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ドラマ『ドクターX』の闘牌が意外とガチだった【第7期】

あけましておめでとうございます。
年が明けても、あいかわらず『はたらく細胞』は強いですね。『ドクターX』の5位キープも地味にスゴい。全然、ファミリー向けじゃないのに。ここまできたら、観に行くのはもう来月でもいいんじゃないかな……。

それはともかく、いよいよ最終シーズンとなった第7期のレビューになります。なお、この記事の最初の方は、新型コロナウイルス流行時の医療の状況を長々と書いているので、『ドクターX』の話は「2.ストーリー」からになります😌

「映画.com」国内映画ランキング(2025/01/07)

『ドクターX』第7期(2021)

1.百年に一度のパンデミックの嵐

第7期 第1話

■第7期ナレーション

2021年、百年に一度のパンデミックの嵐が吹き荒れ、世界中で医療崩壊が起きた。日本の白い巨塔は火事場の馬鹿力を発揮し、何とかその荒波を乗り越えていた。しかし、かつて大学病院の花形だった外科は分院へ移され、手術の件数は大幅に減り、赤字経営が続いていた。

『ドクターX』第7期は、コロナ禍の2021年10月から12月にかけて放送されました。私自身、2021年はどんなだったか忘れていることも多かったので、まずは当時の状況を簡単におさらいしておきます。

2021年までのコロナをめぐる状況

法務省の『令和4年版 犯罪白書』に、2021年までの「新型コロナウイルス感染症に関連する主な社会の出来事」の年表が載っていたので、そちらを以下に引用しました。

『令和4年版 犯罪白書』第7編/第2章/1

細かいので簡単にまとめると、新型コロナウイルスの流行は、2020年の初頭から始まりました。2020年2月に、豪華客船ダイヤモンド・プリンセス号の集団感染が発生しています。これについては、『フロントライン』というタイトルで映画化が発表されていますね。
2020年と2021年には緊急事態宣言がたびたび発せられました。医療従事者以外の一般人へのコロナワクチン接種は、2021年4月から始まっています。2020年に開催されるはずだった東京オリンピックは延期され、2021年の7月から8月にかけて行われました。2021年10月には、40〜70代のワクチンの2回接種率が60%を超え、次第に落ち着きつつありましたが、デルタ株等の変異株の流行が懸念されていました。
このような状況下で、2021年10月から『ドクターX』第7期は始まったわけです。

白い巨塔は火事場の馬鹿力を発揮したのか?

第7期 第1話

『ドクターX』第6期では「完全に崩れ落ちた」と言われていた白い巨塔(大学病院)ですが、第7期では「火事場の馬鹿力を発揮し、パンデミックの荒波を乗り越えていた」と、がれきの中から不死鳥のごとくよみがえりました。
大学病院は、財政的には、2020年から赤字に転落するはずが、コロナ補助金で持ちこたえたのは第6期のレビューで見ました。それでは、コロナ禍における医療機関としての活躍ぶりは、どのようなものだったのでしょうか。

公立病院・公的病院・民間病院のうち、大学病院は、公的病院に分類されます。日本赤十字等も公的病院に含まれるので、大学病院の比率は不明ですが、2020年11月時点では、民間病院のコロナ患者受入可能比率が20%を切っているところ、公的病院は、「公的」の名のとおり、80%近くが受入可能としていました。そして、受入可能な592の公的病院のうち、88%が実際にコロナ患者を受け入れていました(公立病院・民間病院は76%)。
ということで、確かに「白い巨塔は火事場の馬鹿力を発揮した」と言ってもよさそうです。

厚生労働省「新型コロナウイルス感染症対応の状況等」(2020/11/05)

外科はそんなにダメだったか?

第7期 第1話

第7期ナレーションでは、「かつて大学病院の花形だった外科は分院へ移され、手術の件数は大幅に減り、赤字経営が続いていた」とも語られていました。そのため、ドラマ内では、外科は内科の勢いにすっかり押され、分院に押し込められるさまが描かれました。

全国医学部長病院長会議「新型コロナウイルス感染症が大学病院経営に与えた影響(2021年度)」(2023/01/23)

実際に、コロナ流行中の2020年度は、感染を恐れて手術件数は10万件も減っていました。その一方で、2021年度には新規抗がん剤治療患者数は過去最高になったということなので、内科の勢力拡大は現実にも起こっていたわけです。そして、手術できないことで患者のがんが悪化するということもあったようです。

■研究成果のポイント
・2020年度・2021年度には、がん切除数(手術、内視鏡)が大幅に抑制。
・2020年度に新規抗がん剤治療患者数が減少したが2021年度は過去最高数だった。
・コロナ禍で、切除可能な早期がん診断が適切に実施できていないと考えられる。

