『レジャー白書』から見る麻雀の歴史④(1990年代後半 その2)
4.麻雀のイメージの変遷(1990年代後半と現在)
今回の記事では、1990年代後半の『レジャー白書』と、2019年に実施されたMリーグ機構によるアンケート調査から、麻雀に対するイメージの変遷を見ていきたいと思います。
1990年代のオタク化(1996)
世界一のギャンブル大国
麻雀に対するイメージを表すデータとして、まず、『レジャー白書1997』の特別レポート「変わる日本人のギャンブル観とパチンコ」があります。
この堂々たる宣言から始まる特別レポートの序文は、次のように続きます。
1996年時点では、日本の余暇市場は約84兆4千億円であるのに対し、ギャンブル型レジャーの市場規模は33兆円超でした。
現時点での最新版である『レジャー白書2022』によれば、2021年の日本の余暇市場は55兆7600億円になります。一方、パチンコ(14兆6千億円)とその他のギャンブル(8兆3590億円)を合わせたギャンブル型レジャーの市場規模は約23兆円でした。したがって、その比率は41.2%となり、現在でも「わが国のギャンブル市場(国民が1年間にギャンブルに使うお金)は、余暇市場の実に4割を占め」ていることになります。さらに言うなら、ギャンブル型レジャーには含まれないソシャゲの2021年の市場規模は1兆3170億円でした。
他国に目を向けると、パチンコ・パチスロ業界ニュースの「遊技日本」(2022/03/30)によれば、2021年の全米のギャンブル売上は6兆1123億円(そのうちラスベガスは8146億円)、マカオのカジノ売上は1兆2640億円でした。
こうして見ると、ギャンブルに費やされる額については、日本の23兆円が他国を圧倒的に上回っています。しかし、14兆6千億円に達するパチンコの「市場規模」は、パチンコ貸玉料とパチスロ貸メダル料がベースになっており、ラスベガスやマカオの「売上」とは内容が異なります。パチンコメーカーのダイコク電機が出している『DK-SIS白書』によれば、2021年のパチンコの総粗利は2.39兆円にすぎませんでした。
それらを考慮すると、そこまで圧倒的とは言えなくなりますが、日本が世界有数のギャンブル大国であることは間違いありません。
1996年までの10年間でどう変わったか?
『レジャー白書1997』の特別レポート「変わる日本人のギャンブル観とパチンコ」に話を戻すと、1996年までの10年間で、日本人のギャンブル参加率には以下の傾向がありました。
タイトルからわかるとおり、このレポートでは、主にパチンコに焦点が当てられています。そして、最終的に、「公的な第三者機関がパチンコのギャンブル性を抑制すべきである」という提言がなされていました。この後、事態はおおむねその提言どおりに進行しましたが、現在、パチンコは参加人口・市場規模ともに低迷しています。
このnoteはパチンコではなく麻雀がテーマなので、特別レポートの中から、各ギャンブルの1986年と1996年のイメージを比較した以下の表を主に見ていくことにします。なお、元の表にあった「地方競馬」「競輪」「競艇」「オートレース」は省いています。
(1) ギャンブル化したパチンコ
現在では若者のパチンコ離れが声高に叫ばれていますが、1990年代後半までは、「娯楽の王様」パチンコは若者向けレジャーの代表格でした。しかし、1996年にCR機の高い射幸性が社会問題化したことで、「イメージは暗くなり、やる人が特定の人に偏った、最も社会に悪影響を与えるレジャー」となります。
この後、パチンコの参加人口は減る一方で、2005年に約35兆円に達するまで市場規模は拡大し続けるギャンブル化が進んでいきます。
(2) とにかく明るい宝くじ
ギャンブル色の薄い宝くじは、「明るい感じがし、幅広いファンを持ち、社会貢献度の高いレジャー」でした。パチンコ店や雀荘のように一箇所にこもってやるわけではなく、宝くじ売り場で気軽に買えたことが原因でしょうか。収益が公共事業等に充てられていることも、イメージアップに大きく貢献しています。
とこのように、景気に左右されるのかされないのかどっちやねん、という記述もありますが
1994年発売(全国発売は1995年)の「ナンバーズ」ほか、時代に合わせて、次々と新しい商品を出し続けたことが人気の秘訣だと思います。現在も、全盛期に比べると参加人口は半減していますが、市場規模は8000億円程度で安定しています。これは、新商品によるギャンブル化が進んでいることも意味しています。
