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カツオの竜田揚げ

おにぎりは、神の力を授かるために米を山型(神の形)にしているという説があるそうです。
だからでしょうか、ぎゅっぎゅと握ったおにぎりを頬張っていると、飯碗でいただく時より元気が出そうな気がしてくるからふしぎ。
おにぎりで思い出すのは、『おむすびころりん』。
子供のころは、昔ばなしが大好きでした。正確に言うと、テレビアニメ『まんが日本昔ばなし』で、市原悦子さんと常田富士男さんの語りは今でもつよく印象に残っています。そのお二人の軽妙な掛け合いに引かれて初めて知ったお話はそれこそ枚挙にいとまがありません。
当時、週末になると近所にある祖母のところへ時々泊まりに行ったのですが、ほとんどN H Kの番組しかみない謹厳な人だったので、観たいアニメやお笑いがあってもその日ばかりは我慢していました。けれども『まんが日本昔ばなし』だけはなぜかチャンネルを譲ってくれて、自分も嬉々としていたのですが、今思うと、祖母にとっては子供向けの教育番組として捉えていたのかもしれません(確かにその一面もありましたが…)。
それはともかく、そこで紹介されるお話の中には、くだんの『おむすびころりん』のような愉快なものもあれば、思わず背筋が寒くなるものもありました。『牛鬼淵』『飯振山』『夜中のおとむらい』といったあたりは、子供心にゾッとした記憶があります。
そういった恐怖回に出くわすと、その後が大変です。
先日も少しふれましたが、祖母は、文房具店を一人で切り盛りしていて、ふだんはその二階部分で起居していました。
一階の店舗兼倉庫へは、傾斜のきつい階段をおりて行かねばならず、踏み外して怪我をしたことも一度や二度ではありません。そして下りた正面に和式トイレがありました。
大変と言ったのは、夜更けにトイレで目が覚めた時です。
隣りの祖母を起こさないようにソッと寝床を抜け出し、階段のところまで行くと、まるで崖の上に立たされたような気分になりました。谷底にある倉庫は暗く、シンと静まり返っています。
ねずみたちの楽しげな歌が聞こえてくるはずもなく、むしろ最前の怖い話で肝を冷やしたばかり。しばらくそこで堪えていましたが、やがて限界になり、清水の舞台から飛び降りるつもりで一気に駆け降りました。
用を足して戻る時も、絶対に暗闇の方へ目を向けることはありませんでした…。
ことほど左様に子供の頃の自分はたいへんな怖がり屋でしたが、それでも想像力だけはとても逞しかったと思います。
もし叶うことなら、もう一度あの夜にかえってリベンジ?したい、と今なら勇ましいことも言えますが、そこにはもう鼠の浄土も、はたまた化け物たちの百鬼夜行もなく、ただ鼻白んでいる自分がいるだけでしょう。
おにぎりを頬張りながら、ふとそんなことを思い返していると、なんだかまたあのお二人の声が恋しくなり、今夜あたり動画サイトで久しぶりに視聴してみようかな、という気になり始めています。

・カツオの竜田揚げ・なすの煮浸し・豆腐と油揚げの味噌汁・野沢菜漬け・山椒おむすび

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