横浜市立大学「各種がんの切除数が2年連続で抑制傾向 ~コロナ禍の影響が続いている可能性を示唆~」(2023/04/19)

2.ストーリー

第7期 第1話

現実のコロナ禍を背景にした『ドクターX』第7期は、いつもの痛快医療ドラマとはややテイストが異なり、一部ではあるものの、社会派ドラマのおもむきがありました。

社会派ドラマっぽかった

第7期 第1話

第1話は、主人公・大門未知子(米倉涼子)がいきなりPCR検査で陽性になったり、俳優の顔を見せたいドラマには珍しく、全員がマスクをしていたりと、かなり緊迫感のあるものでした。また、人手不足で家に帰れず、医者の家族ということで保育園でも子供を扱ってもらえないという医療従事者の苦悩が描かれ、「コロナと戦ってる私たちが、何でこんな苦しい思いばっかりしなきゃいけないんですか」と看護師が内心を吐露するシーンもありました。
ただ、マスクは第1話かぎりで、第2話以降はいつもどおりな感じでしたが、シーズン終盤は、コロナの変異株から着想を得たっぽい新型ウイルスの侵入や緊急事態宣言等、現実をなぞる展開が見られました。

第7期 第6話

あと、第1話にはTikTokやコスプレイヤーなんかも出てきたので、今どきの流行にもふれていくのかと思いましたが、そうでもありませんでしたね。2018年の『おっさんずラブ』でブレイクした田中圭が、第7話に医療系YouTuberとして再登場したくらいでしょうか。第6話では、以前のレビュー記事で扱った医療マンガ『医龍』や『ブラック・ジャック』への言及がありました。
また、第5話に登場した「ナースX」こと那須田看護師(松下奈緒)はいいキャラだったので、シリーズが続けば再登場もあったはずで惜しかった……。と思ったら、『ドクターX』と同じ脚本家(中園ミホ)のドラマ『ザ・トラベルナース』(2022〜)の主人公の名前も那須田(岡田将生)でした。こっちのドラマに転生したということなんですね。

「内科 VS 外科」再び

第7期 第2話

第7期のラスボス・蜂須賀内科部長(野村萬斎)は、元々は外科医だったのが出世コースから外れ、やむなく内科に転向した結果、コロナ禍によって病院を牛耳るまでに出世したという人物でした。いわば、コロナバブルの恩恵を受けたことになります。

外科に対する内科の優位を強く主張する人物と言えば、スペシャル版に出てきた、ビートたけし演じる黒須院長が思い出されます。

スペシャル版

外科から内科に転向した過去を持つたけしは、未知子にこんな話をしていました。

「ここに百億、国家予算がある。私はその金で一億人の命が救える薬を作れる。ところがどうでしょう。外科医が百億使って救える人数は、せいぜい一万人くらいです」
「これからは薬の時代だ。外科医なんかいらない時代が、もうすぐそこまできている」

第7期 第8話

たけしと同様に、元は外科医であり屈折した過去を持つ蜂須賀は、まさに「ジェネリックたけし」と言っていいでしょう。
この蜂須賀も、内科医であり病院を経営する立場として、たけしと同じような主張をします。

蜂須賀「私が見ているのは、未来の医療です」
神原「大門が見ているのは、目の前の患者です」

(手術が間に合わず、担当患者を亡くした未知子に)「外科医は目の前の患者一人しか救えない。それが外科医の限界です」

蜂須賀は内科さえよければいいという人物ではなく、内科と外科を統一した「メディカルソリューション本部」を作ったり、未知子に対して「未来の患者について話したい」と提案したりもします。しかし、未知子は手術とメシしか頭にない脳筋であるため、結局、両者が対話に至ることはありませんでした。

わたしたちは星を動かす

第7期 第10話

「外科医は目の前の患者一人しか救えない。それが外科医の限界です」という蜂須賀の言葉に、最終回(第10話)で未知子は返事を返します。
重度の膵臓がんにかかった上に、危険な新型ウイルスにまで感染した蜂須賀は、手術を拒否して、新型ウイルスの治療薬を完成させようとします。

蜂須賀「私の死によって新薬が完成すれば、何億、何十億もの人の命を救うことができる」
未知子「私は目の前の一人しか救えない。でもあんたを救えば、これからあんたが救う何億、何十億人を救うことができる」

これは、『ドクターX』と同様に、一匹狼の天才外科医を主人公とする『ブラック・ジャック』で言っていたことと同じですね。

手塚治虫『ブラック・ジャック』第15巻(1978)

