みんなで考える未来の東鳴子温泉【開催報告】
2021年9月。見事な秋晴れの空のもと、収穫を間近にひかえた稲穂の垂れた頭が風にそよぐ中、宮城県の湯治場・鳴子温泉郷で「湯治ウィーク」が行われました。手作りのイベントが目白押しの1週間。
私も何かしたい!と思い、オンラインのワークショップ「みんなで考える未来の東鳴子温泉」を行いました。全国各地の東鳴子温泉ファンの方と、地元の方とが一緒になって、東鳴子温泉の「好きなところ」を集めて共有し、未来に伝えたいものを考える・・・という筋書きです。
おかげさまで10名ほどの方にお越しいただき、中には海外からも参加してくださいました。大学生、会社員、温泉関係のお仕事をされている方など、集まった方はほんとうに様々。東鳴子温泉には数えきれないほど通っていますが、これだけ様々なファンがいることに気づき、オンラインでお会いできたことをうれしく思いました。
僕を東鳴子温泉に誘ってくれた旅館大沼さんの新しいラウンジ「ささらぎ」で現地参加組も集まり、東鳴子温泉と全国、いや全世界? をつなぎ、会が始まりました。
1.東鳴子温泉を漢字1文字で表すと?
早速、参加者の方々に「東鳴子温泉を漢字1文字で表すと?」と聞いてみました。同じ漢字が出なかったばかりか、数々の温泉通がうなるお湯の良さに関係する漢字(湯、泉など)は出ませんでした。
いくつかご紹介します(編集の都合で、回答を編集しております)。
・安らぎの「安」
・ふるさとの「里」
・体が「甦」る
温泉につかって心身を整える、湯治場の本質を表す漢字が出てきました。「よみがえる」は身体の不調がとれて心のスッキリしたような、まさに湯治の効果を体現したような言葉です。「蘇る」と「甦る」の2つの漢字が出てきたのはとても興味深いですね。
それらの漢字をつなぎ合わせていくと、なんとなく東鳴子温泉の特徴や好きな理由が浮かび上がってきました。
2.未来の東鳴子温泉を想像しよう
続いて、未来の社会についての話題提供をしてから、未来の東鳴子温泉を訪れる人についてあれこれと想像をふくらませてみました。
いただいた意見の一部を紹介します(ここに載せきれないたくさんの意見をいただきました。ありがとうございます)。
◆地元の方
・地元の方が温泉地を楽しめる工夫が必要。地元の人が365日温泉を楽しんでいれば、長期滞在したくなる人も増えるのではないか。
◆湯治客
・3~4日滞在の「現代湯治」で訪問する方が増えるのではないか。
・年齢を問わず、一人旅が増えていると思う。
◆交流の場として
・地元の人が楽しんでいれば、旅行者との出会いにもつながる。
・東鳴子温泉で地元の方とお話しした経験が、温泉好きにつながったと思う。
・街の中に誘ってくれる人がいると、地域とのつながりが生まれやすい
これらの意見をまとめると、だいたい以下のような未来のあり姿が見えてくるのではないかと思います。
❶地元の方が湯治場を楽しんでいる
❷それを見た湯治客や観光客が、滞在をより楽しむ
❸湯治客と地域とのつながりが生まれる
「住んでよし、訪れてよし」という観光地域づくりの鉄則が、湯治場づくりにも当てはまるようです。
さらに、東鳴子温泉で長年湯治宿を営みながら湯治場づくりを手がけてきた大沼さんから、素敵なキーワードを教えてもらいました。
「湯治場は、人が集まる ‟磁場” なんですよ。」
別府の鉄輪温泉で、シェアハウス「湯治ぐらし」などの事業を数多く手がける菅野さんからも、「湯治場を【湯”磁場”】に」をモットーに活動されているそうです。
さらに菅野さんから、地元の人と湯治客をつないでくれる街の「編集者」が必要だと教えてもらいました。「湯治ぐらし」では、シェアハウスの住民が地域に溶け込み、新しいプロジェクトも続々生まれています。
まだまだ話題は尽きませんが、まずは「地元の方」をターゲットに、地元の方が楽しめる(そして、湯治客も楽しめる)おすすめスポットを集めた地図を作ることにしました。
3.未来の東鳴子温泉を描こう
「お気に入りの東鳴子温泉」をテーマに、写真をシェアしていただきました。集まった写真を眺めてみると、お風呂から眺める景色から、ごろりと寝転ぶ猫ちゃん、さらに地元のお祭りまで、本当に多種多様!
