2022 Honorable Mentions-ベストEP+α
前回は2022年の個人的な年間ベストアルバムを50作品選びそちらについて書いたんですが、今回はそこには入り切らなかった、でも聴き逃すのはあまりにももったいない素晴らしい作品がたくさんありましたのでいくつか紹介したいなと思います。
自分は普段少しでも気になった作品はとりあえず片っ端から聴いてみるようにしてるんですが、中には最初は全然ピンと来ないものも結構あるんですよね。
今回ピックアップした作品も次第にその良さが分かってきたようなものも多く、年間ベストに入れる程は聴き込めていないけど気に入って何度も聴いてるものや、数年後にはめちゃくちゃ好きになってるかもというものを選んでみました。
加えて、アルバムとはまた違ったボリューム感やサウンドの方向性が楽しめる「EP」の中で特に良かったものについても書きました。
どちらもまだそれほど知られていないアップカミングなアーティストの作品が多めかもしれません。
これを機会に知った作品や聴いてみたいと思った作品があれば嬉しい限りです。
年間ベストアルバム記事と同様、ジャケットの下部分にその作品へのリンクを貼っておいたので、よかったらぜひチェックしてみてください。
また長くなりますが最後までお付き合いください。
BOYHOOD 「My Dread」
カナダ出身のSSW、Caylie Runcimanによるプロジェクト、BOYHOODの新作アルバム。
ベストアルバム記事の方でも触れたんですが、カナダという国は良質なSSWを毎年のように輩出する一大産地で、このBOYHOODもその内の1人。
彼女はデビューしてからもう10年以上のキャリアを持つベテランアーティストで、地元のカナダ・オンタリオや都市部のオタワなどを中心に活動していたんだそう。
今作は楽曲のほとんどが2017年〜2018年頃に作ったものだそうで、そこから長い時間をかけて熟成させ完成した味わい深いフォーク・ロックサウンドは、クセがありながらもキャッチー、エレガントでありながらもローファイな質感という一風変わった響き。
Joseph Shabasonが何曲かサックスで参加していて、楽曲に上品さと色気を加えているのも聴きどころですね。
Braxe + Falcon 「Step by Step - EP」
Daft Punkの前身的ユニット、Stardustのメンバーとしても知られるフレンチハウスの巨匠、Alan BraxeとDJ FalconによるデュオのデビューEP。
彼らは従兄弟同士で、Daft Punkの2人とも10年以上に渡りツアーに帯同したり共同で曲を制作する旧知の間柄という関係。
そんな2人がタッグを組んで完成させた今作は、モジュラーシンセを使って作られた彼らのアナログ機材に対する愛に溢れたサウンドになっていて、ループや反復で生じる心地良さを意識したんだそう。
70年代に活躍したソウルバンド、Creative Sourceの楽曲をサンプリングしたブギーファンクなタイトルそのままの「Creative Source」や、LAベースのシンガー、Sunni Colónをフィーチャーしたチルでメロウな「Elevation」などどれも絶品の仕上がり。
中でもPanda Bearをゲストに迎えたドリーミーなエレクトロバラード「Step by Step」は個人的に今年最もよく聴いた楽曲の一つで、夏の終わりを思わす切なさと煌めきが同居した本当に美しい楽曲です。
Bruno Berle 「No Reino Dos Afetos」
ブラジル出身のSSW、Bruno Berleのデビューアルバム。
こちらはたまたま入ったお店で流れていて知った、自分にとって今年最も印象的な掘り出し物の一つですね。
ローファイな質感のブラジリアン・フォーク〜ボサノヴァなサウンドがとにかく心地良くて、MPB特有のサウダージな質感や素朴なギターの音色が聴いててほっこりするんですよね。
特に予定の無い休日の午後に日に当たりながらゆったりダラダラ過ごしているみたいな感覚を味わえる感じ。
彼のサウンドメイクはブラジルのトラディショナルな響きを継承しながらも、しっかり現行のインディーポップとして聴けるバランス感の良さがあるんですよね。
12曲で30分弱というコンパクトなサイズ感も含めて、ちょっとした空き時間にサラッと聴いてリラックスする、みたいな聴き方でかなり重宝しました。
Burial 「ANTIDAWN EP」
ロンドンベースのプロデューサー、Burialの新作EP。
2007年リリースの名盤「Untrue」以来Burialは散発的にシングルを発表するスタイルへと切り替わっていましたが、それから久々となる長編の作品が今年の年明けすぐの時期に届けられました。
吐く息は白く曇り、冷え切った風に感覚を奪われる冬の都会の空気のような不気味で不穏、でもどこか心地良い不思議なテクスチャーのアンビエントサウンド。
幻想的なヴォイスサンプル、ざらついたノイズ、ライターの着火音や人の話し声などの生活音。
これらがシリアスで厳かな空気を彩るように、時に汚すように漂う異色の響き。
限りなく静寂に近い、聴く者に想像する余白を与えるかのような「無」の時間が流れる感じも非常に攻めてます。
実験的なサウンドではあるけど、聴き手の集中力を研ぎ澄ませる没入感がこの作品にはありますよね。
今年はその後今作の続編とも言える「STREETLANDS EP」もリリースしていて、そちらも合わせて聴くのがおすすめですね。
Carla dal Forno 「Come Around」
オーストラリア出身のSSW、Carla dal Fornoの通算3作目となる新作アルバム。
彼女はF Ingersというかなりダークでエクスペリメントなサウンドが魅力の3人組ユニットで活動していたり、自分の作品を全てKallista Recordsという自身が代表を務めるレーベルからリリースしていたり、中々面白い経歴を持った人。
