ドリブンズ戦略を考える
今年度のMリーグもレギュラーシーズンの2/3を終え、いよいよ佳境を迎えています。
ちょうど30試合を残した現在、赤坂ドリブンズの状況は相当厳しく、7位以下でレギュラーシーズンを終えて予選落ちとなり、クビルールによって来期は選手の入れ替えとなる可能性が高いです。
そこで、今さらながら、2019年に女性メンバーの加入が必須となった際にドリブンズが取った、無名の若手女性プロを「育成枠」として採用し、最低出場試合数の10試合だけ打たせるという戦略について考えてみたいと思います。
※数値の再チェックを行ったところ、2019年と2021年のDFポイント表に記載ミスが各1箇所ずつあったので修正しました。累計ポイント表・順位変化表には、記載ミスは見つかりませんでした(2023年2月5日追記)。
1.ドリブンズ戦略とファイトクラブ戦略
ドリブンズ戦略
ドリブンズ戦略とは、今述べた「最も期待値の低い選手に最低出場試合数(レギュラーシーズンなら10試合)だけ打たせる」という戦略を指します。これは、好き嫌いは別として、チームの勝利だけを考えるなら、理論上はケチのつけようのない戦略だと思います。上記の順位が示すとおり、現在のドリブンズではあまり成功していませんが、実際にその戦略を採用している一チームの成績と、戦略自体の有効性はまた別の問題です。
ファイトクラブ戦略
その一方で、ファイトクラブ戦略というものも存在します。これは、ドリブンズ戦略とは真逆で、「最も期待値の高い選手に最大限多く打たせる」という戦略になります。以前のファイトクラブが、佐々木寿人プロを絶対的エースとして多用していたことに由来しています。
もっとも、かつては「寿人、寿人、雨、寿人」などと言われていましたが、2021年にチームがリニューアルされて以降は、ファイトクラブの選手起用はかなり均等になっています。
DF戦略
Mリーグはチーム戦を謳いながらも、結局は個人戦の集積で勝敗が決定するので、このドリブンズ戦略とファイトクラブ戦略の混合が最適解であることは明らかです。つまり、「最も期待値の高い選手に最大限多く打たせ、最も期待値の低い選手に最低限しか打たせない」という戦略です。これを仮に「DF戦略」と呼びます。
DF戦略を徹底するなら、2022年から94試合になったレギュラーシーズンは、エースに最高出場試合数の47試合、その他2人には合わせて37試合、最も期待値の低い選手には10試合だけ打たせることになります。さらに、出場試合数の規定がないセミファイナル(20試合)とファイナル(16試合)では、F戦略——すべての試合をエースに打たせることになります。
※レギュラーシーズンの試合数が増えた今シーズン以降も、1選手の最高出場試合数は45試合のままである可能性があります(2023年2月16日追記)。
すべてのチームがDF戦略を取っていたら
本記事は、ドリブンズがドリブンズ戦略を開始して以降の2019〜2021シーズンに、全チームがこのDF戦略を取っていたらどうなっていたかを、大雑把に計算するものです(本当に大雑把です!)。
ごく簡単に、最も期待値が低いと思われる選手が10試合だけ打っていた場合のポイントを算出し、10試合を超える分は、最も期待値が高いと思われるチームのエースが打った場合のポイントに置き換えます。基本的に、二者間でのみポイントを付け替え、エースが最大限の試合数に達しなくてもよいものとします。
それによって、本当にこの戦略は有効なのか、どのチームにとって最も有効なのかを考察できたらと思っています。
2.計算方法
誰に誰を付け替えるか?
