り好成績を残した」とあるように、極端な面前高打点という黒沢プロのスタイルが、実際にツイていたかはともかく、豪運と感じさせるアガリをいくつも生み出しています。
運と実力
最後に「運命との闘牌」の感想を書くと、以前から園田プロは「腕は一流なのにツイてない選手」とされており、不運を嘆く「なんなん」というぼやきが代名詞になっています。私も「そのけん、ツイてねーな」と思う一方で、「選手のレベルが一定な最高位戦A1リーグとは大きく違う、Mリーグという場にアジャストできてないんじゃないの?」と思ってもいます。
いずれにせよ、運に翻弄されているのはMリーガー全員がそうであり、最短2年のわずか数十試合の結果でMリーガーとしての地位を失いかねない過酷な環境に身を置いています。レギュラーシーズン最後の試合で苦しみながらトップを取る園田プロの姿は劇的でしたが、運に左右されながらも実力を磨き続けるMリーガーの一例として見るべきではないかと思いました。ネタにしておいて何ですが、園田プロの不運にばかり注目が集まるとすれば、あんまりよくないよなと感じています。