マジで秋の季語にして良いレベルで毎回秋の空気に完璧にマッチする作品を届けてくれるんですよね。
ベースの低音を軸にしたシンプルでミニマルなフォーク・DIYポップサウンドはYoung Marble GiantsやVirginia Astley、Broadcastなどにも通じる味わい深い響き。
自分は秋になるとアコースティックで落ち着いた、どちらかと言うと地味なサウンドを聴きたくなるタイプなんだけど、彼女のアンニュイなトーンの声も含めてまさに秋に聴くためにあつらえたようなサウンドなんですよね。
今年度秋感No.1作品です。
Cate Le Bon 「Pompeii」
イギリスはウェールズ出身のアーティスト、Cate Le Bonの通算6作目となる新作アルバム。
ベルリン期のDavid Bowie、Roxy Music、80年代の日本のアンダーグラウンドポップ、Kate Bush。
様々な種類の奇妙な形の木々で生い茂った深い森に迷い込んだかのような、一度踏み入れると中々抜け出せない魅力を持ったアヴァン・ポップサウンド。
驚きなのはヴォーカルはもちろんのこと、ギターにベース、ピアノ、シンセ、パーカッションまでほとんどの楽器を彼女自身が演奏しているという事。Deerhunterのアルバムにプロデューサーとして参加してたり、シンガーとしてではなくミュージシャンとしての業界内評価も高い彼女ですが、ここまで才能溢れる人だったのかと本当に驚きましたね。
海外では「Mutant Pop」と称される事もある80年代の日本のアンダーグラウンドラップとのリンクを個人的にはかなり強く感じて、今作に引っかかった方はぜひLight in the Atticからリリースされているコンピレーションアルバムもチェックしてみて欲しいですね。
変で不思議で歪な響きが本当にクセになるアルバムです。
CTM 「Babygirl」
コペンハーゲンベースのアーティスト、Cæcilie Trierによるプロジェクト、CTMの新作アルバム。
チェロ奏者としての顔も持つ彼女が作り出すアンニュイな質感のエクスペリメンタル・ポップサウンドは、主にピアノ、チェロ、そして声のアンサンブルで構成されたミニマルな響き。
不気味にすら聴こえる彼女の温度低めのヴォーカルと、重厚で荘厳なチェロの音色との重なりは、終始どこか物悲しく仄暗い空気を漂わせています。
以前Quadronとして活動してた事でも知られるCoco O.やYdegirlといった同郷のデンマーク出身のアーティストがゲストで参加していて、CTMが
デンマークのアンダーグラウンドな音楽シーンを牽引してきた事が伺い知れますね。
最初聴いた時Tirzahの新しい曲かな?と思うくらい声の雰囲気やサウンドの質感が近くてビックリしました。
Tirzah好きはぜひチェックしてみてください。
Dale Cornish 「Traditional Music of South London」
サウスロンドンベースのプロデューサー、Dale Cornishの新作アルバム。
彼はかつて数多くの実験的音楽を世の中に発信していたベルギーのレーベル、Entr'acteの中核を担う存在として刺激的な作品を生み出してきた奇才で、今作はそんな彼の変態的とも言える一音一音へのこだわりがこれでもかと詰め込まれた一枚です。
テクノ、ハウス、レイヴを軸とした音数を絞ったサウンドのキレ味は凄まじく、変則的なリズムで刻まれるハイハットやクラップ、ドラムマシンの音の弾力というか迫力というか、鳴りの良さはちょっと普通じゃないですね。
相当ミックスにこだわったんだろうなというのが聴いてると伝わってきます。
あとこの人のサウンドが面白いのは、そんなキレッキレのエレクトロミュージックを作りつつ、途中で急にゆったりしたフォーキーでブルージーなテイストの楽曲が挟み込まれるところで、ローテンションな歌声がそこに乗っかるというなんとも不思議な構成なんですよね。
いつ聴いても驚きをくれる遊び心に溢れた一枚です。
Danger Mouth & Black Thought 「Cheat Codes」
プロデューサーのDanger MouthとThe Rootsとしても活動しているラッパー、Black Thoughtによるコラボアルバム。
政治色強めのメッセージ性溢れるコンシャスなラップが持ち味のBlack Thoughtと、Gnarls Barkleyとしての作品やMF Doomとのコラボなどヒップホップの枠を超えたアグレッシブなサウンドメイクが魅力のDanger Mouth。
長年音楽シーンの一線を渡り歩いてきた2組のコラボという事で聴く側も安心感があるというか、聴く前から間違いなく良いものが聴けるだろうとすら思える信頼感みたいなものが彼らにはありますね。
今作は古いソウルなどをサンプリングしそこに生の楽器の演奏を加え、よりドープでアナログな質感に仕上げたオールドスクールなサウンドになっていて、Danger Mouthが意識したのは聴き手が誰がその音を演奏しているのか分からない音にする事だったんだそう。
A$AP RockyやJoey Bada$$、Run the Jewels、Conway the Machine、Reakwon、MF Doomなどの新旧リリシストラッパーの他、Michael KiwanukaやKid Sisterがヴォーカルで参加している曲にはSAULTやLittle Simzの作品でもおなじみのInfloがソングライティングで関わっています。
ヒップホップの格好良さや真髄みたいなものがストレートに感じられる素晴らしい作品です。
Double Virgo 「Eros In the Bunker - EP」
サウスロンドンベースのJezmi TarikとSamuel Moth Fentonによるデュオ、Double Virgoの新作EP。