未来人である私たちは、ワールドカップ2022で、下馬評の低かった日本が、サッカー強豪国であるドイツとスペインを撃破したことを知っています。それと同じように、黒沢咲プロが、Mリーグで3年連続3桁のプラスを叩きだし、雷電の大黒柱になったことも知っています。しかし、Mリーグ開始当初は、プロ連盟の最高タイトルである鳳凰位を3度も獲得している瀬戸熊直樹プロの方が、チーム内での期待ははるかに高かったはずです。
というように、現在から見れば、やや違和感があるかもしれませんが、主に出場試合数を基準に(「エース」は多く起用されているはず)、期待値の高かった選手と低かった選手の試合数とポイントを付け替えてみます。
以下は、2019-2020シーズンの例です。
※付け替えた試合数が、当時の最高出場試合数の45を超えた場合は、また別の選手に付け替えています。
風林火山 二階堂亜樹(20→10) → 勝又健志(35→45)
サクラナイツ 岡田紗佳(19→10) → 沢崎誠(41→45)・内川幸太郎(30→35)
麻雀格闘倶楽部 高宮まり(21→10) → 佐々木寿人(29→40)
ABEMAS 日向藍子(16→10) → 多井隆晴(27→33)
フェニックス 和久津晶(15→10) → 魚谷侑未(27→32)
雷電 萩原聖人(29→10) → 瀬戸熊直樹(33→45)・黒沢咲(28→35)
Pirates 瑞原明奈(16→10) → 小林剛(30→36)
A→Bの意味
現実のレギュラーシーズンの結果として、選手Aが20試合で-200ポイント、選手Bが30試合で+300ポイントだったとします(合計+100pt)。そうすると、1試合ごとの平均ポイントは、選手Aが-10ポイント、選手Bが+10ポイントになります。
ここから、選手Aが最低出場試合数の10試合しか出ず、10試合を超える分は選手Bが出たものとして計算し、選手Aは10試合で-100ポイント、選手Bは40試合で+400ポイント獲得したとします(合計+300pt)。このとき、チームポイントは現実より200ポイント増えることになります。
もちろん、その場合、元々の稼ぎ頭のポイントを増やし、穴となる選手の失点を減らすことになるので、ほとんどのチームの点数が増えます。全チームのポイント合計はプラマイゼロどころか、膨大なインフレとなりますが、何しろ大雑把なので……。
3.2019-2020レギュラーシーズン
風林火山 二階堂亜樹(20→10) → 勝又健志(35→45)
サクラナイツ 岡田紗佳(19→10) → 沢崎誠(41→45)・内川幸太郎(30→35)
麻雀格闘倶楽部 高宮まり(21→10) → 佐々木寿人(29→40)
ABEMAS 日向藍子(16→10) → 多井隆晴(27→33)
フェニックス 和久津晶(15→10) → 魚谷侑未(27→32)
雷電 萩原聖人(29→10) → 瀬戸熊直樹(33→45)・黒沢咲(28→35)
Pirates 瑞原明奈(16→10) → 小林剛(30→36)
この年は、DF戦略を採用した場合、雷電が大きくポイントを伸ばしていますが、まだ瀬戸熊プロをエースとしていたこともあり、順位に変動が生じるほどではありません。風林火山も、エースの勝又健志プロがほぼプラマイゼロなので、3桁マイナスの他の2人をリカバーするまでには至りませんでした。ファイトクラブは、エースの寿人プロより、高宮まりプロの方が成績がよかったので、代わって打った場合はかえってマイナスになっています。
4.2020-2021レギュラーシーズン
風林火山 二階堂亜樹(28→10) → 勝又健志(31→45)・滝沢和典(31→35)
サクラナイツ 岡田紗佳(15→10) → 堀慎吾(28→33)
麻雀格闘倶楽部 高宮まり(20→10) → 佐々木寿人(30→40)
ABEMAS 日向藍子(17→10) → 多井隆晴(25→32)
フェニックス 和久津晶(19→10) → 魚谷侑未(26→35)
雷電 萩原聖人(27→10) → 黒沢咲(31→45)・瀬戸熊直樹(32→35)
Pirates 瑞原明奈(19→10) → 小林剛(31→40)
この年は、萩原聖人プロが最下位となるマイナス460ポイントを叩く一方、2年連続3桁のプラスでようやくエースと認められた黒沢プロがこの年も安定して3桁プラスしていたので、DF戦略を採用していた場合は、6位から3位へ3着順もアップします。
同様に、Piratesは小林剛プロが300ポイント超のプラス、ファイトクラブも寿人プロが500ポイント近くを稼いでMVPを取る活躍を見せており、DF戦略を採用していれば、さらに味方の失点を十二分に取り戻すことになります。