スペシャル版でのたけしとの対話もそうでしたが、一人の外科医としては、こういう着地点にならざるをえないかなとは思います。
ただ、患者から見れば、内科・外科にこだわらず適切な治療を受けたいはずです。最終回は、蜂須賀の作った抗生薬を接種して新型ウイルスから身を守りつつ、外科医総出で蜂須賀を手術するという展開でした。一応、抗生薬を使うことで、「内科と外科の融合」ができていたと言えなくはないですが、テーマ的には、指をくわえて手術を見守るだけだった内科医たちにも出番があってもいいのではないかと思いました。

各シーズンの最終回をまとめると、以下のような感じですね。第1期は、未知子を非難する記事を書いたライターの八木(津田寛治)を手術するという展開でしたが、いつもどおり未知子がサクッと手術していました。

  • 身内を切る展開 神原(第3期)・城之内(第4期)・未知子(第5期)

  • 敵味方が一丸となる逆シャア展開 難病の少女(第2期)・丹下院長代理(第6期)・蜂須賀内科部長(第7期)

映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(1988)

余談ですが、手術中に周りからの茶々に対して、ブラック・ジャックが自信たっぷりに言い返すというシーンには、「私、失敗しないので。」の源流を感じることができました。

「え? なんだって?」

第7期 第7話

最終シーズンだからか、第7期では、恋愛シーンのない『ドクターX』には珍しく、未知子と蜂須賀の間でロマンスらしきものが描かれました。しかし、肝心のところで、未知子がラノベ主人公のような難聴ぶりを発揮し、二人は結ばれずに終わります。
ラストシーンは、「私は、これからも失敗せずに手術で人を救い続けるよ!」という『北斗の拳』のような終わり方でした。

第7期 第10話

3.麻雀シーンまとめ

第7期は、三人麻雀が多かったですね。麻雀シーン以外はほぼ出番がなく、完全にメンバーと化しているフリーランス医師・雀野(西沢仁太)のスケジュールが合わなかったのかな? ちなみに、『ドクターX』の三麻は、マンズはそのままで北の抜きドラもないので、3人でやる四人麻雀という感じですね。
また、第6期で味をしめたのか、牌の見間違いによるチョンボで視覚障害が判明するという話(第6話)がまたありました。

3密禁止(第1話)

第7期 第1話

第1話の麻雀シーンでは、今となってはなつかしいアクリル板が使われていました。もっとも、アクリル板が出てきたのは第1話だけで、第2話以降は普通に打っています。

コロナ禍で麻雀はどのような扱いだったかというと、2020年3月、雀荘は、一旦はクラスター発生源に指定されますが、その直後に「クラスター発生事例はない」ということで取り消されました。パンデミック初期で、行政側も混乱していたことがうかがえます。
また、このとき、全国麻雀業組合総連合会等のヒアリングを経て、「自民党 頭脳スポーツとしての健全で安全な麻雀を推進する議員連盟」が、コロナ禍で支援が必要な業種に雀荘を追加するということもありました。

 新型コロナが急拡大した2020年3月、厚生労働省は雀荘で感染事例が報告されていると発表。スポーツジムや屋形船などとともに、感染経路として名指しされた。密閉、密集、密接という「3密」の代名詞とされ、業界は「大被害」を被った。

カナロコ「コロナで客激減のマージャン 復活向けて横浜の店舗が奮闘」(2023/05/26)

厚生労働省は3/2にクラスターの事例として雀荘を挙げたが一週間後に削除。3/17厚生労働省作成「全国クラスターMAP」に麻雀店の記載なし。「誤報」を認めた形に。(※)
※2020/03/30東京都知事会見「麻雀店での発生事例はない(感染リスクの高い店舗業と比較する文脈にて)」

ニューロン「厚生労働省の麻雀に関する報道」(2020/04/30)

クラスター発生源の指定は免れても、客の減少や周囲への配慮で休業する雀荘は多く、以下のグラフ・表のとおり、雀荘の収益は激減しました。その一方で、休業店から流入した客でコロナバブルを迎えた店もあったとのことです。

 斎藤さんは高齢者に心身の健康を保ってもらいたいと「日本健康麻将(マージャン)協会」の会長も務め、マージャンの持つ「不健全」なイメージを払拭(ふっしょく)しようと健康マージャンの普及に尽力してきた。そのため経営する店舗の客は高齢者が中心で、感染した場合の重症化リスクから常連客も来店を控えるようになり、「一番ひどいときは7、8割減った」と話す。

カナロコ「コロナで客激減のマージャン 復活向けて横浜の店舗が奮闘」(2023/05/26)