彼らはDean Bluntが運営しているレーベル、WORLD MUSIC所属の3人組バンド、bar italiaのメンバーとしても活動していて、Double Virgo名義としてもこれまでBandcampを中心に精力的に作品をリリースしています。
今作は全曲をVegynがプロデュースしているヤバい代物で、VegynのレーベルのPLZ Make It Ruinsからのリリースとなります。
どの楽曲も共同で暮らしている家のベッドルームで録音しているらしく、歪んだギターのざらついたサウンドが生々しく耳に残ります。
Vegynといえば年間ベストアルバム記事でも取り上げたGeorge Rileyやここ数年よくタッグを組んでいるFrank Oceanの楽曲を聴いても分かる通り、洗練されたエレクトロサウンドを操る魔術師のようなイメージだったんだけど、こんな退廃的でモノクロームな世界観のロックサウンドもやりこなしてしまうのは結構驚きでしたね。
自分は彼らのもう一つの顔、bar italiaにかなり注目していて、来年おそらく新作アルバムを発表すると思うのでそちらも楽しみにしたいと思います。
Duval Timothy 「Meeting with a Judas Tree」
サウスロンドンベースのアーティスト、Duval Timothyの新作アルバム。
2019年リリースのSolangeの傑作アルバム「When I Get Home」収録の「Dreams」で彼の楽曲がサンプリングされた事がきっかけとなり世界的にその存在を知られる事になり、今年Kendrick Lamarが新作アルバムで彼をプロデューサーとして起用したことでさらにその名が広まり、今最も注目されるミュージシャンの1人となったDuval Timothy。
昨年リリースのRosie Loweとのコラボアルバムでは人の「声」の響きや重なりをテーマにしていましたが、今作は一転して「自然」にインスパイアされた環境音楽にも近いアプローチの作風。
フィールドレコーディングで採取した鳥や虫、植物が発する音を使い自然環境に対する思いをリアルな形で表現しているんだそう。
ジャズが基礎にある彼の奏でるピアノは呼吸をしてるかのように有機的で繊細な響きで、人が最も聴き慣れている楽器であるピアノの音色も、彼の演奏だと一聴して彼のものだと分かる独特の響きを持っているのが印象的なんですよね。
彼がなぜ多くのアーティストに求められるのかが分かる美し過ぎる傑作です。
Ela Minus & DJ Python 「♡ - EP」
ニューヨークベースのアーティスト、Ela MinusとDJ PythonによるコラボEP。
コロンビア出身のEla Minusとエクアドルをルーツに持つDJ PythonことBrian Piñeyroの2組のコラボレーションは、南米出身者ならではのカリビアンなリズムを軸にしたディープハウス〜レゲトンなサウンドとクールなヴォーカルが抜群の相性でしたね。
ここ数年レゲトンをはじめとするカリビアンダンスミュージックが世界的にトレンドになってますが、DJ Pythonはそれらとは一線を画すアンビエントな質感のサウンドで自分もかなり注目していて、今年だけでもこのEPの他にEP「Club Sentimientos, Vol.2」やLuis名義のEP「057 (Scheyn)」、さらにはKelman DuranとFlorentinoとの3人ユニット、Sangre Nuevaとしても楽曲をリリースするなど非常に精力的に活動しています。
Kelman Duranが今年Beyoncéの新作アルバムに参画して大きく注目されましたが、DJ Pythonも今後大物アーティストにフックアップされる形でその才能に光が当たるような予感というか期待をしてますね。
今後間違いなく存在感を増していくプロデューサーの1人だと思うので、まだ聴いたことの無い方はぜひチェックしてもらいたいと思います。
Enumclaw 「Save The Baby」
タコマベースの4人組バンド、Enumclawのデビューアルバム。
彼らは去年EP「Jimbo Demo」でデビューしたんですが、デビューする何ヶ月前かまで楽器の演奏もろくにやった事がないようなヒップホップ好きの素人が、ロックへの憧れと根拠の無い無い自信だけを原動力に勢いで結成した何とも特殊なバンドです。
今作は音楽ブログとしてマニアックなファンを持つGorilla vs. Bearが主宰しているレーベル、Luminelle Recordingsからのリリースでそこもまた面白いんですよね。
シンプルで粗削りなサウンドや逆境をチャンスに変える図太さなど、彼らの憧れであるNirvanaやThe Smashing Pumpkins、Oasisなどの90sオルタナロック・グランジへのリスペクトを様々なところから感じます。
泥臭く愚直にロックを鳴らしてる感じがなんか好感を持てるというか。
今作でプロデューサーにGabe Waxを起用したのは同じく彼がプロデュースしたSoccer Mommyの作品を聴いたのが決め手になったんだそう。
プロとアマチュアの間にいるような親しみやすさも愛すべきポイントかなと思っていたら、アルバムではしっかりサウンドとして聴かせる部分もあったりして、色々な意味で今後も目が離せない異色のバンドです。
Finn 「Everything Is Alright」
マンチェスターベースのプロデューサー/DJ、Finnの新作アルバム。
近年静かに、でも確かに盛り上がりを見せてきているマンチェスターのミュージックシーン。
Space Afrika、Iceboy Violet、aya、Anzなど、一癖も二癖もある曲者達が続々と登場し、斬新で奇妙なダンスミュージックを生み出しているんだけど、Finnもその内の1人。