ドリブンズは、他チームのDF効果のあおりを受けて、3位から5位へ滑り落ちることになりました。
また、この年の風林火山は、エースの勝又プロが2桁マイナスとチームで一番成績が悪く、同じく2桁マイナスの亜樹プロよりも悪かったため、DF戦略ではかえってマイナスになります。それによって、Piratesは、現実とは異なり、ギリギリ予選落ちをまぬがれていました。DF戦略に覆われた世界線では、2020ファイナルの勝又無双(12戦中7戦出場5トップ)を見ることはかないませんでした。
5.2021-2022レギュラーシーズン
2021年のドリブンズは、世間の声に圧されたのか、ドリブンズ戦略を徹底できず、丸山奏子プロを12試合出しています。そのため、この2試合分を、出場試合数トップで、ポイントも唯一プラスの鈴木たろうプロに付け替えました。
ドリブンズ 丸山奏子(12→10) → 鈴木たろう(28→30)
風林火山 二階堂瑠美(18→10) → 勝又健志(23→31)
サクラナイツ 岡田紗佳(16→10) → 堀慎吾(30→36)
麻雀格闘倶楽部 高宮まり(20→10) → 佐々木寿人(25→35)
ABEMAS 日向藍子(17→10) → 多井隆晴(25→32)
フェニックス 東城りお(16→10) → 魚谷侑未(26→32)
雷電 萩原聖人(22→10) → 黒沢咲(23→35)
Pirates 石橋伸洋(17→10) → 小林剛(29→36)
この年は、雷電が未曾有のマイナスを叩きだし、エースの黒沢プロも大きくマイナスしていたので、DF戦略でもどうにもなりませんでした。フェニックスも、エース・魚谷侑未プロの不振のため、DF戦略はかえって障害となります。逆に、風林火山とサクラナイツは、新規参入の二階堂瑠美プロと岡田紗佳プロの大きなマイナスを、エースがカバーできていました。
6.試算してみての考察
どのチームにとって有効だったか?
「強い選手を余計に出し、弱い選手を引っ込める」DF戦略は、理論上、有効であることは明らかですが、どのチームにとって最も有効なのかと言えば、やはり雷電ということになります。Mリーガーの中でもぶっちぎりのマイナスをコンスタントに叩きだしている萩原プロを抱え、2021年を除いては、3年連続3桁プラスの不動の大エース・黒沢プロを擁する雷電は、DF戦略を取る条件がそろいすぎています。とはいえ、それでも、チームの理念であるRMOを体現するハギーを起用し続けなければ立ち行かないのが、雷電というチームでもあります。
また、Piratesも、初年度を除いては常に3桁プラスの小林プロが安定しすぎているので、チームメイトの不安定さもまして、DF戦略には向いているチームでした。
2021年の雷電の4桁のマイナスは大きすぎるのと、予選落ちとなる7位以下のチームは、どれだけマイナスしても同じことなので、上の累計ポイントよりも下の平均順位を見る方が適切だと思います。
ドリブンズが一番使いこなせていない
すべてのチームがDF戦略を取った世界線では、2019〜2021シーズンの平均順位は、ドリブンズが最下位でした。現実と同様に、2019年と2021年に2回の予選落ちを経験しています。
経験の浅い丸山プロが予想どおり大きな失点を積み重ねる一方、誰もが認めるトッププロとして、チームをファイナルに毎年連れて行くはずのエース3人が機能しないとなれば、DF戦略をもってしても勝てるわけがありません。
園田プロ・村上プロ・たろうプロは、全員が本当に強い麻雀プロなので、単にツイてないだけなのか、それとも、よく言われるように、選手の実力も雀風もバラバラなMリーグという場にアジャストできていないのかはわかりません。いずれにせよ、全チームがDF戦略を取る世界線では、「ドリブンズが一番ドリブンズ戦略を使いこなせていない」という結果が出たのはなかなか興味深かったです。
ファイナルではみんなもうやっている
今回の記事でレギュラーシーズンだけを試算したのは、セミファイナル以降では、試合数が少ないため一戦一戦の価値が高くなり、出場試合数の規定もないため、多くのチームですでにDF戦略に近いものが採用されているからですね(下の表では、3人チームと4人チームでは、出場試合数による色分けを変えています)。
特に、ここ2年のファイナルでは、DF戦略を徹底したチームが優勝しているとさえ言えます。
じゃあ、どのチームもこういった戦略を使えばいいのかと言えば、私はそうは思いません。まあ、2020年のファイナルで、多井多井でABEMASが優勝していれば、それはそれで満足していた気もしますが……。
オフィシャルサポーターの数が示すとおり、真にファンに愛されるのは、すべての選手を平等に起用する現在のファイトクラブのようなチームなのではないかと思うのです。