早速、写真を見ながら地元の方や湯治客におすすめしたい場所を話し合いました。
「どこを撮ってもなんだか絵になってしまう」というコメントに、わかるわ~と共感が続きました。
東鳴子温泉のお風呂は、こぢんまりとした貸切風呂(家族風呂)が多いのも特徴。貸切で人目を気にせずリラックスできるのは、のんびりと過ごしたい湯治客にとっても嬉しいですね。
「家庭と旅館の境界があいまいな雰囲気が、またいいですよね」と湯守の大沼さん。家庭のお風呂より広いから、足をのばしてリラックスできる。でも、こぢんまりしている。そんな東鳴子温泉のお風呂が、僕は好きです。
4.東鳴子温泉にほしいもの
◆湯治場での交通手段と体を動かせる場所
東鳴子温泉のステキな場所を話し合っているうちに、移動が不便ではないかという意見が出てきました。
環境省で「チーム・新 湯治」に長年関わる楠本さんからは、「僕は温泉地に泊まればジョギングしますけどね。広範囲を見れるしいいですよ」と提案も。
ランニングすると気持ちいいスポットや、ランニングステーションとしても便利な温泉などを紹介しても良いかもしれません。
また、東北デスティネーションキャンペーンで期間限定で設置されているレンタルEバイク(電気で楽にこげる自転車)があれば、徒歩では遠い潟沼や紅葉の名所・鳴子峡まで楽々移動できそうです。車でもいいけれど、風や空気を感じながら体を動かすと、その土地の恵みを全身で味わっているような気持ちになりますよね。健康にもよさそうです。
ということで、ランニングにおすすめな2つのルートを提案します。
1つめは、潟沼に行って戻ってくるコース。かなりの起伏があるので、Eバイクやマウンテンバイクで行ってもよいかもしれません。
2つめは、江合川に沿って川渡温泉に行って戻ってくるコース。こちらは平坦な道で、途中にコンビニなどもあって湯治中のちょっとしたランニングにもぴったりです。
◆湯治中の食事ができる食料品店や飲食店
また、湯治を体験した方からはこんなコメントもいただきました。
「地元の人も湯治客も集える食べ飲み所は必要かと」
「自炊湯治を推しているので、デリバリー・テイクアウトもできるお店が数件できるといいですね」
「(湯治中に)ときには外食もしたいけど、足もないしってのが本当に大変でしたね」
長期間にわたって自炊湯治をするには、東鳴子温泉のお店だけではちょっと心もとない状態です。パン屋さんやお総菜屋さんなどがあると、何かと便利ですよね。
菅野さんの「地元のひとがあったら便利と思うものを揃えていく、という視点がいいと思います!」という意見にはみんなも賛同。地元の方が常連さんになれば、湯治客「も」利用できますし、お店の経営も安定するはず。地元の方と湯治客とが混ざり合うステキな場所になりそうです。
今はないけど未来の東鳴子温泉にあってほしい場所について、話がふくらみました。地元の人の目線で考えると、湯治客にとっても嬉しい場所が考えられました。今は地図に載っていませんが、いつか地図に載り、地元の方と湯治客とが交流する場所になっていることを願い・・・1時間半のワークショップを終了しました。
なお、「人」を可視化する必要があるとのご意見もいただきました。公開することを考えると風景中心の写真になってしまいましたが、「ふるさと」のように感じるきっかけを作ってくれるのも「人」ですし、湯治場の癒やし効果に「交流」が多分に寄与しています。「人」を伝えることは、今後の宿題とさせていただきます。
ワークショップを振り返って
東鳴子温泉のファンの方々に集まっていただき、多方面から様々な意見をだしていただきました。ふだんなんとなく話しているだけでは気づかない視点をたくさんいただき、参加者の方々には感謝しかありません。
しかし、主催者としての反省点はたくさんあります。貴重な時間を割いてくださった皆様、申し訳ございません。
①会場参加者のことを考えていなかった
集音マイクを用意するなど、オンライン参加の方に声が届く工夫が必要でした。
②議論の進め方が雑だった
慣れない議事進行で焦ってしまい、皆さまの意見をしっかり聴くことができませんでした。せっかく集まっていただいたのに申し訳ございません。
③企画の狙いがあいまいだった
「未来の東鳴子温泉を訪れる湯治客に伝えたい場所をオンライン地図にする」という目的がブレッブレのまま、ふわっとしたワークショップを進めてしまい、途中で???となった方もいたことと思います。せっかく全国からファンに集まっていただくのですから、もっと皆さまの力を発揮できる運営が必要でした。
今度イベントを行うときは、これらの反省をふまえてより良いものにしたいと思います。あらためて、ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました!
最後に:終わりのない、ひとにやさしい温泉地づくり
誰もが心から温泉を楽しめることを目指して、学生時代にずっとお世話になった東鳴子温泉で「ひとにやさしい温泉地プロジェクト」を思いついてから、気づけば2年以上が経っていました。
大学を卒業し、就職し、気づけば鳴子になかなか通えないばかりか、コロナによってそもそも地域の存続自体が危ぶまれる状況になってしまいました。
2019年に初開催された「湯治ウィーク」を機にプロジェクトを始動させ、アンケートを行ったときに、ある方が自由記述に書いてくださったコメントが頭をよぎります。「一過性のイベントでは問題。ずっと続けていくなら応援する」ひとにやさしい温泉地づくりには終わりがありません。コロナ禍のなか、各地でより多くの方に楽しんでもらえるような環境づくりも進んでいます。これからも「東鳴子温泉 ひとにやさしい温泉地プロジェクト」の幟を下すことなく、着実に歩みを進めていきたいと思いました。
そして、温泉を利用するのは湯治客だけではないという当たり前のことが、今回の発見でした。湯治客にやさしい温泉地は、地元の方にとってもやさしくて住みよいのではないでしょうか。
自由な移動が制限され、旅とくらしのあり方が大きく変わった現在。ワーケーションや二拠点居住など、旅とくらしの境界は崩れつつあります。かつて農家さんや漁師さんが地元近くの温泉地に通っていた湯治を、マイクロツーリズムの源流ととらえる考え方もあります。
単なる旅行先を「ふるさと」に変えてくれた東鳴子温泉との出会いは、これからの湯治場づくりを考える上で忘れてはいけない僕の原点かもしれません。