なお、コロナによって激減したシニア層の麻雀人口は、現在もまだ回復していません。

アモス・セヴィアだった(第8話)

第7期 第8話

第8話は麻雀シーンはありませんでしたが、全自動麻雀卓のアップがあったので、使用している機種を確認できました。
以前、「『ドクターX』で使っている卓は、大洋技研のアモス・アルティマ」と書きましたが、間違っていて、正しくはアモス・セヴィア(AMOS SAVIOR)でした。

『ドクターX』の麻雀シーンには、2012年の第1期では手積み卓が使用されていましたが、2013年の第2期から全自動卓になりました。そして、大洋技研から出ている業務用のアモスシリーズの一覧が以下になります(省略した機種あり)。

大洋技研・業務用アモスシリーズ一覧

「レックスの前はアルティマ」という程度の知識しかなかったので、『ドクターX』で使っているのはアルティマだと思い込んでいましたが、アモスシリーズって、上の表には書かなかった家庭用とかいろいろあるんですね。

アモス・アルティマとアモス・セヴィア

『ドクターX』では、卓の宣伝も兼ねて、その時々の最新機種を使っているのかと思っていましたが、古い機種のアモス・セヴィアをずっと使ってるんですね。考えてみれば、『ドクターX』の麻雀シーンでは、スタッフが倍満やら役満やらの手牌を積み込んで撮影しているので、最新の機能とかは必要ないわけです。
ちなみに、上に貼った写真では、アルティマは円い一本足で、セヴィアは四角い一本足になっています。しかし、どちらの卓でも足は選べるようで、『ドクターX』では円足のセヴィアが使われていました。

純正九蓮宝燈のバーゲンセールや!(第9話)

第7期 第9話

第9話では、またしても純正九連宝燈のアガリが出ました。シリーズを通して、九連宝燈は4回目、純正九連宝燈にかぎっても3回目です。

第3期の第10話では、神原さんが純正九連宝燈をアガった直後に、こんな顔で死にかけました。

第3期 第10話

この展開を、「九連宝燈をアガった者は運を使い果たして死ぬ」という伝承をストーリーに組み込み、死亡フラグとしてうまく使っていると賞賛したのですが、これだけ出てくると第3期はたまたまだったんじゃないかと思えてきますね。ここぞというときだけ使ってほしかった……😮‍💨

最後の麻雀シーンがこれでいいのか?(第10話)

第7期 第10話

最終回の第10話では、「あれっ、最終回は麻雀シーンないのかな。別にいいか……」と思い始めたエンディングで、唐突に、生身の米倉涼子に雑な画像処理を施したアンドロイド「未知子ロイド」が登場し、麻雀シーンが始まりました。雀鬼シリーズでいうところの「未知子! 俺がおまえの代走をしてやる!」ですよ。

柳史一郎/神田たけ志『真説 ショーイチ』第1巻(1996)

この最終回が放送された2021年12月には、以下の表のとおり、SuphxとNAGAという2つの麻雀AIがオンライン麻雀ゲームの老舗「天鳳」で十段に到達していました。「天鳳? 何それ? 雀魂なら知ってるけど……」という人のために説明すると、天鳳十段は「人類の大半がかなわないレベル」と言っても過言ではありません。
つまり、この未知子ロイドは、「医療も麻雀もボヤボヤしてるとAIに先を越されちゃうよ」という番組からのメッセージだったわけです🙄

テンセント声明の翻訳記事の表に到達年月を追加

そして、この未知子ロイドは、本人とは違ってポンコツではありませんでした。神原から、見事、北待ちの役満・国士無双を討ち取ります。

ちなみに、これまで未知子は国士無双を2回アガっていますが、そのときのアガリ牌は、どちらも⑨筒でした。今回も⑨筒待ちでよかったのではと思いますが、どうなんでしょう。

第7期 第10話
第1期 第6話

あと、この第一打の⑧筒は、10年以上前に第1期第6話の第一打⑧筒に対してあれこれ書いたぼくへの、麻雀指導の七字幸久さんからのアンサーですね。読んでねーか。今回の国士は北待ちだから、⑧筒関係ないけど。

終わった……!
次はいよいよ映画だ!、となるところですが、映画公開前にドラマは全期レビューするはずが一月以上も遅れています😣 もうここまできたら、スピンオフドラマの『ドクターY』のレビューもやっちゃうよ!、と思ったら第7弾まであるじゃん😱 やりすぎだよ。
はあ、つれーよ、つれーよ。新年早々、血の涙を流しながら『ドクターY』のレビューに続きます😭😭😭

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