マンチェスターに昔から根付いているクラブカルチャーをベースに、ハウスやガラージ、レイヴなどの様々なタイプのUKダンスミュージックを巻き込みながら発展させていったような仕上がりの今作は、友人でありコラボレーターでもあるIndia Jordanのサウンドともリンクしてますよね。
ヴォーカルサンプルをチョップしてはラフに貼り付け強烈なビートに乗せてコラージュさせてしまうそのサウンドメイクの手法はホント独特です。
マンチェスターの音楽シーンについてはベストアルバム記事の方でも紹介した吸い雲さん、hiwattさんがそれぞれ違った視点で詳しく書かれている記事があるのでぜひそちらもチェックしてみて欲しいですね。(吸い雲さんの記事はこちらから。hiwattさんの記事はこちらから。)
マンチェスターという街の歴史や注目すべきアーティストなどについて非常に興味深く書かれている素晴らしい内容の記事でした。
FLO 「The Lead - EP」
ロンドンベースの3人組ガールズグループ、FLOのデビューEP。
先日のBRIT Awardsでも最優秀新人賞にあたるRising Star Awardsを受賞するなど、イギリスで今最も今後が期待されているアーティストと言える存在ですよね。
彼女達はTLCやDestiny’s Childといった90s〜00sの、いわゆるY2Kに流行したガールズグループのスタイルを踏襲したようなポップ/R&Bサウンドをリバイバル的に取り入れているのが特徴で、ビジュアルやヴォーカルスタイルも含めてかなり意識してるのが分かります。
Rodney JerkinsやDallas Austin、Jermaine Dupri、Jam and Lewis、Timbalandなど、当時のR&Bシーンは多くのプロデューサー達がそれぞれ個性的なサウンドを打ち出し次々とヒットを生み出していましたが、彼女達のサウンドはその良い部分のみを上手く抽出したような賢さとあざとさがある感じがして好きですね。
以前Beyoncéのアルバムにも参加してたMNEKがサウンド面のキーパーソンとして関わってるのも特筆すべきポイントです。
Hi-Tech 「HiTech」
デトロイトベースのMilf MellyとKing Miloによるデュオ、Hi-Techのデビューアルバム。
彼らはデトロイトハウスシーンでカルト的な人気を持つOmar-Sが主宰するレーベル、
FXHEに所属していて、今作はこのレーベルらしいハウス〜ガラージなサウンドをベースにしながら、ヒップホップやテクノ、ジャングル、フットワークなどの様々なジャンルを縦横無尽に行き交うミックスジャンルな響きが特徴。
スピード感のあるハイピッチなトラック一辺倒かと思いきや、メロウなヴォーカルモノが差し込まれクールダウンさせる感じがニクいんですよね。
彼らのラップも楽曲のテンポや曲調によって質感が変わるというか、ヴォーカルのピッチを加工したりPlayboi Cartiのようにチョップ気味にトラック上を駆け回ったり、トラックの一部として機能しているような印象。
レーベルオーナーのOmar-Sも今年「Can’t Change」というユニークなアルバムをリリースしてましたが、Hi-Techの今作もそれに負けず劣らず面白い作品でした。
Huerco S. 「Plonk」
カンザス州出身で現在はベルリンベースのプロデューサー、Huerco S.ことBrian Leedsのこの名義としては3作目となる新作アルバム。
彼はかつてOneohtrix Point NeverことDaniel Lopatinが主宰していたレーベル、Softwareからデビューしたプロデューサーで、知る人ぞ知るレフトフィールドなアンビエント作家として高い評価を受けていた人物です。
6年振りの新作はこれまでの作品に比べてかなりハウス・テクノ色が強くなった躍動感のあるビートが印象的で、変則的かつパーカッシヴにリズムを変化させながら展開していく感じがとても面白いなと思いましたね。
彼は今作の制作時にトラップやドリルミュージックにとても興味があったらしく、その趣向もサウンドに反映されてる感じですよね。
彼はWest Mineral LTD.というレーベルを主宰していて、そちらからリリースされる作品もとても個性的かつ現代的なサウンドでかなり面白いものが多く、個人的にも非常に注目してる存在です。
音楽シーンで一際異彩を放つ彼とその周りの動向は今後も追い続けたいと思います。
Jenevieve 「Rendezvous - EP」
マイアミ出身で現在はLAベースのSSW、Jenevieveの新作EP。
彼女は2020年にシティポップの名曲として有名な杏里の「Last Summer Whisper」をサンプリングしたシングル「Baby Powder」をリリースした事で一躍注目を集め、去年その曲も収録したデビューアルバム「Division」を発表しました。
SadeやZhané、Joeなどの洗練されたR&Bに大きな影響を受けたという彼女のサウンドもまたスッキリとクリアな質感のポップ/R&Bサウンドで、80s〜90sR&Bのクールなテイストを絶妙に忍ばせながらラジオフレンドリーなポップさも持ち合わせた非常に心地良い響きなんですよね。
中でもギロとカウベルのパーカッシヴな響きを効かせたディープハウス調の先行シングル「2NLuv」は秀逸な出来で、個人的にはこの路線の曲をもっと聴いてみたいなと思うくらいよく聴きました。
デビュー以来ずっとハイクオリティな楽曲を作ってるにも関わらず今ひとつ注目度が低い気がしますが、今後大化けする可能性を秘めた逸材だと思うので今後の覚醒に期待です。
John Keek 「Do You Love John Keek?」
LAベースのアーティスト、John KeekのデビューEP。
