見出し画像

育休中に組織改編、配転や役職変更は不利益か|アメリカン・エキスプレス・インターナショナル事件|労働新聞

育休中に組織を改編し、復職した労働者の部署や役職を変更したことが、不利益取扱いに当たるか争われた。一審は、基本給は減少しないなどとして法違反を否定した。東京高裁は、37人いた部下を1人もつけず電話営業に従事させたことは、妊娠前と比べて業務の質が著しく低下し、キャリア形成に配慮せずこれを損なったと判断。復職後の業務の話合いも不十分とした。

https://www.rodo.co.jp/precedent/168259/

記事によると、

  • 平成20年に契約社員として雇用され、平成22年から正社員、平成26年1月以降はセールスチームのリーダーになって個人営業部の部長として37人の部下を持っていた。

  • 平成27年7月に第二子を出産し、同月から育休等を取得した。

  • 会社は平成28年1月に、組織変更により、4チームあったセールスチームを3チームに集約するとともに、アカウントセールス部門を新設し、リーダーだったチームは消滅した。

という経緯の中、

  • 平成28年8月に育休等から復帰、新設のアカウントセールス部門のマネージャーに配置。部下は配置されず、業務の中心は電話営業だった。

などの措置が男女雇用機会均等法9条3項、育児介護休業法10条などに違反するというものです。

事案の概要を見たとき、育休中に所属部署が消滅しているので同一部署に復職しようがないし、その中で復職後にもマネージャー職に就いたのですから、こんな状況でも違反を問えるの?というのが正直な感想でした。
根拠条文を紐解いてみます。

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)

第九条 (略)
 (略)
 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
 (略)

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=347AC0000000113

育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
(不利益取扱いの禁止)

第十条 事業主は、労働者が育児休業申出等(育児休業申出及び出生時育児休業申出をいう。以下同じ。)をし、若しくは育児休業をしたこと又は第九条の五第二項の規定による申出若しくは同条第四項の同意をしなかったことその他の同条第二項から第五項までの規定に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=403AC0000000076_20230401_503AC0000000063

今回の措置が、規定中の「理由として」に該当するかどうかが問題となりますが、かなり広く考えられていることをこの判例を通して知りました。
以下、厚生労働省作成リーフレットからの抜粋です。

男女雇用機会均等法及び育児 ・ 介護休業法の不利益取扱いの判断の要件となっている「理由として」とは、妊娠・出産・育児休業等の事由と不利益取扱いとの間に「因果関係」があることを指します。
妊娠・出産・育児休業等の事由を「契機として」(※)不利益取扱いを行った場合は、原則として「理由として」いる(事由と不利益取扱いとの間に因果関係がある)と解され、法違反となります。
※原則として、妊娠・出産・育児休業等の事由の終了から1年以内に不利益取扱いがなされた場合は「契機として」いると判断します。
 ただし、事由の終了から1年を超えている場合であっても、実施時期が事前に決まっている、又は、ある程度定期的になされる措置 (人事異動、人事考課、雇止めなど)については、事由の終了後の最初の当該措置の実施までの間に不利益取扱いがなされた場合は「契機として」いると判断します。

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000137181.pdf

リーフレット中の「原則として、妊娠・出産・育児休業等の事由の終了から1年以内に不利益取扱いがなされた場合は「契機として」いると判断します。」というところですね。

さらに判決を読むと、事業者には労働者のキャリア形成への配慮が求められるという考え方が示されています。

単純に
「育休中に所属部署が消滅してるでしょ?同一部署に復職しようがないし、マネージャー職用意しといたからええやん?」
では済まされないということですね。

まとめ
所属部署が消滅した場合、同程度の職制を用意するだけではなく、労働者のキャリア形成への配慮もした対応が必要。
けど、企業規模などによっては難しいこともありそう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?