知らない女がわたしの胸ぐらを掴み、「あんた、前にあたしの彼氏を殴ったわよね、謝りなさいよ、謝りなさいよ」と責め立てる。「いえ、わたしはそんなことをしたことはありません」と言うのだが、否定しているうちに、なんだか男を殴ったような気がしてきて、わたしはたちまち警察に連れ去られる。
それは、コーヒーのささやき、お水のひだまり、火のおどり。
シンシアは鍋に水を張り、強火にかける。しばらくすると、鍋の底からぷつぷつ、ぷくぷく、ぼこぼこと泡が出てくる。その泡を食べようと、シンシアは鍋の上に口を近付けて待ち構えるのだが、泡は水面で消えてしまうのである。
風が強く吹いたとき、ほっぺがぺらりと剥げて落ちてしまった。すれ違いざまに知らないおばあちゃんが、「あらあら、おいしいものでも食べたのかしら」と笑う。そういうことじゃないんだけどなぁ、と思いながら、拾ってまた貼り付けた。
ブナの木にとまったニイニイゼミが、「ちょっと鳴いてみなよ」と言うので、ニイニイ、と鳴いてみる。すると、「おまえ、それは違うよ。我々はチ、チ、チ、と鳴くのさ」と言うので、チ、チ、チ、と真似する。なんだか愉快だった。しかし、近隣住民の通報を受けた警察が、わたしを牢獄へ連れていった。
かなしくてかなしくて不安な夜、くらい部屋でひとり、抱き枕を抱きしめていると、抱き枕の中からたくさんの蜘蛛が出てきて、わたしの身体を食む。わたしは痛みとかなしさで、ぽろぽろと涙を流しながら、そのままじっと夜を過ごした。明け方には、わたしはなくなった。