彼はサックスプレイヤーとしても活動していて、King Kruleのライブにもサポートで参加していたり、年間ベストアルバム記事の方でも紹介したGeorge Rileyの新作アルバムではストリングスのアレンジを手がけていたり、かなりマルチにその才能を発揮している若き天才ミュージシャンです。
今作は先程取り上げたDouble Virgoと同様Vegynのレーベル、PLZ Make It Ruinsからのリリースで、プロデューサーとしてVegynも何曲かで参加しています。
Vegynの他にLouis Coleがギターで、Sam Wilkesもベースで何曲か参加してますね。
80s〜90sのソウル/R&Bを由来としたオーセンティックなポップミュージックとしても充分素晴らしい完成度なんだけど、洗練されたアレンジと彼のブルージーな声によって絶妙にモダナイズされてよりエモーショナルに響いてくる感じがたまらなく好きです。
June McDoom 「June McDoom - EP」
ニューヨークベースのSSW、June McDoomのデビューEP。
ジャマイカ人の家系に生まれ、周りには常にレゲエが流れている環境で育ったという彼女。
その後Judee Sillなどの70sフォークやDionne Warwickなどのソウルミュージックに傾倒し、さらに移り住んだニューヨークではジャズを学ぶなど様々な音楽に触れその素養と感性を磨いてきたんだそう。
デビュー作となる今作はそんな彼女の嗜好やセンスが見事に活かされていて、ヴィンテージな質感のドリーミーなフォークサウンドが作り出す幽玄な世界は心が洗われるような美しさ…。
優しくまろやかで、どこかもやがかかったようなスモーキーな質感のヴォーカルも非常に魅力的ですね。
今作には未収録なんですが、ほのかにレゲエの香りが漂うデビューシングルの「The City」も素晴らしい楽曲なので気になった方はぜひそちらもチェックしてみて欲しいです。
遠い過去から発掘された知る人ぞ知る幻の名盤のようなクラシカルなオーラを漂わせる今年屈指の隠れた名作です。
Klein Zage 「Feed the Dog」
シアトル出身で現在ニューヨークベースのアーティスト、Sage Redmanによるプロジェクト、Klein Zageのデビューアルバム。
自身が運営するレーベル、Orphanからハウスやテクノをベースにしたダンストラックを制作していた彼女の。
デビューEPには先程紹介したDJ Pythonも参加するなど、ニューヨーク・ブルックリン界隈の先鋭的なダンスシーンとも共鳴する存在として注目されていましたが、突如ロンドンの人気レーベル、Rhythm Section Internationalと契約し今作をリリースしました。
これまでのダンスミュージック寄りの作風から、トリップホップやシューゲイザー的な90sっぽいフレイバーが忍ばされた奇妙なオルタナティブポップへと路線を変化させているのが面白かったですね。
今年同じくRhythm SectionからリリースされたTONEの新作アルバムも素晴らしい完成度だったけど、彼も所属するCURL周辺のTirzahやMica Leviあたりが好きな方はKlein Zageの今作もきっと気にいるんじゃないかなと思います。
Makaya McCraven 「In These Times」
シカゴベースのドラマー/プロデューサー、Makaya McCravenの新作アルバム。
数年前にGil Scott-Heronの遺作「I’m New Here」を再構築・再録したアルバムをリリースし注目を集めたジャズドラマーでありコンポーザーのMakaya McCraven。
7年振りのオリジナル作品となる今作は、Jeff Parkerをはじめとする一流のジャズミュージシャンを総勢15名以上招いて重ねたセッション音源を、膨大な時間をかけてポストプロダクションを行い完成させた渾身の一枚。
オーケストラアンサンブルの豊かな響きと、彼の根幹にあるブラックミュージック由来のビート感覚が活かされたグルーヴが混じり合ったサウンドは、躍動感がありながらもゆったりとした優雅さもあるというか、異なるテンポが上手く交差した立体感のあるサウンドなのが印象的。
今年リリースのジャズ作品の中でも屈指の高い評価を誇る今作。
自分もその評判を確かめるように聴いてみたら見事に心を奪われましたね。
普段あまりジャズを聴かない人にもぜひ聴いてみてほしい一枚です。
Malibu 「Palaces of Pity - EP」
フランス出身のプロデューサー、Barbara Bracciniによるプロジェクト、Malibuの新作EP。
2019年にEP「One Life」でデビューした彼女は、ジャズピアニストだった父親の影響で音楽を始め、父親から貰ったシンセサイザーで本格的に音楽にのめり込むようになっていったんだそう。
OrbitalやBurialを思わせる深淵の世界で鳴り響くアンビエントサウンドは、チェロをメインにしたストリングスの幻想的な音色がキーとなった厳かな空気感漂う響き。
彼女のサウンドのインスピレーション源は海なんだそうで、海洋学者としての顔も持つ父親の影響で海の壮大さや包容力、神秘性に惹かれるようになったんだそうです。
ビートを一切排除した音の波が静かに打ち寄せる水際を、リバーブのかかったヴォーカルが浮遊する様はただただ美しいの一言。
サンプリングを軸にサウンドメイクをしている変名プロジェクト、dj lostboiとしての活動も面白いので要注目です。
Mejiwahn 「Beanna」
オークランドベースのプロデューサー、Mejiwahnの新作アルバム。
彼はLiv.eの作品の多くを手がけていて、彼女のサウンドにも通じるジャズ・ソウル・ボサノヴァ・ヒップホップをごちゃごちゃに煮溶かしたようなアブストラクトな質感の響きは今作でも健在でしたね。
程良くトロピカルでゆったりとしたグルーヴはまるで避暑地にいるかのような心地良さ…。