ちなみに、2001年から全国発売された「toto」に始まるスポーツ振興くじ(市場規模は1000億円程度)は、宝くじとは別扱いになります。そのうち、2022年9月発売の「WINNER」では、従来のサッカーだけでなくバスケの試合結果も予想できるようになりました。バスケのBリーグが始まったのは2016年ですから、数年後にはMリーグの試合結果を予想するくじも発売されるかもしれません。
(3) 90年代を駆け抜けた中央競馬
中央競馬は、1986年から1996年の10年間で大きくイメージアップに成功しました。「社会に悪影響を与えるイメージを脱し、幅広くファンを獲得した、若者向けの明るいレジャー」となり、参加人口も市場規模も飛躍させています。ウマ娘の30年以上も前から、JRA(日本中央競馬会)がPR等の努力を惜しまなかったことがわかります。
中央競馬では、2015年にも、ロビー活動が功を奏して海外レースの馬券が発売できるように競馬法が改正され、売上を拡大させています。やっぱ、業界全体がもっと儲けるために金を使ってんだよな。
(4) オタク化した麻雀
麻雀は、1986年から1996年の10年間で、「若者向けではなくなり、暗いイメージはさらに暗くなり、社会にまったく貢献しない、オタクしかやらないレジャー」に変わりました。
この時期になると、『レジャー白書』でも麻雀についてふれられることはほぼなくなり、「「麻雀」は長期低落傾向」(『レジャー白書1991』)とさらっと述べられているくらいです。
つまり、冒頭に貼った『ノーマーク爆牌党』第1巻(1991)の「うーん、そうね、暗い感じ」「今さらはやんない」といったセリフは、当時の世相をビビッドに反映していたわけです。結局、女の子に相手にされないから……🥹
麻雀は、1996年時点で、「明るい感じがするのは」「レジャーとして特に楽しそうなのは」「社会に貢献している面が強いと思えるのは」の3つの項目でワーストになっています。麻雀ファンとしては、「いくら何でも宝くじよりゃ楽しいだろ!」と思ったりもするわけですが、これが当時の一般的なイメージでした。
そして、こうしたイメージの延長線上に、子供(特に女子)からもその親からも、麻雀は完全にそっぽを向かれているという2015年の調査結果があるわけです。…20年間、必死に生きてきた結果が……これなのか?😭
Mリーグによる頭脳スポーツ化(2019)
イメージ1位は「頭脳スポーツ」
時代は下って2019年に、『レジャー白書』とは別に、Mリーグ機構によって1万人を対象に大規模なアンケート調査が行われました。その中には、2018年に始まったMリーグによって、麻雀のイメージがどう変わったかを調査したものもありました。
ポジティブなイメージは上がったが
Mリーグ機構による2019年の麻雀のイメージについてのアンケート調査結果を、『レジャー白書』の1996年の調査結果と強引に重ね合わせたものが以下になります。
<調査結果サマリ>にあるとおり、「約1年で「麻雀」のネガティブイメージが全体的に低下。ポジティブイメージも一部上昇した項目が見られ」ます。しかし、30%以上の人が抱いている麻雀の最も強いイメージは、2019年においても、「ギャンブル」「徹夜」「たばこ」というネガティブなものでした。それにしても、このアンケート項目の中の「悪い人がやっている」というのはいいですね。直球すぎる。
Mリーグアンケート後の展開
Mリーグ機構によるアンケートが行われたのは2019年でしたが、その後の2020年5月20日に、黒川検事長の賭け麻雀のニュースが、文春オンラインを発端に大々的に報じられました。麻雀警察の動画のネタになったり、黒川杯が開催されたりもしましたが、このニュース自体は現在ではけっこう風化していると思います。しかし、「麻雀=ギャンブル」というイメージは、なかなか払拭しきれていないのではないでしょうか。
福地誠先生が最近書いているこういった記事を見ても、新宿歌舞伎町というごく限られた場所とはいえ、まだまだギャンブルとしての麻雀も根強く残っているんだなと思わされます。
ポジティブな話としては、Mリーグ創設後の2018年12月20日に、自民党の有志議員によって、「頭脳スポーツとしての健全で安全な麻雀を推進する議員連盟」が発足しています。
当時の福地先生の「以前はどうしてもこうはいかなかった。」という感想にも実感がこもっています。
前述した自民党の「競馬推進議員連盟」が競馬法の改正に貢献したように、麻雀に関しても、こうした議員連盟の活躍を期待したいところです。ただ、今のところは、2020年3月にコロナ禍で支援が必要な業種に雀荘を追加したのが、目立った活動としては最後になっています。