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アサヒのスーパードライはパリの味

私にとってアサヒスーパードライは、パリのヒグマ思い出の味だ。
パリのヒグマとは、パリの日本料理店のなかでも限りなく日本に近い雰囲気をした店である。
店の中に入ればサイン色紙が店の壁いっぱいに貼られていて、木彫りのクマが置いてある。店のおやじも日本語がしゃべれる。フランス語疲れしていた私はここぞとばかりに日本語で注文した。この店ではのびのび日本語で話すぞ、と束の間の母語空間を謳歌した。
フランスのクリニックで疲弊したとき、ホームシックなときは、かならずヒグマで瓶ビールと餃子を注文したものだ。
フランス哲学、レヴィナスなんかで有名な内田樹氏もヒグマで飯を食っていたとどこかで見た気がする。
ヒグマは量も多く、値段もリーズナブルでラーメン、餃子、瓶ビールのトリオなんて頼んだ日には、そりゃぁもう天国だった。
食後にほろ酔い気分でパリの街をぶらつき、古本屋に寄っては哲学書や精神医学の本をたくさん買った。行き道に軽かったリュックが帰りにはパンパンに本が詰まっている。私のパリの暮らしはそんな感じだった。
できればパリジェンヌと小粋にカフェでランデヴーと行きたかったが、そういう類のことはあったと言えば嘘になる。

パリ滞在中はたいていパリ北駅から少し歩いたところに住んでいるFrankの家に泊まっていたので、彼の家からパサージュを通ってルーブル美術館の脇を抜け、カルチェラタンの古本屋街というのが私のお決まりのコースだった。
その途中に位置するヒグマはちょうどよかった。それにブックオフパリ店も近くにある。
私が帰国する9月より前には引っ越すと言っていたFrankだったが、結局色々あって山積みのダンボールと一緒に2025年を迎えたらしい。そのあとパリ北駅のさらに近くに引っ越したそうだが、新しい彼のオフィスはどうだろうか、と私は日本から思いを馳せている。
パリでアサヒスーパードライを飲んで日本に思いを馳せていた私だが、日本で飲むアサヒスーパードライは今、私にFrankのアパルトマンからヒグマまでの道のりの日々を思い出させる。日本に帰ってくると本当に遠いパリ。これもまたホームシックというやつか。

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