今作に参加してるLiv.eやZeroh、lojii、Chris Keysや、その周辺のPink SiifuやOvrkast.、Fly Anakin辺りのコミュニティは、互いに刺激し合って面白いサウンドを生み出し続けててずっと注目してるんだけど、中でも今作のマスタリングを手がけているZerohは今年だけでもTriathalonやiblss、Eyedressなど数多くの作品にエンジニアとして携わっていて、今後も彼の名前がクレジットにある作品はぜひチェックして欲しい存在ですね。
彼らの作品を聴いてると、数年前SolangeやEarl Sweatshirtが撒いた種が多方面に広がり着々と花を咲かせてるような感覚になるというか。
ヤバい作品がまた違ったヤバい作品を生み出すサイクル。
今後さらにどのように展開していくのか楽しみです。
NewJeans 「NewJeans 1st EP ‘New Jeans’」
韓国の5人組ガールズグループ、NewJeansのデビューEP。
BTSの躍進もあり今やK-POPは一大産業として世界的に認められてきてるなと感じますが、今年そのBTS所属のHYBEからデビューしたのがこのNewJeansです。
彼女達はかつて少女時代やEXOなど数多くのグループを手がけてきたミン・ヒジンのプロデュースにより今作EPでデビューを果たしました。
90s・00sのポップ/R&Bを由来としたスタイリッシュなコンセプトのサウンドが非常にクールで、普段あまりK-POPには親しんでいない自分にとってもどこか懐かしさを感じる心地良さがあってハマりましたね。
サウンド面で大きな役割を担っているのが自身もアーティストとして活動しているプロデューサーの250で、彼の抜群のセンスが活かされた最新鋭のポップミュージックと昨今トレンドのY2K的なテイストがハイレベルで融合した見事な完成度の作品ですよね。
彼女達と同じHYBE所属のLE SSERAFIMも最新曲「ANTIFRAGILE」でレゲトンのリズムを取り入れてたり、先日発表されたNewJeansの新曲「Ditto」ではボルチモアクラブ調のブレイクビーツを取り入れたサウンドに挑戦してたり、世界的な音楽のトレンドにかなり敏感である事が分かりますよね。
K-POPの新たな価値観を彼女達がどんどん生み出していって欲しいです。
Nia Archives 「Forbidden Feelingz - EP」
ロンドンベースのアーティスト、Nia Archivesの新作EP。
先程NewJeansの新曲の話題でも触れましたが、90年代に一大ムーヴメントとなったジャングル
やドラムンベースと呼ばれるダンスミュージックがここ数年で盛り上がりを見せていて、多くのミュージシャンがサウンドに取り入れ始め再びブームとなっています。
その立役者の1人と言えるのがPinkPantheressとNia Archivesですよね。
PinkPantheressがどちらかというとポップなベクトルでジャングルを発展させている一方で、Nia Archivesはダンスホール・レゲエやブラジル音楽などのトライバルなサウンドと絡めたかなり攻撃的な方向でその可能性を広げている感じですね。
今作EPもUKガラージのトレンドセッター的な文脈で語れる部分もありながら、彼女の持っているコアなダンスミュージックに対する知識がアグレッシブな形で昇華したような仕上がりで、他とは一線を画している印象。
このEP以降にリリースされた新曲ももれなくヤバいサウンドで、来年フルアルバムのリリースが最も待ち遠しいアーティストの1人ですね。
Non Plus Temps 「Desire Choir」
オークランドベースのAndy HumanとSam Lefebvreによるデュオ、Non Plus Tempsのデビューアルバム。
彼らに関してはまだほとんど情報が無いんですが、たまたま知って聴いてみたらとてもカッコよかったので紹介したいと思います。
Adrian Sherwood率いるOn-U Soundのダブ・ポストパンクに大きな影響を受けて制作されたんだそうで、SAULTにも通じるドス黒いグルーヴのうねりが非常にカッコよかったですね。
地を這うようなベースの重低音と迫力あるドラムのリズム隊の存在感がとにかく凄くて、そこにホーンセクションやギターが加わりサイケデリックな音の渦を作り出していく感じがめちゃくちゃドープ。
そこに時折レゲエ・ダブ由来のゆったりとしたリズムが抜け感を作る感じも絶妙なんですよね。
彼らの影響源でもあるAdriane Sherwoodは今年レゲエ界のレジェンド、Horace Andyの新作を手がけててそちらもかなり秀逸な出来でしたが、今作もまた違う流れで彼らの意志を受け継いだような作品で素晴らしかったです。
Overmono 「Cash Romantic - EP」
イギリス出身のEd RussellとTom Russellの兄弟2人によるユニット、Overmonoの新作EP。
彼らはそれぞれTessela、Trussという個人の名義でも活動していて、お互いUKのアンダーグラウンドなシーンで5年以上に渡り腕を磨いた後に新たなタームに進むためにOvermonoとしてユニット活動するようになったんだそう。
ドラムンベース、テクノ、UKガラージがぶつかり合ったような、実験的でありながらダンスミュージックの真骨頂をど真ん中で捉えた痛快さもある、UKダンスシーンの良さがこれでもかと詰め込まれたサウンド。
90sのガラージ〜レイヴの荒々しい質感をモダンテクノ的な解釈と手法でアップデートしたような、ベースミュージックの奥深さと気持ち良さを完全に理解してる、細かい部分まで「分かってるなぁー」というサウンドなんですよね。
レーベルメイトのJoy Orbisonとのコラボ楽曲も含めて、発表する曲がことごとくアンセム級の素晴らしさ!
