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街は今カルピスの中朝霧に

萩揺るる初老の恋のごとそっと

秋の蚊に吸わせてやるも徳のうち

秋の雲絵の具溶く間に様変はり

目が合ひぬ莢から覗く枝豆と

明日は雨ふくれっ面の柘榴かな

稲妻や闇に潜みし雲あらわ

青を待つ人のリュックに猫じゃらし

渋谷から月に追われて新都心

生きるとは何ぞ秋思の河川敷

古代よりこの指先へ赤蜻蛉

合唱に耳を澄ませば蜩も

墓参り我より若き父と会ふ

聴き分けてなどか嬉しき草雲雀

幸せに胡座かくまい終戦の日

新涼の風来て空の後ずさる

吹かれても光こぼさぬ秋桜

残暑にはカルメンマキとしゃがみこむ

柔らかく光を孕む芒の穂

手花火に寄せあふ顔の近きこと

朝顔のエールに応へ仕事場へ

葡萄食む仕草にのぞくお人柄

腹を見せ天に心を許す蝉

白蓮の蕾に宇宙宿りをり

朝顔の添木をつかむ愛らしさ

梨でなく敢へて幸水と呼びたし

展示見て無言で歩く原爆忌

鬼灯や夕陽と赤を競ひあふ

誰が植えしカンナは見るに堪えぬ赤

向日葵の今にも歩きだしそうな

ふわふわとアスファルト割る狗尾草

夏服の去年の白がアイボリー

一歩ごと何か飛び出す花野かな

白南風や隣町から青い空

夏布団天日にかけてふっくらと

五時の鐘おしろいの花また明日

好物の鰻を残す母細し

初デートする子に渡すハンカチーフ

久方の光と影や梅雨晴間

叢に蟹の迷子や出水後

空蝉や爪の力は抜けぬまま

梅雨寒もすぐに戀しくなるでせう

仏壇の鬼灯むく子甘き香

滴りや人知れず岩泣くやうに

初蝉や寝ぼけた声で眠・眠・眠

旅人の喜ぶ顔に笑む泉

逃げたかろ颱風前の林檎の木

うらやまし昼寝の意味がわからぬ子

君往ぬれどもトマト赤らむ今日も

青田にてふと現るる風の足