今1番信頼出来るアーティストの1組です。
Panda Bear & Sonic Boom 「Reset」
Panda BearとSonic Boomのコラボアルバム。
Animal Collective、Spacemen 3としてそれぞれが違う形でThe Beach Boysをはじめとする60sロック・ポップへの愛を表現してきた彼らがタッグを組んだ今作。
Panda BearのアルバムにSonic Boomが参加したり、どちらもポルトガルのリスボンに移住したり、以前から非常に親密な関係を築いていた2組のコラボレーションということでその相性の良さは聴いててすぐに伝わってきましたね。
Sonic Boomが所有していたThe Everly BrothersやThe Drifters、Randy & the Rainbows、The Troggsなどの50s〜60sのドゥーワップ・ロックのクラシカルなコレクションが今作のベースとなっていて、実際にその音源をサンプリングして取り入れた当時のオールドスクールな質感と、彼らのユニークな解釈が混ざり合った非常に複雑で不思議なサウンドになってます。
甘美なノスタルジアとサイケデリックな音像がここではないどこかへ連れて行ってくれるような感覚。
いつの時代の作品を聴いてるのか分からなくなってくるような面白さを味わえる感じがとても好きです。
redveil 「learn 2 swim」
メリーランド州出身のラッパー、redveilの通算3作目となる新作アルバム。
今作は彼の18歳の誕生日である4/20にリリースされていて、つまりアルバム制作中は17歳だったというんだから驚きですよね。
さらには全編彼自身によるセルフプロデュース!
Earl Sweatshirtの影響を強く感じるメロウでソウルフルなサウンドの完成度に驚いていたら、17歳の青年が作ったと知ってさらに驚愕しましたね。
Tyler, the Creatorが以前お気に入りとして彼の作品を挙げていて、redveil自身も影響を受けたラッパーとしてKendrick LamarやJ. Cole、そしてTylerの事を挙げていました。
彼が少年から大人へと成長していく過程で悩み、もがき、様々な事を知っていく様子がリアルな言葉によって描かれていて、今の世代のアメリカ人の10代がどんな事を考えてるかとかって実はよく分からなかったので、それを感じれる作品としてもとても面白いなと思いましたね。
数年後にはよりビッグな存在になっている予感大です。
SAULT 「5 Albums」
UKのミステリアスな音楽集団、SAULT。
2019年に突如登場し、瞬く間に傑作を連発しシーンに衝撃を与え続けていますが、2022年もその驚異的な創作ペースは衰えることを知らず、なんと5作のアルバムを同時に発表するという前代未聞のスタイルでまたもや我々リスナーを驚かせてくれました。
「11」、「Untitled (God)」はこれまでの彼らの作品シリーズの続編とも言える内容で、加えて「Earth」、「Today & Tomorrow」といった民族音楽やパンク・ロック色の強い新基軸、さらには先立って4月にリリースしていたストリングス主体の「Air」の続編「Aiir」というサウンドやメッセージもそれぞれ違う作品が突然同時に公開されました。
Little Simzも先日急遽新作アルバムをリリースしましたが、プロデューサーのInfloの頭の中は一体どうなってるんでしょうね?
これだけのクオリティの作品を作り出すのに必要な時間とそのリリースペースが明らかに合ってないですよね。
本当に天才としか言いようがありません。
個人的には今回の作品でも何曲かに参加していたレゲエアーティスト、Chronixxに注目していて、彼の最新曲「Never Give Up」もInfloが手がけていたこともあり、新しいアルバムもInfloがプロデューサーを務めるかも?と非常に期待しています。
Special Interest 「Endure」
ニューオーリンズベースの4人組バンド、Special Interestの通算3作目となる新作アルバム。
彼らは男女4人構成で人種もバラバラ、さらには性的指向も異なる多様なメンバーが集まった異色のバンドで、そのサウンドもグラムロック、パンク、ディスコ、ハウス、ポップなどをミックスした非常に激しく突飛な響き。
LCD SoundsystemやThe Raptureなどの登場で00年代に盛り上がりを見せたダンスパンクムーヴメント〜ポストパンク・リバイバルを思い起こさせるサウンドでありながら、彼らの楽曲には格差社会や性差別、人種差別など世界で未だに解決されない根深い問題への怒りや嘆きがもの凄い熱量で込められていて、それが辛辣な言葉と攻撃的なヴォーカルで放出される様はただただ圧巻!
メッセージ性は強くてもシリアスになり過ぎず、ダンスミュージックとして、踊れるロックとして非常に質が高いのも今作が優れているポイントですよね。
パワフルで大迫力のライブパフォーマンスもとても評判が良いみたいなんで、これから色んな音楽イベントやフェスで彼らの名前を目にしそうです。
TOPS 「Empty Seats - EP」
カナダはモントリオールベースのバンド、TOPSの新作EP。
ベストアルバムの方でも紹介したMarciのアルバム同様、今作EPも何気ない日常に彩りと潤いを与えてくれる素晴らしい内容で非常によく聴きましたね。
爽やかで穏やかな風が吹き込む新緑の季節に映えるような、グルーヴィーなソウルの香りがほんのりと漂うレトロな質感のソフトロック〜ギターポップサウンドは相変わらず極上の心地良さ…。
リードシンガーのJane Pennyの優しく包容力があり、なおかつ可愛げもあるこの声の魅力は本当に唯一無二ですよね。
余談ですがBlood OrangeことDev Hynesが今作EPを移動中に何度も聴いてたらしく、インスタのストーリーに何度も投稿してたのが個人的に嬉しかったです。
毎作品大きく変わる事なく安心とくつろぎのひと時を届けてくれる自分にとって特別なバンドです。
Two Shell 「Icons - EP」
ロンドンベースのデュオ、Two Shellの新作EP。
彼らは自分達に関する情報をかなり意図的に開示しておらず、詳細な情報はほとんどゼロに近いミステリアスなプロジェクトです。
純粋に音楽のみを聴いてもらいたいという思いから様々な情報をシャットダウンしているらしく、ライブに出演する際は奇妙な覆面を身に付けサイバーパンクな出立ちで登場し、それが彼ら本人ではなく影武者だという説もあるみたいです。
今年の頭にリリースされた「home」で強烈なインパクトを与えた後に発表された今作EPは、UKのアンダーグラウンドなテクノ〜ブレイクビーツの流れを捉えつつハイパーポップとも接近した非常にアグレッシブな内容で、端々からSOPHIEの影響を強く感じますね。
ヴォーカルの加工具合とかサウンドの配置とかやってることはかなりめちゃくちゃなんだけど、そのとっ散らかりっぷりも含めて彼らオリジナルのサウンドって感じで面白いです。
音楽シーンの常識とか固定概念とかぶっ壊しながら、これからもシーンの異物としてかき乱していって欲しい存在です。
Whatever The Weather 「Whatever the Weather」
ロンドンベースのアーティスト、Loraine Jamesの変名プロジェクト、Whatever The Weatherのデビューアルバム。
楽曲のタイトルからも分かる通り、気温や気候をテーマにしたアンビエントプロジェクトで、その温度に合わせてサウンドの質感を変えるなど非常に繊細なタッチのサウンドなのが印象的。
昨年リリースの「Reflection」は作品としてかなりブラックミュージックからの影響を強く感じるものだったけど、今回のWhatever The Weatherとしての作品はTelefon Tel Avivが関与してる事もあってかなり静謐な響きで、明確に違うコンセプトで制作しているのが分かりますよね。
Loraine James名義で聴かせるアグレッシブなクラブミュージック/IDMなサウンドは鳴りを潜め、じっくりと耳を傾けたくなるミニマルでクールなトーンの響き。
不遇の音楽家、Julius Eastmanにオマージュを捧げたLoraine James名義での新作アルバムもコンセプチュアルで聴き応えのある作品でしたが、今後2つの名義を継続して使い分けていくのかも気になるところですよね。
自分としてはWhatever The Weatherの今作がとても好きなサウンドだったので、このプロジェクトもぜひ続けてもらいたいなと思います。
Wilma Vritra 「Grotto」
Nilüfer YanyaやSudan Archivesなどを手がけるプロデューサーとしても活動しているWilma Archerと、Odd Futureの創設メンバーの1人としても知られるラッパー、Vritraとのコラボユニット、Wilma Vritraの2作目となる新作アルバム。
細野晴臣プロデュースのWORLD STANDARDの1985年リリースのアルバム「音楽列車」が今作のインスピレーション元になっているそうで、その世界観とも通じるボーダレスでアンビエントなサウンドがなんとも不思議で未体験な響き。
ストリングスや木管楽器による優雅なオーケストラや、民族楽器を使った異国情緒溢れるサウンドなど、普段あまりラップとは交わる事が無さそうな響きが使われているのもポイントですよね。
ちなみにWilma Archerは影響源にArthur RussellやRobert Wyatt、清水靖晃などを挙げていて、今作を聴いていると確かに彼らからのエッセンスを所々感じますね。
ヒップホップを普段あまり聴かないタイプの人にも何か引っかかるものがあるかも知れない異色作です。
というわけでいかがだったでしょうか?
冒頭でも書いたように知名度やアーティスト自体の人気もまだそれ程高くない作品を多く選んだので、読んでくださった人の中にも初めて知った作品が結構あったんじゃないかなと思います。
知名度や人気に関係なく面白い音楽を作っているアーティストは世界中にたくさんいるので、今回の記事で少しでもそのアーティストや作品にスポットがあたったら嬉しいですね。
彼らの多くがBandcampという音楽配信・販売サービスを使っていて、作品を購入しアーティストに直接お金を落としその活動を支援する事も出来るので、お気に入りを見つけた際は「よかったよ!」という気持ちも含めてサポートしてあげてもらいたいなと思います。
それが音楽シーン全体を活性化させることにも繋がりますからね。
2022年もたくさんの素晴らしい音楽に出会えました。
2023年もこちらのnoteやTwitterなどで変わらず情報を発信出来たらなと思ってます。
引き続きよろしくお願いします!
最後まで読んでくださってありがとうございました!
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